混戦のフレッシュ・ワロンヌ：ポガチャル、エヴェネプールか伏兵か

皆さん、こんにちは。グランツール担当の山田健一です。

アルデンヌクラシックの熱狂は、アムステルゴールドレースの興奮冷めやらぬまま、次の舞台へと移ります。水曜日には、ベルギーのワロン地域を舞台にした一戦、フレッシュ・ワロンヌが開催されます。このレース、例年クライマックスは「ユイの壁」での壮絶な登坂スプリントと相場が決まっているのですが、今年のアルデンヌは一筋縄ではいかない展開が続いていますね。

波乱のアルデンヌ、フレッシュ・ワロンヌは誰の手に？

アルデンヌ地方は、その起伏に富んだ地形が特徴です。長く急勾配の登りはないものの、短くも破壊的な「丘（ミュール）」が連続し、常に選手たちの脚を削り取ります。まるで、この地が経験してきた歴史のように、レースもまた予測不能なドラマを生み出すのです。

先日のアムステルゴールドレースでは、多くのファンが予想していたタデイ・ポガチャルやレムコ・エヴェネプールといった「ビッグネーム」を抑え、マティアス・スケルモースが見事な勝利を挙げました。これは、まさにアルデンヌの洗礼と言えるでしょう。「この二人がいれば間違いないだろう」と思っていた方、多かったのではないでしょうか？ 私も、正直言って少し「なるほど！」と唸らされましたよ。ニールソン・パウレスがドワールス・ドール・フラーンデレンでチーム ヴィスマ・リースアバイクの強力な布陣を打ち破ったように、今年のクラシックシーズンは本当にサプライズが多い。

レムコ・エヴェネプールは、ブラバンツ・パイルでの勝利で復調をアピールし、アムステルでも3位。彼の状態は間違いなく上向きです。そして、タデイ・ポガチャル。彼もアムステルで敗れはしましたが、リエージュ～バストーニュ～リエージュという最大の目標に向けて、調整は進んでいるはずです。しかし、アムステルで見せた「人間らしさ」は、彼にも完璧ではない瞬間があることを示唆しています。この二人が本命であることに変わりはありませんが、彼らもまた、周囲の動きに細心の注意を払う必要があるのです。

勝負の舞台、ユイの壁

フレッシュ・ワロンヌのコースは、アルデンヌの丘陵地帯を縫うように進み、総距離205km。特に終盤の周回コースが重要で、ここにはエレフ、シェラーヴ、そして悪名高きユイの壁という3つの主要な登りが組み込まれています。シェラーヴは2024年はコースから外れていましたが、今年は復活。これもまたレースに影響を与える小さな変化と言えるでしょう。

そして、勝負の全てが集約されるのが、最終盤に待ち受ける「ユイの壁（Mur de Huy）」です。この壁は、わずか1.3kmながら平均勾配は10%近く、特にゴール手前には最大17%という、自転車乗りなら誰もが「ひぃ！」と声を上げてしまうような激坂が待ち構えています。ここで仕掛けるタイミング、そして最後まで踏み切るパワーと精神力が、勝利の鍵を握るのです。

1985年、このユイの壁に初めてゴールが設定された時の勝者は、クロード・クリキエリオンでした。彼はゴールまで残り数キロの地点から単独でアタックし、そのまま勝利を掴みました。これを聞いて、「確かに！」と思った方もいるかもしれません。そう、あのタデイ・ポガチャルなら、このクラシカルな戦術を現代に蘇らせる可能性は十分にあります。特に、アムステルでの落車でジョナタン・ナルバエスがリタイアしており、UAEチームエミレーツ・XRGの強力なアシストが一人欠けるとなれば、独力でレースを動かす必要が出てくるかもしれません。

もちろん、ユイの壁でのスプリント勝負も忘れてはいけません。2023年、タデイ・ポガチャルはゴール前100mからの強烈なアタックでライバルを粉砕しました。あの時の2位がマティアス・スケルモース、そして3位にはミケル・ランダが入っています。あの時のタデイ・ポガチャルの力は圧倒的でしたが、今回はどうでしょうか？ レムコ・エヴェネプールは、ユイの壁のような短く急な登りも得意としています。ベルギー人である彼にとっては、これもまた「ホームレース」の一つ。リエージュ～バストーニュ～リエージュに向けて、ここで弾みをつけたいという思いは強いはずです。

本命を脅かすサプライズ候補たち

しかし、今年のアルデンヌが示唆しているのは、「ビッグネーム」だけでは勝てないということです。フレッシュ・ワロンヌのスタート地点、シネには、タデイ・ポガチャルやレムコ・エヴェネプールといった「ビッグシックス」（クラシックシーズン序盤に注目された6人）以外の、虎視眈々と勝利を狙う選手たちが集結します。

過去の優勝者を見ても、ジュリアン・アラフィリップ（3勝）、マルク・ヒルシ、ディラン・トゥーンス、そして昨年の覇者スティーブン・ウィリアムズと、ユイの壁を知り尽くした実力者たちが名を連ねています。彼らは、ユイの壁での経験値という大きなアドバンテージを持っています。

さらに、トム・ピドコックやティボー・ネイス、ベン・オコーナーといった、勢いのある若手や、特定の局面で力を発揮するタイプも要注意です。彼らがどのような作戦でユイの壁に挑んでくるのか。「へぇ～、この選手も候補なんだ」と思った方、彼らの走りには注目ですよ。

そして、忘れてはならないのがスペイン勢です。フレッシュ・ワロンヌの歴史を語る上で、アレハンドロ・バルベルデの名前は外せません。彼はこのレースで最多となる5勝、しかも2014年から2017年まで4連覇という偉業を成し遂げました。この偉大な記録に触発されない選手はいません。

今年のスペイン勢では、ヴォルタ・ア・カタルーニャで3位、イツリアで2位と好調を維持しているエンリク・マス。ヴォルタやツール・デ・UAEでポディウムを獲得し、アムステルも走ったペリョ・ビルバオ。そして、ブラバンツ・パイルで4位に入ったアレックス・アランブルが注目の存在です。彼らがチーム ヴィスマ・リースアバイクや他の強豪チームの動きをどう読み、ユイの壁でどのような走りを見せるのか、非常に楽しみです。特にエンリク・マスは、グランツールでの総合力をクラシックにどう活かすか、注目に値します。

ユイの壁に響く咆哮は誰のものか？

フレッシュ・ワロンヌは、距離こそモニュメントほど長くありませんが、その凝縮された激しさは他の追随を許しません。特にユイの壁は、文字通り「壁」となって、多くの選手の勝利への道を阻んできました。

タデイ・ポガチャルが再び圧倒的な力を見せるのか？ レムコ・エヴェネプールがホームで勝利を掴むのか？ それとも、アムステルゴールドレースのマティアス・スケルモースに続き、新たなサプライズヒーローが誕生するのか？

水曜日の午後、ユイの壁に響く勝利の咆哮は、一体誰のものになるのでしょうか。今年のアルデンヌクラシックは、本当に目が離せませんね！ 次回は、このフレッシュ・ワロンヌの熱戦をレポートします。どうぞお楽しみに！