勝利を渇望するポガチャル、カウベルグが鍵のアムステルに強敵と挑む

日本のサイクルロードレースファンの皆さん、こんにちは。山田 健一です。

春のクラシックシーズンは、まさに息つく暇もありませんね。フランドルの石畳の興奮冷めやらぬ中、今度は舞台を丘陵地帯に移し、アルデンヌクラシック三連戦が幕を開けます。その初戦を飾るのが、オランダが誇る伝統の一戦、アムステルゴールドレースです。

石畳の英雄は丘で「ビール」を渇望する

先日のパリ～ルーベで、タデイ・ポガチャルが見せた走りは記憶に新しいでしょう。初挑戦ながら、あの過酷な「北の地獄」で2位表彰台。落車の影響もありながら、最後まで諦めずに走り抜く姿には、彼の底知れないタフネスと勝利への飽くなき渇望を感じました。レース後の有名なルーベのシャワーで泥を洗い流したポガチャルは、もう次の戦いを見据えています。そう、アルデンヌです。

「石畳クラシックは頭を高く上げて終えることができた。これからは一週間の激しい戦いが待っているが、チームを信頼している」と語るポガチャル。彼の言葉からは、フランドルで得た自信と、アルデンヌでの新たな挑戦への強い意欲がひしひしと伝わってきます。

ポガチャル、アルデンヌへ布陣変更

UAEチームエミレーツは、パリ～ルーベからアムステルゴールドレースへと、チームの布陣を大きく変えてきました。パリ～ルーベでポガチャルを支えたメンバーは、ベルギーのティム・ウェレンスただ一人。新たにセバスティアン・ナルバエス、ブランドン・ノヴァク、パヴェル・シヴァコフといった、より丘陵や登坂に強い選手たちが加わります。

この変更は明確なメッセージです。石畳とは全く異なる、短く爆発的な上りが連続するアムステルゴールドレースのコースプロフィールに合わせた最適なメンバーを選んだ、というわけですね。特にナルバエスやシヴァコフは、タフなコースでのアシスト能力が高い選手たち。ポガチャルの攻撃的なスタイルを支えるにはうってつけの布陣と言えるでしょう。彼らがどのようにポガチャルを勝利へと導くか、チーム内の力学にも注目です。

豪華絢爛！迎え撃つライバルたち

しかし、ポガチャルが2023年大会のように独走勝利を収めるのは、今回そう簡単ではないかもしれません。なぜなら、スタートリストには錚々たるメンバーが名を連ねているからです。

昨年の覇者、タデイ・ピドコック（Q36.5プロサイクリングチーム）は、このレースでの勝利を知る男。テクニカルなコースでの対応力はピカイチです。そして、グランツール覇者であり、アルデンヌの申し子とも言えるレムコ・エヴェネプール（スーダル・クイックステップ）も虎視眈々と勝利を狙っているでしょう。さらに、ワウト・ファンアールト Aert（チーム ヴィスマ・リースアバイク）の名前もリストにあります。彼は最近「スプリントがうまくできなくなった」と苦悩を語っていましたが、アムステルゴールドレースはスプリント力だけでなく、パンチ力と持久力が問われるレース。彼本来の爆発力が戻っていれば、間違いなく優勝候補の一角です。

他にも、ベン・ヒーリー、ニールソン・パウレス（EFエデュケーション・イージーポスト）のアメリカ勢、ベテランのブノワ・コスヌフロワ（デカトロンAG2Rラモンディアル）、ヴァランタン・マデュアス（グルパマ・FDJ）、新世代のティボー・ニス（リドル・トレック）、マティアス・ファンヒルス（レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ）、マルク・ヒルシ（チューダープロサイクリング）など、勝利を争う選手は枚挙にいとまがありません。

そして、我々日本人ファンにとって見逃せないのが、スペイン勢です。アレックス・アランブル（コフィディス）、ペリョ・ビルバオ（バーレーン・ヴィクトリアス）、ロジャー・アドリア（レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ）といった実力者たちが、地元オランダ勢やクラシックハンターたちにどう立ち向かうのか。彼らの走りにも注目したいところです。ちなみに、ホセ・ディアスもツール・ド・ジュラで表彰台に上がるなど好調を維持していますね。スペインメディアも彼らに大きな期待を寄せているようです。

栄光の「ビール」とカウベルグの魔力

アムステルゴールドレースは、1966年のラボラルクチャ・フンダシオンエウスカディ創設以来、オランダを代表するクラシックレースとしてその地位を確立してきました。その名の通り、オランダのビール会社「アムステル」がスポンサーを務めており、表彰台ではビールグラスを高く掲げるのが伝統です。まさに、勝利の味はビールの味、といったところでしょうか。

このレースを最も象徴する登坂と言えば、何と言ってもカウベルグです。今年はコース終盤に3回も登場し、特に最後のカウベルグはフィニッシュまでわずか1.8km。ここで仕掛けられるかどうかが、勝負の大きな分かれ目となります。平均勾配6.6%、最大勾配12%と数字だけ見れば他のアルデンヌのコタに比べてそれほど厳しくないように思えますが、延々と続くアップダウンで疲弊した脚には、この短い坂が牙を剥くのです。

過去には、フィリップ・ジルベールがカウベルグで圧倒的な強さを見せつけたり、サムエル・サンチェスとの駆け引きがあったり（「もっときつくすれば、もっと簡単になる」という名言、覚えていますか？）、数々のドラマが生まれてきました。「そうだったのか！」と思わせるような、カウベルグでの意外な展開が、今年も待っているかもしれません。

ポガチャルがここで勝てば、彼はアムステルゴールドレース2勝目。エディ・メルクス、ミハル・クフィアトコフスキ、エンリコ・ガスパロットといったレジェンドたちの記録に並ぶことになります。「へぇ～」と唸らせるトリビアですよね。

飽くなき「渇望」は続く

パリ～ルーベでの激闘を経てなお、「同じ飢えと渇き」を持ち続けるタデイ・ポガチャル。彼の視線の先には、アムステルゴールドレースだけでなく、続くフレーシュ・ワロンヌ、そしてリエージュ～バストーニュ～リエージュと、アルデンヌクラシック三連戦の完全制覇が見えているのかもしれません。

アムステルゴールドレースは、アルデンヌの戦いの始まりを告げる火蓋です。果たして、ポガチャルはオランダの地で勝利のビールを手にすることができるのか。あるいは、強力なライバルたちがそれを阻止するのか。目が離せない一日となりそうです。次はフレーシュ・ワロンヌ、そして「ラ・ドワイエンヌ（最古参）」リエージュ～バストーニュ～リエージュへと続くアルデンヌの激戦。ポガチャルと強豪たちの戦いは、まだ始まったばかりです！