フランス国民の間に広がる不和と不満

悲劇の地を越え、混沌のステージへ

水曜日のツール・ド・スイス第4ステージは、ある意味で非常に象徴的な一日でした。選手たちは、2年前にジーノ・メーダーが命を落としたクールを通過しました。その悲劇の記憶がまだ生々しい中、彼らは立ち止まることなくペダルを回し続けました。レースには、そうしたセンチメンタルな感情を乗り越えさせるほどの、大きな「利害」と「戦略」が渦巻いているのです。

この日は序盤から猛烈なハイスピードで展開されました。追い風にも乗り、時速55kmを超えるスピードで最初の2時間が消化されたというから驚きです。各チームはこぞって選手をエスケープに送り込もうとしましたが、勝負の明暗を分けたのはただ一つの山岳、シュプリューゲン峠でした。雪を抱くその頂へ向かう登りで、動きを見せたのはUAEチームエミレーツ。彼らは総合リーダーのロマン・グレゴワールと、そのすぐ後ろにつけるケヴィン・ヴォークランに対し、3分ものタイム差を挽回するという明確な目標を持っていました。ポルトガル人エースのジョアン・アルメイダは、山頂まで残り5kmを切った地点でアタック。アルケア・B&Bホテルズ-B & BHotelsのヴォークランに20秒、グルパマ・FDJのグレゴワールには1分以上の差をつけて山頂を通過しました。しかし、最終的にグレゴワールとヴォークランは同タイムでフィニッシュ。アルメイダにはボーナスタイムを含め1分10秒もの差をつけられてしまったのです。正直、これは「もったいない」としか言いようがありませんでした。

連携か、それとも自己保身か？フランス勢の苦悩

レース後、特に不満を露わにしていたのはケヴィン・ヴォークランでした。テクニカルな下り後の平坦な偽り登りでの展開について、彼はこう語っています。「オスカー・オンリーとベン・オコーナーに追いつくためにアタックした時、ロマンに一緒に牽くように頼んだんです。でも彼は『できない』と。もう一度アタックしたら、『自分には選択肢がある』と返ってきた。彼は僕をマークすることを選んだんです、まるでいつもそうであるかのように。もし3人から6人が協力し合っていたら、アルメイダは最後まで逃げ切れなかったでしょう。もっと大きな結果を狙えたはずなんです。スプリントでは、僕ら二人が一番強かったかもしれない。彼の選択も尊重できるけど、正直言って腹立たしい。実にバカバカしいタイムを失ってしまった。」

ヴォークランのこのコメントには、彼のフラストレーションが凝縮されているのが分かります。チームメイトではないとはいえ、フランス人選手として、総合上位を争う者同士として、もっと協力できたのではないかという思いがそこにはあったのでしょう。

一方、マイヨ・ジョーヌを堅持したロマン・グレゴワールの見解は、当然ながら異なりました。「アルメイダ、オンリー、オコーナーにタイムを失うことは、それほど深刻ではない」と彼はL'Équipeのインタビューで語っています。「このマイヨ・ジョーヌを最後まで守り切るのが難しいことはよく理解していました。僕の目標は、もう一日このジャージを守ること。だからこそ、ケヴィン（25秒差）やジュリアン（アラフィリップ、29秒差）に集中したんです。」

なるほど、グレゴワールはヴォークランとのタイム差、そしてアラフィリップとのタイム差を警戒し、彼らをマークすることで総合リーダーの座を守ることを優先した、というわけです。これはリーダーとしての冷静な判断とも言えますが、ヴォークランからすれば「なぜ今、フランス人同士で潰し合うのか？」という疑問符が付くのも無理はありません。

そんな中、救いの手を差し伸べたのが、ベテランのジュリアン・アラフィリップでした。総合のトップ2が協力しない中、アラフィリップは登りでグレゴワールをアシスト。「ジュリアンがいてくれて本当に助かりました。彼には一杯おごらないと。ひどい状況から救ってくれました」とグレゴワールも感謝の言葉を述べています。フランスの若手選手を高く評価しているアラフィリップらしい、粋な計らいでしたね。

漁夫の利を得たUAE、静かに迫る総合優勝の影

フランス勢の足並みが揃わない状況を、誰よりも歓迎していたのはUAEチームエミレーツでしょう。チームのシモーネ・ペドラッツィーニは「我々にとっては良かったね（笑顔）。彼らが協力しないことを願っていたし、その通りになった。これで少し希望が持てたよ」と、まさに漁夫の利を得た表情で語っています。

この日の結果、ジョアン・アルメイダは総合7位まで順位を上げ、グレゴワールとは2分7秒差、ヴォークランとは1分42秒差にまで詰め寄りました。これはもう、総合争いの様相がガラリと変わったことを意味します。これまで「総合は狙っていない」と公言していたグルパマ・FDJのウィリアム・グリーン監督も、「ロマンが今日（水曜日）どう登ったか、皆さんも見ただろう。彼のパフォーマンスは、本来のレベルを上回っていた」とグレゴワールの健闘を認めつつも、どこか諦めにも似たニュアンスを漂わせているようでした。

若き才能の成長と、残された総合の可能性

しかし、アルケア・B&Bホテルズ-B & BHotelsのマキシム・ブーエ監督は、ケヴィン・ヴォークランの健闘を称えつつ、今後の可能性に言及しています。「グレゴワールの『とんでもない下り』には感心したが、少し残念な気持ちもある。報われなかったと感じる。しかし、ケヴィンが山頂でどうだったか見てほしい。彼はレースで最初に恐れられていた選手で、アルメイダにわずか20秒しか遅れていなかった。これは今後のメンタル面で彼に役立つだろう。」

ヴォークラン自身も、フローランス・ノルマンとして、まだ諦めてはいません。「自分の登りには本当に満足している。食らいついたし、特に精神的に限界を押し上げた。長くて、高くて、この種の登りでは体がまだ慣れていない努力だった。でも調子は良いし、まだ総合を失ったわけじゃない、ポジティブだ」と力強く語っています。ブーエ監督はソロバンを弾くようにこう続けます。「今日は1分、明日もまた1分、そして日曜日のタイムトライアル…差は縮まっている。まだ4日ある。なぜ優勝を狙わないんだ？」

確かに！この日の結果、アラフィリップも総合順位を一つ上げ、若手二人の後ろでフランス人選手による表彰台を形成しました。しかし、これはUAEチームエミレーツの猛攻や、各チームの戦略の前には長くは続かないでしょう。

ツール・ド・スイスの総合争いは、まだ混沌としています。特に最終日の個人タイムトライアルは、グレゴワールよりもヴォークランに分があるはず。今回のフランス勢の「すれ違い」が、最終的にどのような形で彼らの、そしてジョアン・アルメイダの運命を左右するのか。今後の展開から目が離せませんね。