レムコ・エヴェネプール、ツールへの自信は野心次第

「期待値」という名の重圧

Soudal Quick-Stepのチーム首脳陣は、ドーフィネ開幕前、レムコ・エヴェネプールにかなりのプレッシャーをかけていました。スポーツディレクターのクラース・ローデウェイクは、明確にこう語っていたのです。「もしレムコがここでタデイ・ポガチャルやヨナス・ヴィンゲゴーについていけるなら、パリでの3位以上を狙う。そうでなければ、再び表彰台を目標とするだろう」と。この言葉からは、チームがレムコに対して、昨年以上の山岳でのパフォーマンス向上を強く期待していたことがうかがえます。

確かに、昨年のドーフィネと比べれば、レムコ・エヴェネプールは一歩前進していると言えるでしょう。2024年はツール・デ・ペイ・バスクでの大落車の後遺症に苦しんでいた時期でしたが、今年は冬のトレーニング事故こそあったものの、比較的完璧な春シーズンを過ごしました。ツール・ド・ロマンディを終えてからは、アルレニス・シエラ・ネバダでチームメイトと共に静かに、そして理想的な環境で夏の目標に向けて最高の状態を作り上げてきたのです。この準備期間の充実ぶりは、昨年との大きな違いであり、彼にとってのアドバンテージであったことは間違いありません。

ドーフィネで露呈した課題と「言い訳」の真偽

レムコ・エヴェネプールは、クリテリウム・デュ・ドーフィネの個人タイムトライアルで再び世界トップクラスの実力を証明しました。しかし、山岳ステージでは、タデイ・ポガチャルやヨナス・ヴィンゲゴーのような爆発的な加速力や、彼らのベースとなる長い登坂でのペースについていけない場面が散見されました。これは、彼がグランツールでの総合優勝を狙う上で、依然として克服すべき課題であると言えるでしょう。

もちろん、彼には「言い訳」となりうるいくつかの要素がありました。最初の本格的な山岳ステージ前日、レムコはロータリーで落車に見舞われました。こうした落車は、精神的にも肉体的にも決して良い影響を与えません。筋肉のこわばりや痛みがパフォーマンスに影響を及ぼすことは、プロの選手であれば誰もが経験することです。さらに、彼が繰り返し訴えていたのが花粉症でした。意外に思われるかもしれませんが、彼自身は「子供の頃から重い喘息の発作があった。ホテルにカーペットが多いのも良くなかった」と語っています。実は、彼の花粉症については昨年のドーフィネでも言及されており、全く初めて聞いた話ではないのです。しかし、この「花粉症」という要因が、彼のパフォーマンスをどれほど妨げたのか、そしてツール・ド・フランスでそれが解消されるのかは、多くのファンが注目している点でしょう。現地メディアやSNS上でも、この花粉症の話題は大きな議論を呼んでおり、「本当にそこまで影響があるのか？」といった懐疑的な声も聞こえてきます。

エヴェネプールの「ピークの合わせ方」と今後の展望

レムコ・エヴェネプールがツール・ド・フランスに向けて、まだ数パーセントのパフォーマンス向上を見込めるという希望は、Soudal Quick-Step陣営の大きな期待です。彼は、重いレースをこなした後、さらに調子を上げてくる傾向があることで知られています。例えば、ブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝を飾った2週間後にロード世界選手権で勝利を収めたり、昨年のツール・ド・フランスを終えた他の選手たちが疲労困憊の中、オリンピックのタイムトライアルとロードレースで素晴らしい走りを見せたりしたことからも、その特性は明らかです。彼は「壊れない」選手であり、多くのレースをこなすことでさらに強くなるタイプなのです。

しかし、タデイ・ポガチャルやヨナス・ヴィンゲゴーも、ツール・ド・フランス開幕に向けて最後の調整に余念がないことは言うまでもありません。彼らもまた、残りの期間でさらなるピークを目指しているはずです。レムコ・エヴェネプールがツールでの総合優勝候補となりうるか、という問いに対しては、現時点では「ノー」と言わざるを得ません。彼自身も認めているように、ポガチャルやヴィンゲゴーは本質的に優れたクライマーであり、タイムトライアルの距離も、彼らが山岳で稼ぐタイム差を覆すほど多くはありません。

それでも、レムコ・エヴェネプールがツール・ド・フランスの表彰台争いの最有力候補であることは、紛れもない事実です。プリモシュ・ログリッチやフロリアン・リポヴィッツといった強敵がいる中、彼の総合力はやはり抜きん出ています。レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのチーム力は確かに強力ですが、ログリッチは直近のジロ・デ・イタリアで落車し、抗生物質を服用していたという裏話も聞こえてきており、彼のコンディションには不透明な部分も残ります。リポヴィッツも素晴らしい走りを見せていますが、グランツール全体を通しての安定性にはまだ疑問符がつきます。

レムコ・エヴェネプールが自信を持ってフランスへ向かえるかどうかは、彼の「期待値」と「野心」次第でしょう。ベルギーのファンは、30年ぶりのツール覇者の誕生を夢見ていますが、現実的な目標設定が、彼をさらなる高みへと導く鍵となるはずです。ツール・ド・フランス開幕まであとわずか。レムコ・エヴェネプールが、どんな走りを見せてくれるのか、今から楽しみでなりません。