フラン・ムニョス

プーリアの熱風、コルサ・ローザ最長単独逃げの記録

ジロ・デ・イタリアは最初の数日をアルバニアで過ごした後、イタリア本土、南部のプーリア州に上陸しました。そのプーリアの熱と風が吹きつける中行われた第4ステージで、一人の若者がスタートから飛び出しました。フラン・ムニョス、まだ23歳のスペイン人です。

彼はなんと、132.5キロメートルもの距離を単独で逃げ続けたのです。他の選手が追従してこなかったことに驚きつつも、「目立つチャンスだし、ジロとチームに敬意を表したかった」と、ゴール後に語った彼の言葉が印象的でした。この132.5kmという距離は、データによれば今世紀のジロ・デ・イタリアにおける単独逃げの最長記録だというから驚きです。

アルベルト・コンタドールとイバン・バッソが関わるイタリア籍チーム、チーム ポルティ・ヴィジットマルタのカラーを纏い、プーリアの景色の中をただ一人ペダルを回し続ける姿は、まさにロードレースの原風景を見ているようでした。集団に吸収されることは分かりきっていても、その「逃げる」という行為そのものに価値を見出す、そんな彼の姿勢に心打たれたファンも多かったのではないでしょうか。

落車を乗り越え、チームが語る「カチョ・デ・パン」

レースは終盤、ゴールまで残り22km地点で集団落車が発生し、なんとマリア・ローザを着ていた選手も巻き込まれました。フラン・ムニョスもこの落車に巻き込まれたのですが、幸い大事には至らず、再び走り出すことができました。

最終的に、このステージの勝利は集団スプリントを制したファン・ウーデン（ピクニック・ポストNL）の手に渡りました。彼は優勝候補ではなかっただけに、サプライズ感のある勝利でしたね。

チーム ポルティ・ヴィジットマルタのステファノ・ザナッタ監督は、「他のチームが動くと思ったが、そうはならなかった。皆の、特にフランの努力に満足している」と、チームのプレスリリースで語っています。そして、チームのフィジカルトレーナーを務めるカルロス・バレッドは、このメディアにフラン・ムニョスについてこう語ってくれました。「彼はまだ経験は少ないが、ポテンシャルは高い。去年のジロでも良い走りを見せた。ルーラーだが、山もこなせる。そして、チームメイトや皆にとって『カチョ・デ・パン』（スペイン語で「パンのかけら」転じて「とても良い人」という意味）のような存在だ。チーム内でとても慕われているよ。常に自分の計画を完璧に実行する。火曜日のジロで見せたような走りだ」。この言葉を聞いて、彼の献身的な単独逃げが、チームの中でどれだけ評価されているかがよく分かりました。

痛みに耐え抜いたアンダー23時代の「レジェンド」

フラン・ムニョスのルーツを最もよく知る人物の一人に、ラボラルクチャ・フンダシオンエウスカディのディレクター、ラファ・ディアス・フストがいます。彼がこのメディアに語ってくれたエピソードは、まさに衝撃的でした。

「2022年のジロ・アンダー23で、彼と一緒にとても過酷なステージを経験したんだ。フランはグローブを使わないタイプのライダーだったんだけど、落車に巻き込まれてしまってね。手のひらをアスファルトに強く打ち付けて、ひどい火傷を負ったんだ。ホテルに戻ってシャワーを浴びている時に、痛みのあまり失神してしまったんだよ。手は生肉のようになっていた。それでも彼はジロを走り切った。あれは人生の教訓だったね」。

電話の向こうで語られるディアス・フストの言葉に、「へぇ～、そんなことが…」と思わず唸ってしまいました。想像を絶する痛みに耐え、レースを投げ出さなかった彼の精神力。今回のジロ第4ステージでの粘り強さも、この時の経験に裏打ちされているのかもしれません。まさに「そうだったのか！」という背景説明ですね。

ディアス・フストは、フラン・ムニョスをラボラルクチャ・フンダシオンエウスカディの育成部門に引き入れた人物でもあります。「彼がジュニア時代にコパ・デ・エスパーニャで良い成績を出していた時に声をかけたんだ。契約したら、2023年にコパ・デ・エスパーニャで優勝した。多くの選手がプロに上がった素晴らしいチームの中で、彼は隠し玉だったんだ。そして今、プロとして、大きなエンジンを持つポリバレントな選手、山もこなせる選手だと見ている。彼は引っ張れるタイプの『ペルチェロン』（大型の役馬）で、グランツールの第3週でも勝てる可能性がある。まだまだ成長の余地は大きいよ」。

コンタドールのチームで描く未来

ジロ開幕前のアルバニアで、フラン・ムニョス本人に話を聞く機会がありました。今年のジロへの意気込みについて、「去年経験を積んだので、一日一日、何ができるか見ていきたい。総合成績を狙うピガンツォーリ、スプリントのロナルディと良いチームがいるけど、最終的なチームの目標はステージ優勝だ。このレースに参加できるのは誇りだよ。去年よりも改善したい。一歩前進しないと、後退することになるからね。ピガンツォーリは確実にステップアップしている。スペイン勢では、アユソが優勝を狙える位置にいると思う。スペインのサイクリングは良い結果を出せるはずだ」と語っていました。

プーリアの熱い日差しの中、集団がフラン・ムニョスを追いかける姿を見ながら、私はラファ・ディアス・フストが語ってくれたシャワー室での出来事を思い出していました。すぐに忘れ去られる逃げもあれば、フラン・ムニョスのように、その選手の持つコラヘ（勇気）を証明する逃げもある。アンダー23時代の壮絶なエピソードが、彼のプロ選手としての土台を築き、今回のジロでの輝きに繋がっているのでしょう。

アルベルト・コンタドールのチームで、彼がこれからどんな「なるほど！」と思わせる走りを見せてくれるのか、そしてディアス・フストが言うようにグランツールの第3週で輝く日が来るのか、次も読みたい！と思わせる期待感でいっぱいです。コルサ・ローザはまだ始まったばかり。フラン・ムニョスから目が離せませんね。