スペイン王者イバン・ロメオ、ツールで「チャンスは掴む」

イバン・ロメオ、スペイン王者の栄光とツールへの挑戦：狙撃手の覚悟

スペイン選手権ロードレースで、若き才能イバン・ロメオが鮮やかな勝利を収めました。まさに「狙撃手（フランコティラドール）」という表現がぴたりとハマるような、その決定的なアタックは、彼の新たな時代を告げる狼煙のようです。今夏、キャリア初のツール・ド・フランスに挑む彼が、一体どのような輝きを放つのか。私は現地グラナダでの彼の勝利の舞台裏、そしてツールでの秘めたる野心に迫ってきました。

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グラナダの狂乱、そして栄光の単独アタック

スペイン選手権ロードレース、グラナダの地は熱狂に包まれていました。イバン・ロメオ選手が優勝した翌朝、彼に話を聞くと、「正直、昨晩は少し寝付けなくて。勝利の後はいつもそうなんです」と、少し照れくさそうに笑いました。しかし、その表情には確かな充実感が漂っていましたね。

レースはまさに「狂乱」と呼ぶにふさわしい展開だったようです。「どうやって勝てたのか、自分でもよく分からないくらいクレイジーなレースでした」と振り返るイバン・ロメオ。残り100kmの時点で、すでに先頭集団はわずか20人。そこからはもう、アタックとカウンターアタックの応酬、まさに息をのむような展開が繰り広げられたといいます。彼の「遠くからアタックを仕掛けるのが自分の持ち味」という言葉通り、クエンタル貯水池の登りで決定的な単独アタックを敢行。残り20kmを切ってからの独走は、一度抜け出せば捕まることはないという彼の自信の表れでした。あの瞬間、彼の目に映っていたのは、栄光の「スペイン王者」のジャージだったに違いありません。

ツール・ド・フランスへの視線：カーンのTTとエンリク・マス

今回のスペイン選手権優勝は、イバン・ロメオ選手にとって、今夏控えるツール・ド・フランス初出場へ向けた最高の弾みとなったことでしょう。彼は目を輝かせながら、「ツールは僕にとって最大の夢なんです。心から楽しみたい」と語っていました。特に注目しているのが、ツール序盤に設定されているカーンでの個人タイムトライアル（TT）です。彼の持つTTの能力は高く評価されており、「あのTTは目標の一つです。良いコンディションを維持して、良い走りをしたい」と、明確な意欲を見せていました。

しかし、彼の役割は単なるステージハンターに留まりません。モビスターのエース、エンリク・マスを支えることも、彼の重要な任務です。「特にツール最初の1週間は、エンリクを全力でサポートすることが重要になるでしょう」と、チームプレーヤーとしての意識も高い。自身のパフォーマンスを追求しつつ、チームのために尽力する。この二つのバランスをどう取るかが、彼のツールでの鍵となるはずです。

「私はイバン・ロメオ」：独自の道を切り開く新星

イバン・ロメオ選手は、その才能から「新しいミゲル・インデュライン」「ホセ・イバン・シェイラ・グティエレスの後継者」といった称賛の声が上がっています。しかし、彼自身はそうした評価に惑わされることなく、地に足をつけています。「僕はイバン・ロメオです。過去の偉大な選手たちのようになるつもりはありません。自分自身の道、自分自身の個性を築いていきたい」と力強く語る姿は、非常に印象的でした。

彼は「多くのレースで勝つタイプではないかもしれないけど、僕が勝つレースはきっとみんなに楽しんでもらえるはず」と、自身のスタイルを確立しつつあります。ドーフィネ、バレンシア一周、そして今回のスペイン選手権と、今シーズンすでに3勝を挙げているにもかかわらず、彼はまだ満足していません。「もしシーズン前に今年3勝できると言われていたら、迷わずサインしていました。でも、僕は常に高みを目指す人間なので、もしこの先全てがうまくいかなかったら、苦い後味を残すでしょうね」と、その向上心はとどまるところを知りません。この貪欲さが、彼をさらなる高みへと押し上げる原動力となるでしょう。

チームの信頼と家族の絆

モビスターという名門チームが、イバン・ロメオ選手に寄せる信頼は厚いようです。スペイン選手権でも、彼は「チームから責任を与えられた」と語り、それがモチベーションにつながったと言います。ツールではチームのエース、エンリク・マスのサポートが主となりますが、それでも「きっとチャンスは巡ってくるはず」と、自身の可能性を信じています。エウセビオ・ウンズエGMをはじめとするチーム首脳陣が彼に与えているのは、「自由でありながら、プレッシャーを与えない」という、現代のプロトンでは稀有な環境だそうです。「今の時代、そういう環境を見つけるのは本当に難しいことなんです」と、彼は心からの感謝を述べていました。

そして、彼の活躍を一番喜んでいるのは、やはり家族でしょう。「彼らにとっては本当に特別なことなんです。いつも僕の最大の支えでいてくれました」と、家族への思いを語るイバン・ロメオ。昔、ジュニア時代にたくさん勝っていた頃の感覚が、今「別のカテゴリーで戻ってきた」と表現する彼の言葉からは、家族との温かい絆がひしひしと伝わってきます。勝利の喜びを分かち合う家族の姿は、まさに彼の原動力そのものだと言えるでしょう。

黄金時代のサイクリングと未来への問い

今年のツール・ド・フランスでは、イバン・ロメオ選手はポガチャルやヴィンゲゴーといった現役最強の選手たちと直接対決することになります。彼らに最も感銘を受けるのは何かと尋ねると、「彼らがどれほど速いのか、多分、僕は何も感じ取れないでしょうね」と、そのレベルの高さに驚きを隠せない様子でした。「毎年ツールを見るのが大好きなんですけど、今年は走り終わった後もまた見たいと思うかな…変な経験になるでしょうけど、本当に素晴らしいことだと思います。彼らのような選手たちが鎬を削るのを間近で見られるのは、僕らにとっては苦しいことでもありますが、特権だと感じています」と、素直な気持ちを吐露していました。

近年、機材の進化や高速化について様々な議論が交わされていますが、彼もまたサイクリングの進化を肌で感じています。「サイクリングは日々進化しています。このテーマについてはまだ意見が固まっていませんが、僕たちは常に小さな改善点を探し続けている。時には、私たち自身が問題になることもある」と、複雑な胸の内を明かしました。しかし、彼は今の時代を「黄金時代」だと捉えています。「素晴らしい選手たちがいて、スペクタクルな走りがあり、多くの見どころがある。僕はその一員として、少しでも貢献したい」と、未来への意欲を語ってくれました。

もしツールでステージ優勝を飾ったら、何か賭けをしているのかと尋ねると、「ここでは言わないでおきます。後で後悔するかもしれないから」と、茶目っ気たっぷりに笑いました。兄との間ではすでに何か約束があるようですが、それはまた別の機会に明かされることでしょう。

イバン・ロメオという新星が、今年のツール・ド・フランスでどのような輝きを放つのか。私たちは彼の「狙撃手」としての才能が炸裂する瞬間を、心から楽しみにしています。