動画：ランス・アームストロング、ビール広告に7つのイエロージャージを使用

山田 健一の視点から、今回のニュースについて考察していきましょう。

剥奪された「黄色」を纏う男：ランス・アームストロング、その複雑な広告戦略

サイクルロードレースの世界で、これほどまでに毀誉褒貶が激しい人物は他にいないでしょう。かつてツール・ド・フランスを7連覇した伝説の存在でありながら、ドーピングによってその全ての栄光を剥奪されたランス・アームストロング。彼が、非アルコールビールの広告に登場し、自らの家に飾られた7枚のマイヨ・ジョーヌを披露しているというニュースは、日本のロードレースファンの皆さんにとっても衝撃的だったのではないでしょうか。現役時代、圧倒的な強さで世界を席巻した彼は、引退後もその存在感で私たちを驚かせ続けています。この広告が意味するもの、そして彼が今もなお「黄色」にこだわる理由とは一体何なのでしょうか。

「黄色には何かがある」――アームストロングが語る「真実」

アスレチック・ブリューイング社の広告映像には、ランス・アームストロングが自宅と思しき場所で、壁に掛けられた7枚の鮮やかなマイヨ・ジョーヌを背に登場します。彼が口にする「黄色には何かがある」という言葉は、ロードレースファンであれば誰もがその重みに唸らされるはずです。ツール・ド・フランスの総合リーダーに与えられるマイヨ・ジョーヌは、単なる一枚のジャージではありません。それは、選手が経験した苦しみ、栄光、そして何よりも勝利への執念の象徴であり、ロードレースの歴史そのものを体現する色であると言えるでしょう。

アームストロングが手にしているのは、黄色のラベルが貼られたビール。カメラがマイヨ・ジョーヌの列から彼へと滑らかに移動する演出は、彼のキャリアと、ドーピングによって剥奪された栄光の間に横たわる複雑な関係性を暗示しているかのようです。彼がキャリアの中で83回もマイヨ・ジョーヌを着用し、1999年から2005年まで7年連続でパリの表彰台の頂点に立った事実は、今も多くの人々の記憶に深く刻まれています。しかし、その輝かしい記録が2012年に全て抹消され、翌年には彼自身がEPO、輸血、コルチゾン、成長ホルモン、テストステロンといったドーピングの使用を告白したことは、ロードレース史における最大の汚点として語り継がれています。この広告は、アームストロングが自らの過去とどう向き合い、あるいは向き合おうとしないのか、その「哲学」を改めて私たちに突きつけているように感じられます。

剥奪された栄光と、消えない記憶の狭間で

ランス・アームストロングのドーピング告白は、ロードレース界に激震をもたらし、多くのファンの心を深く傷つけました。彼の勝利が不正によって得られたものであったという事実は、当時のレースをリアルタイムで見ていた私たちにとって、まさに「そうだったのか！」と衝撃を受けると同時に、「確かに！」と共感を呼ぶような、複雑な感情を呼び起こすものでした。それでもなお、彼の名前はロードレースの歴史から完全に消えることはありません。なぜなら、彼の時代に繰り広げられた激しい戦い、そして彼がもたらしたロードレースへの注目度は、紛れもない事実だからです。

この広告は、彼が剥奪されたはずのマイヨ・ジョーヌを堂々と見せつけることで、その「消えない記憶」を逆手に取っているかのようです。果たしてこれは、過去の過ちを乗り越え、新たなスタートを切ろうとする彼の試みなのか、それとも、未だに「自分こそが真の勝者である」という彼のプライドの表れなのでしょうか。ファンそれぞれが抱く彼のイメージは異なるでしょうが、この広告が再び彼への議論を巻き起こすことは間違いありません。

レジェンドの肖像：メディアとロードレース界の距離感

ランス・アームストロングは、ドーピング告白後もポッドキャストを立ち上げたり、ロードレースに関する自身の見解を発信したりと、積極的にメディアに登場し続けています。最近では、ヤン・ウルリッヒやブラッドリー・ウィギンスといったかつてのライバルたちとの関係について語り、タデイ・ポガチャルを「史上最高」と評する一方で、ウィギンスに反論されるなど、その言動は常に注目を集めています。彼の存在は、ロードレース界が過去の「ドーピング時代」とどう向き合い、乗り越えていくべきかという、根源的な問いを常に私たちに投げかけています。

この広告は、アームストロングが今もなお「レジェンド」として扱われることの是非を、改めて問いかけているのかもしれません。彼が自らの過去を利用してビジネスを展開することに対し、賛否両論が巻き起こるのは当然のことです。しかし、彼の行動は、ロードレースという競技が持つ光と影、そして人間の複雑な感情を浮き彫りにしているとも言えます。我々ファンは、彼の行動をどう受け止め、ロードレースの未来をどう見つめていくべきなのでしょうか。

今後も、ランス・アームストロングの動向は、ロードレース界に様々な波紋を投げかけることでしょう。そして、その度に私たちは、この美しいスポーツが背負ってきた歴史と、これから歩むべき道を深く考える機会を得るはずです。