ゴデュ、予期せぬ苦境

予期せぬ苦難：総合エースの失速

第11ステージ、イタリア中部のヴィアレッジョからカステルノーヴォ・ネ・モンティへ向かう道のりは、ダヴィド・ゴデュにとってまさに地獄絵図となりました。総合上位を狙う選手として、この日の山岳ステージで存在感を示すはずだった彼ですが、レース序盤のアルペ・サン・ペッレグリーノの急勾配、最大19%にも達する牙を剥くような坂で、あっという間にメイン集団から遅れてしまったのです。私は現地で、彼の表情に焦りの色が浮かんでいるのを見逃しませんでした。

最終的に、彼はトップから27分40秒もの大差をつけられ、126位でフィニッシュラインを越えました。この結果、総合順位は45位、首位からは35分42秒遅れという、彼の本来の実力からは考えられない位置に沈むことになりました。グランツールにおいて、一度これほどのタイム差を許してしまえば、総合優勝の夢は脆くも崩れ去ると言わざるを得ません。彼のジロでの野望は、この日をもって事実上終焉を迎えたのです。

落車と抗生物質：満身創痍のゴデュ

ダヴィド・ゴデュの今回の失速は、単なるコンディション不良だけが原因ではありません。背景には、彼が抱える深刻な身体的問題がありました。遡ること日曜日、グラベル区間を含む「白い道」で知られる第7ステージでの落車が、彼の運命を大きく狂わせたのです。この落車で、彼は右手に深い傷を負いました。月曜日に彼に話を聞いた際、「少し腫れていて、最初は3針縫ったんです。そのうち1針はもう取れてしまいましたが」と、痛々しい現状を明かしてくれました。

さらに、傷口からの感染を防ぐためか、彼は落車以来抗生物質を服用しているとのこと。プロの選手にとって、体内で異物と戦いながら、世界最高峰のレースを戦い抜くことがどれほど過酷なことか、想像に難くありません。水腫や痛み、こわばりといった症状も抱えながらの走行は、まさに満身創痍。彼の表情からは、肉体的な苦痛と、それによって思うような走りができないことへの精神的な葛藤が読み取れました。これが、彼のパフォーマンスに大きく影響していることは間違いありません。

総合からステージへ：残された希望

総合エースとしての役割を事実上終えたダヴィド・ゴデュですが、彼のジロが完全に終わったわけではありません。彼は私にこう語っていました。「総合争いから外れたら、チームと一緒にステージ優勝を狙ってエスケープ（逃げ）に加わる日を決めています。ステージ勝利を狙いに行きますよ」。この言葉は、彼のプロとしての気概と、まだ諦めない強い意志を感じさせました。

チームにとっても、エースが総合から脱落した以上、戦略の転換を余儀なくされます。残りのステージで、ダヴィド・ゴデュをステージ優勝狙いの逃げに送り込むことは、チームの存在感を維持し、スポンサーへの露出を増やす上で極めて重要な意味を持ちます。過去にも、総合優勝を諦めた選手が、素晴らしいステージ勝利を飾る例は数多く見てきました。例えば、ツール・ド・フランスで総合争いから脱落した選手が、山岳ステージで鮮やかな勝利を挙げる姿は、ファンの記憶に深く刻まれます。ゴデュの胸中はいかばかりか、苦渋の決断だったでしょうが、ここからの彼の走りに、新たなドラマが生まれるかもしれません。

ファンからの声：期待と現実の間で

今回のダヴィド・ゴデュの状況について、フランスの現地メディアのコメント欄には、様々な意見が寄せられています。特に目立つのは、「毎回のグランツールで同じような記事を読んでいる気がする」「彼はおそらく総合ではなく、ステージ勝利を狙うべきだ」といった声です。これは、彼の才能を認めつつも、グランツールでの総合優勝には何かが足りないのではないか、というファンの正直な思いの表れでしょう。

確かに、ダヴィド・ゴデュは素晴らしいクライマーであり、爆発力も持ち合わせています。しかし、グランツールを総合で戦い抜くには、その爆発力に加え、21日間安定したパフォーマンスを維持する能力、そして不測の事態にも対応できる精神的な強さが求められます。今回の落車と体調不良は不運な出来事でしたが、こうしたアクシデントもまた、グランツールの厳しさの一部。彼のキャリアを考えると、ファンの指摘も一理あるかもしれません。総合でトップ5に入る力は間違いなくあるものの、優勝となると、もう一歩、何かが足りない。それが、彼の常に抱える課題でもあるのです。

ジロの残された日々、そして未来へ

ダヴィド・ゴデュにとって、このジロ・デ・イタリアは総合優勝への挑戦という点では苦い結果に終わってしまいましたが、彼がステージ優勝を狙うと明言したことは、私たちファンにとって新たな楽しみを提供してくれます。痛みを抱えながらも、泥臭く、しかし力強く逃げ集団の中で勝利を掴み取る姿は、きっと多くの人々の心を打つでしょう。

この週末には再び山岳ステージが控えています。果たして、このジロで彼は再び輝きを取り戻せるのだろうか？彼の今後の動向、そしてグルパマ・FDJ-FDJの戦略に、引き続き注目していきましょう。彼のキャリアの新たなフェーズが、このジロで始まるのかもしれません。