ウェレンス、ベルギー王者ポガチャルを称賛：かつての「集中しすぎ」を反省

「想定外」からのベルギー王者誕生

ベルギー選手権が開催されたビンシュは、まさに灼熱の地でした。気温は35度を超え、ティム・ウェレンス選手は重い高地合宿から帰国したばかり。さらに、UAE Emirates XRGからはフロリアン・フェルミールス選手しかチームメイトがおらず、多くの有力チームが「大所帯」で臨む中、彼にとっては理論上、非常に不利な条件が揃っていました。

ウェレンス選手自身も、当初は出場を見送るつもりだったと明かしています。「ツール・ド・フランスへの理想的な準備とは言えなかったし、余計な移動日は避けたかった」と彼は語りました。しかし、病気で出場できなくなったルネ・ヘレホーツ選手のため、そしてフロリアン・フェルミールス選手一人のために、チームがファビオ・バルダート監督、メカニック、マッサージャーをベルギーに派遣したのを見て、心境が変化したそうです。「チームがここまでサポートしてくれるなら」と、急遽水曜の夜に出場を決意。フライトを予約し、かなり遅い到着となりました。しかし、この「ギリギリの決断」が、彼をスタートラインでリラックスさせる効果をもたらしたのかもしれません。序盤、大きな集団が逃げても「自分の問題じゃない。フィナーレで考えよう」と冷静だったという彼の言葉からは、肩の力が抜けた状態が、かえって良い結果に繋がったことが伺えます。また、ヴィクトル・カンペナールツ選手をはじめ、多くの選手と事前に連絡を取り合い、レース戦略を練っていたという裏話も、彼の周到さ、そして人脈の広さを物語っていますね。

苦手を克服した「熱」への適応

ティム・ウェレンス選手といえば、ロット時代は雨や寒さといった「過酷なコンディション」で真価を発揮する選手というイメージが強かったことを覚えている方も多いのではないでしょうか。しかし、ビンシュの猛暑は、かつての彼にとって大きな壁だったはずです。ところが、今回のベルギー選手権では、その暑さをものともせず、力強い走りを披露しました。

その秘密は、UAE Emirates XRGで取り組んだ徹底的な「熱順化トレーニング」にありました。ウェレンス選手は、「チームの助けを借りて、たくさんのウォームアップトレーニングを積んだ」と語っています。その内容は驚くべきものです。例えば、ローラー台でレインジャケットを着て走る、というもの。想像するだけで汗が噴き出してきそうですね。「最大のライバルにさえ、こんなことはさせたくない」と彼が言うほど、過酷な練習だったようです。他にも、熱い風呂に入って体温を意図的に上げるなど、文字通り「体をいじめ抜く」ことで、彼は高温への耐性を劇的に向上させました。その効果は、クリテリウム・デュ・ドーフィネの山岳ステージでもすでに実証済みだったとのこと。「あの暑さの中でも、ほとんど苦にならなかった」という言葉からは、自信がうかがえます。この地道な努力が、ベルギー選手権での勝利、そしてこれからのツール・ド・フランスでの活躍を支える基盤となっているのです。

UAEでの変貌とTadej Pogacarの影響

ロットで14年間過ごした後、UAE Emirates XRGに移籍して3シーズン目を迎えるティム・ウェレンス選手は、その環境の変化が彼をより良い選手へと変貌させたと語っています。ロット時代は自身の勝利を追求する機会が多かったものの、常に結果を出せるわけではなく、そのプレッシャーに苦しんだ時期もあったそうです。しかし、UAE Emirates XRGでは役割が変わり、チームのエースをアシストすることに喜びを感じていると言います。「世界最高のチームで、世界最高の選手を助けることができるのは、本当に楽しいことだ」と彼の言葉は弾んでいました。

そして、その「世界最高の選手」であるTadej Pogacar選手が、ウェレンス選手に与えた影響は計り知れません。ウェレンス選手は、「Tadejから、以前は少し『集中しすぎ』、あるいは『プロフェッショナルすぎた』と学ぶことがある」と語っています。完璧を追い求めるあまり、かえってバランスを崩していた自分に気づかされたというのです。「時には100%ではなく、95%でスポーツに取り組む方が、長く続けられるし、精神的にも良い」というTadej Pogacarの哲学は、ウェレンス選手にとって目から鱗だったようです。Tadej Pogacarは精神的に非常に賢い人間であり、彼が世界最高の選手であるからこそ、その言葉には絶大な説得力がある。Tadej Pogacarのやり方は、チーム全体にとって「真実」として受け入れられている、とウェレンス選手は力説します。エースの勝利だけでなく、チームメイトの人間的な成長まで促すTadej Pogacarの存在は、まさにUAE Emirates XRGの強さの源泉と言えるでしょう。

ツールへの期待と新たな挑戦

ベルギー選手権での劇的な勝利は、ツール・ド・フランスに向けてティム・ウェレンス選手に大きな自信を与えたに違いありません。彼はTadej Pogacar選手のツール4連覇に向けて、「Tadejは間違いなく準備万端だろう。でも、良い選手は彼だけじゃない」と、油断なく語ります。

ツールの序盤は常に混沌とし、落車の危険がつきまといます。ウェレンス選手も「楽しみな反面、少し怖い」と正直な気持ちを吐露しています。しかし、UAE Emirates XRGは常に集団の先頭で走り、危険を回避する術を知っているチームです。彼がチームの最前線で、Tadej Pogacarを危険から守り、山岳で強力なアシストとして機能する姿が目に浮かびます。今回のベルギー選手権の勝利は、彼がツールの舞台で、Tadej Pogacarを勝利に導くための重要なピースであることを改めて証明したと言えるでしょう。

ティム・ウェレンス選手は、UAE Emirates XRGという新たな環境と、Tadej Pogacarという稀代の才能との出会いによって、選手としても人間としても、新たな高みへと到達しようとしています。彼の進化が、今年のツール・ド・フランスでどのような化学反応を起こすのか。そして、Tadej Pogacarの黄色いジャージ姿を、彼がどれだけ長く守り切れるのか。日本のサイクルロードレースファンの皆さん、ぜひ彼の走りに注目してください。次回の記事もどうぞお楽しみに！