ホセ・ビシオーソ、選手権を総括「来年は一日増やす」

「真の強者を炙り出す」過酷なコース設定への賛辞

ホセ・ビシオーソ会長は、グラナダで開催された今回のスペイン選手権について、まずそのコース設定を絶賛していましたね。「これほど要求の厳しいコースは、私がマドリードで大会を組織した時でさえなかった」という言葉には、彼の並々ならぬ自信が込められていました。登り勾配20%の激坂、テクニカルなカーブ、そして厳しい下り。まさに「淘汰のレース」であり、ここで勝つ選手は文字通り「最強」であると彼は断言しています。

グランツールを長年取材してきた私の目から見ても、近年のメジャーレースは、より過酷で戦略的なコース設定へとシフトしています。それは、単なる脚力だけでなく、総合的なレーススキルと精神力が問われる真のチャンピオンを決定づけるためです。今回のスペイン選手権のコースは、まさにそのトレンドを体現していたと言えるでしょう。そして、会長が特に強調していたのが安全面です。ガード・シビルの全面的な協力により、コース上から車両を完全に排除できたこと、そして落車や事故が一切なかったこと。「それが最も心配なことだった」と語る会長の言葉には、選手への深い配慮が滲み出ていました。安全が確保されてこそ、選手たちは最高のパフォーマンスを発揮できるのですから、これは本当に素晴らしい成功です。

「見えない戦い」テレビ中継とタイム計測の舞台裏

しかし、完璧な大会運営の裏には、避けられない課題も存在しました。特に、多くのファンが不満を漏らしたのがテレビ中継とタイム計測の問題です。会長は、テレビ中継について「山岳地帯の地形が非常に複雑で、電波状況が悪かった」と正直に認めていました。それでも「ライブ中継にこだわった」という言葉からは、ファンにリアルタイムで興奮を届けたいという強い思いが伝わってきます。現代のレース中継は、ドローンやオンボードカメラなど技術の進化が目覚ましいですが、やはり自然を相手にするロードレースでは、技術だけでは解決できない壁があるのも事実。それでも、この正直な姿勢には共感を覚えますね。

さらに、タイムトライアルでのタイム計測の混乱についても言及がありました。「ロモがロメオのチップを付けていた」といった、選手側のチップ装着ミスが原因の一部であったとのこと。「手動計測のベテラン審判が正確なタイムを記録していたから問題なかった」という説明は、現代の電子計測システムに頼り切るだけでなく、長年の経験に裏打ちされた伝統的な計測方法が、いざという時にレースの公平性を保つ上でいかに重要であるかを再認識させられました。テクノロジーと人の目、その両輪が揃って初めて、正確なレースが成立するのだと改めて感じさせられます。

プロ選手参加への「義務化」論議とスペイン自転車界の未来

ホセ・ビシオーソ会長のインタビューで、特に私が注目したのは、プロ選手の国内選手権への参加義務化に関する彼の強いメッセージです。「プロの選手たちは、スペイン自転車界にコミットすべきだ」と彼は語り、将来的には国内選手権への参加を「義務化」する可能性を示唆しました。今大会では、カルロス・ロドリゲスやアユソといったトップ選手が欠場したことに触れ、「彼らのカレンダーを理解はするが、チームと話し合う必要がある」と述べています。

これはスペインに限らず、多くの国で議論されるテーマです。多忙なワールドツアーカレンダーの中で、国内選手権にどこまで優先順位を置くか。しかし、国内選手権は、若手選手がプロの走りから学び、ファンが身近にトップ選手と触れ合う貴重な機会でもあります。何より、その国の自転車競技のレベルを示す「顔」となる大会です。会長の言葉の裏には、国内自転車界の活性化と、ファンへの感謝の気持ちがあるのだと感じました。選手たちが国内選手権に参加することは、単なる義務ではなく、自らのルーツへの敬意であり、未来のサイクルロードレースを担う子供たちへのメッセージでもあるのではないでしょうか。

来年への期待：「もう一日」の追加とサビニャニゴの可能性

今回の選手権の課題として、ホセ・ビシオーソ会長は「プログラムが集中しすぎた」ことを挙げていました。スタッフが早朝から深夜まで働き詰めだったことに触れ、「来年はもう一日追加することを検討したい」と語ったのは、現場の状況をよく理解しているからこその発言でしょう。過酷なレースを支えるスタッフの負担軽減は、大会の持続可能性を考える上で非常に重要です。

そして、来年の開催地については、早くも「サビニャニゴ」が候補に挙がっているとのこと。ここは、アマチュアレースの金字塔「ケブランタウエソス」の開催地としても知られています。あの組織力がスペイン選手権の運営に加わるとなれば、これは非常に楽しみなニュースです。さらに、コース設定には元プロ選手で、グランツールでも活躍したフェルナンド・エスカティンが関わる可能性も示唆されました。彼の経験と知見が加わることで、来年のコースはさらに戦略的でドラマチックなものになるかもしれませんね。

ホセ・ビシオーソ会長の言葉からは、スペイン自転車界が抱える課題と、それらを乗り越え、さらに発展させていこうとする強い意志がひしひしと伝わってきました。テレビ中継やタイム計測の改善、そしてプロ選手の参加義務化といった議論は、今後のスペイン選手権、ひいては世界のサイクルロードレースのあり方にも影響を与えるかもしれません。来年のスペイン選手権が、どのような進化を遂げるのか、今から楽しみでなりません。私たち日本のファンも、彼らの挑戦を温かく見守っていきましょう。