ジロ・デ・イタリア

スプリンターたちの秘めたる戦術：序盤のアップダウンが鍵を握る

昨日の消耗戦を終え、総合勢が一息つきたいと願う中、今日の主役は間違いなくスプリンターたちです。しかし、このステージが完全に平坦かと言えば、そうではありません。スーダル・クイックステップのマニエールも指摘していたように、**最初の80kmは細かなアップダウンが続きます。**これは、スプリンターにとって決して楽な区間ではない。彼らはこの序盤で脚を消耗しすぎず、かつ集団から遅れないように集中力を保つ必要があります。

私自身の長年の取材経験から言えば、この手のステージで最も重要なのは、チーム全体の連携です。スプリンターを抱えるチームは、序盤の緩やかな丘陵地帯でペースをコントロールし、エーススプリンターを消耗させないよう細心の注意を払います。特に、集団が分断されるようなペースアップや、予想外のアタックがあった場合、彼らは瞬時に対応しなければなりません。これはまさに、チームの総合力が試される場面だと言えるでしょう。一見地味に見えるこの序盤戦こそ、最終的な集団スプリントの行方を左右する、水面下の激しい戦術が繰り広げられるのです。

モデナ：伝説が息づくスタート地点

今日のスタート地点であるモデナは、単なる通過点ではありません。この街は、イタリア自転車史にその名を刻む偉大なチャンピオン、ファウスト・コッピの伝説が始まった場所として知られています。まさに「そうだったのか！」と膝を打つような歴史的背景がここにはあるのです。

1940年のジロ・デ・イタリア、ファウスト・コッピはここモデナからプロとして初めてジロに出場し、その年の総合優勝を飾りました。当時20歳、彼はまだ無名のルーキーでありながら、その才能を爆発させ、マリア・ローザを獲得したのです。この快挙は、彼が「カンピオニッシモ（偉大なるチャンピオン）」と呼ばれるようになる第一歩となりました。

現代の選手たちが、コッピがかつて駆け抜けた道を走る。この事実を知ると、ただのレースレポートも一気に奥行きを増すように感じませんか？ 私はいつも、こうした歴史の繋がりを現地で肌で感じながら、レースの持つ多層的な魅力を日本の皆さんにお伝えしたいと考えています。過去の偉大な魂が、今日のレースにも影響を与えているかのように思えてなりません。

ヴィアダーナへの直線：集団スプリントの舞台裏

バイゾとボルセアという二つの3級山岳を越えれば、コースは一転してヴィアダーナへと続く広大な平坦路に変わります。この約80kmの区間、そしてヴィアダーナ市内を周回する27kmのサーキットが、純粋な集団スプリントを約束する舞台となるでしょう。

特に注目すべきは、ゴール前3km地点にたった一つしかないカーブです。これは、スプリンターチームのリードアウトトレインにとって、まさに腕の見せ所。「なるほど！」と思わず唸ってしまうほど、この一点に集中する戦術が展開されます。最後のカーブをいかに良い位置でクリアするか、それが勝敗を分けると言っても過言ではありません。各チームのリードアウトマンたちは、エースを最高のポジションに送り出すため、まさに命を懸けた熾烈な場所取り合戦を繰り広げます。ゴールラインに向けての直線は、時速70kmを超える超高速バトル。風の抵抗、ライバルチームとの間合い、そしてエースとの信頼関係…全てが完璧に噛み合わなければ、勝利は掴めないのです。

マリア・チクラミーノの行方：マッズ・ピーダスンへの期待

そして、このスプリントステージで最も注目すべき選手の一人は、現在マリア・チクラミーノ（ポイント賞ジャージ）を着用するマッズ・ピーダスン（リドル・トレック）でしょう。彼はこのステージで、さらなるポイント加算を狙っています。

ピーダスンは、単なるスプリンターではありません。彼はタフなコースもこなせるオールラウンダーであり、特にこのような細かなアップダウンを含むステージでは、その強さが際立ちます。中間スプリントポイントはもちろん、ステージ優勝を狙って、チーム一丸となって彼は動くはずです。他の有力スプリンターたち、例えばティム・メルリエ（スーダル・クイックステップ）やカレブ・ユアン（ジェイコ・アルウラー）なども虎視眈々と勝利を狙っているはず。彼らがどのような戦略でピーダスンに挑むのか、あるいは彼らが序盤のアップダウンでどう脚を温存するのかも、見どころの一つです。

今日のステージは、総合争いから一瞬解放されたかのように見えて、実はスプリンターたちの激しいプライドと戦略がぶつかり合う、非常に見応えのある一日となるでしょう。ヴィアダーナのゴールラインで、果たして誰が最高の咆哮を上げるのか。次も読みたい！そう思わせるようなドラマが、きっと生まれるはずです。