ペンホエットの苦境、ついに終わりか？

ポール・ペンウェット、苦難を乗り越えツールの夢へ駆け上がるか？ クリテリウム・デュ・ドーフィネで掴んだ光明

クリテリウム・デュ・ドーフィネの戦場から、山田健一がお届けします。このドーフィネは、ツール・ド・フランスへ向けての最終調整の場であり、選手たちの真のコンディションが露わになる舞台。そんな中で、ひときわ目を引く若手がいます。Groupama-FDJの若きパンチャー、ポール・ペンウェット選手です。日曜日の開幕ステージでは、タデイ・ポガチャル、ヨナス・ヴィンゲゴー、レムコ・エヴェネプール、マティュー・ファンデルプールといった「カドール」（幹部、つまりトップ選手たちのことですね）たちと肩を並べ、月曜日のスプリントでは5位に入るも降格という、まさにジェットコースターのような展開。しかし、この数日の彼の走りは、過去18ヶ月に及ぶ長く苦しいトンネルの終焉を告げ、彼が待ち望むツール・ド・フランスへの道が開かれつつあることを示唆しています。

若きパンチャー、苦難の道のり

ドーフィネの序盤戦、ポール・ペンウェット選手の走りは、まさに「小さな弾丸」のようでした。日曜日のビュフォンの登りでは、あの「カドール」たちに食らいつき、その背後で虎視眈々とチャンスを伺う姿は、彼のパンチャーとしての才能をまざまざと見せつけました。彼がクラマール（オー＝ド＝セーヌ県）出身の21歳であることを考えると、その経験値からは想像もつかない堂々とした走りです。そして月曜日のイソワール（ピュイ＝ド＝ドーム県）へのスプリントでは、ジョナタン・ミランの後ろで巧みに位置取り、一時5位に食い込むなど、スプリンターとしての器用さも披露。しかし、残念ながら「肩を使った」として降格処分。私も現地でこのシーンを見ていましたが、確かに彼が最近、フィジカル面で強化されているのは明らか。ただ、この降格もまた、過去1年半にわたる彼の「苦難リスト」に新たな1ページを加える形となりました。

彼がGroupama-FDJでプロ初勝利を挙げたのは2023年、ツール・デュ・フィニステールとツール・デュ・ポワトゥー＝シャラントでのステージ優勝でした。その時、彼はまさに「ポケットサイズの有望なスプリンター」として、マーク・カヴェンディッシュやカレブ・ユアンを彷彿とさせる存在だと囁かれ、さらなる高みを目指していました。しかし、その夢は長くは続きません。年末年始のトレーニング中に右膝の前十字靭帯を断裂。これが、彼の長く苦しい戦いの始まりでした。

怪我と「デニアル」、そして再起

「靭帯断裂の後、僕はミリ単位で全てをこなした。でも、結果が出ないと負のスパイラルに陥るんだ。それが昨シーズン終わりまで続いたし、さらに落車も重なった」。今年3月のティレーノ～アドリアティコで彼が私に語った言葉です。彼は当時、「全てが完璧だと思っていたのに、チームのテストではまだダメだと。自分は『デニアル（否認）』の状態だった」とまで打ち明けました。膝の怪我だけでも大変なのに、2024年にはツール・ド・スロベニアの1・2ステージ、ハンブルク・サイクリング・クラシック、シルキュイ・デュ・オートラントで落車。そして2025年になってもクールネ、デ・パンネ、ペイ・ド・ラ・ロワール・ツールと、立て続けに落車に見舞われました。

しかし、Groupama-FDJのスポーツディレクターの一人、ブノワ・ヴォーグレナールは彼のことをこう評しています。「大変だったが、彼は常に立ち上がってきた」。ヴォーグレナールDSは、アルレニス・シエラネバダ（スペイン）での合宿での彼の努力を称え、5月末のブークル・ド・ラ・マイエンヌで2度のトップ5入りを果たした頃から「プレッシャーが高まってきた」と語っています。そして、ドーフィネでの彼のパフォーマンスは、まさにその努力が報われつつある証拠だと言えるでしょう。

スプリンターか、パンチャーか？ 揺れるアイデンティティ

ポール・ペンウェット選手は、その才能を二つの異なる領域で発揮します。短い登りでの瞬発力に優れ、集団スプリントでも決して不器用ではない。まさに「ポロ」（彼の愛称）は、この二つのカードの間で揺れ動いているのです。これは彼にとって、時に思わぬ落とし穴にもなり得ます。日曜日のレース後、彼はこう語りました。「カドールたちと一緒に走ったのは初めてだったから、彼らが前に出た時、自分は場違いだと感じて自信を失ったんだ」。そして、彼の心の中には常に「スプリントを待て」という小さな声がある一方で、「ペダルで勝負するなら行け」という声も聞こえるという。「いつも尻が二つの椅子の間にあるんだ」という表現は、まさに彼の今の葛藤を象徴しています。

ヴォーグレナールDSは、モルビアン地方にルーツを持つペンウェット選手について「年間10勝も15勝もするような大スプリンターではない」と冷静に分析します。しかし、パンチャーというカテゴリーで見ると、「15年前ならもっと多くの勝利を挙げられたかもしれないが、今は非常に強い選手が多い時代だ」と続けます。確かに、現代ロードレースは多才なパンチャーが席巻する時代。そんな中で、ドーフィネは彼にとって理想的な「遊び場」となっているようです。火曜日のブリウドからシャラントネへのステージのように、「一日中厳しいレース」が続くことが、彼の才能を最大限に引き出すのかもしれませんね。

勝利への渇望とツールの夢

「僕は勝つために自転車に乗っている」とペンウェット選手は言います。2023年8月以来、勝利からは遠ざかっている彼。しかし、彼は勝利への固執が過去にネガティブな影響を与えたことを認め、今は「勝利のことだけを考えるのをやめた。トレーニングと、あらゆる面で改善できることに集中すれば、結果はついてくる」と、より成熟した視点を持つようになりました。

そして、その結果の一つがツール・ド・フランスへの出場です。現時点では拡大リストに名を連ねており、Groupama-FDJは来月のグランツールに彼を連れて行くことを検討しています。ツールにはスプリントで決着するステージが全体の3分の1ほどあることを考えると、彼の存在はチームにとって大きな意味を持つでしょう。 「ツールは常に僕の頭の片隅にある。そのためにトレーニングもしている」とペンウェット選手は語ります。「でも、ドーフィネは通過点だ。僕にチームでの居場所があることを証明しなければならない」。時に肩を使いながら、彼はその場所を掴み取ろうとしています。果たして、彼の夢は叶うのか？ ドーフィネでの残りのステージ、そしてツール・ド・フランスでの彼の走りに、日本のサイクルロードレースファンは注目せずにはいられないでしょう。