ペロトン、引退ロマン・バルデを称える：「感情を抑えきれない」

惜別のドーフィネ、感動のパレード

クリテリウム・デュ・ドーフィネの最終日、モン・スニ峠へと向かう過酷な山岳ステージのスタート地点で、ペロトン全体がロマン・バルデのために「花の道」ならぬ「敬意の道」を作ったのです。選手たちが左右に並び、その間をバルデがゆっくりと通り過ぎる。その光景は、まるで長年の功績を称えるパレードのようでした。彼は後に「感情を抑えるのが難しかった」とチーム ピクニック・ポストNLのサイトで語っていますが、その言葉の裏には、彼が築き上げてきた選手たちとの絆、そしてサイクリストとしての誇りが凝縮されていたことでしょう。

引退レースにドーフィネを選んだのは、彼がこの地域の出身だからです。第3ステージは彼の生まれ故郷であるブリウードをスタートしました。慣れ親しんだ山々、美しい景色の中でキャリアを終える。これほどロマンチックで、彼らしい幕引きがあったでしょうか。レースのテンポは非常に速かったとのことですが、それでも彼は故郷の道、マルテ・ベルグエドセスを下りながら、プロとしての最後の時間を噛みしめていたに違いありません。

ツール・ド・フランスでの輝かしい足跡

ロマン・バルデのキャリアを語る上で、ツール・ド・フランスでの活躍は外せません。2012年にデカトロン・AG2Rラモンディアール チームでプロデビューを飾って以来、彼はフランス人クライマーの希望の星として輝き続けました。特に印象深いのは、2015年のステージ優勝、そして2016年の総合2位、翌2017年の総合3位という成績でしょう。あのツール・ド・フランスの表彰台に、フランス人選手が連続して立つ姿は、多くのファンの心を熱くしました。

彼は純粋なクライマーであり、そのアタックは常に予測不可能で、見る者を魅了しました。石畳やタイムトライアルといった弱点も指摘されましたが、山岳での彼の爆発力は、世界のトップクライマーと互角に渡り合えるものでした。2018年のインスブルックで開催された世界選手権ロードレースでは銀メダルを獲得するなど、グランツール以外でもその実力を証明しています。彼の走りは、まさに「フランスの魂」を体現するかのようでしたね。

新天地での挑戦と「トリロジー」への夢

デカトロン・AG2Rラモンディアール チームで8年間を過ごした後、2021年にチーム DSM（現チーム ピクニック・ポストNL）へ移籍したことは、彼にとって新たな挑戦でした。この移籍は、彼がフランスの枠を超え、よりグローバルな視点でキャリアを追求する姿勢の表れだと私は見ていました。そして、この新天地でも彼は輝きを放ちます。2024年のツール・ド・フランス、リミニでの開幕ステージではフランク・ファンデンブルークとのコンビで素晴らしいタイムトライアルを披露し、なんとイエロージャージを1日着用したのです。

グランツールすべてでのステージ優勝、いわゆる「トリロジー」達成は、彼のキャリアにおける大きな目標の一つでした。今年のジロ・デ・イタリアでも、彼はその夢にあと一歩まで迫りました。第17ステージでは、当時のマリアローザであるイサーク・デルトロとの激しい競り合いを演じましたが、惜しくも勝利には届きませんでした。しかし、あの粘り強い走りは、最後まで諦めない彼のプロフェッショナルな姿勢を象徴していました。

ロマン・バルデが遺すもの

「後悔はない」――。クリテリウム・デュ・ドーフィネでの彼の言葉は、そのキャリアの充実ぶりを物語っています。バルデは、単に速い選手というだけでなく、ペロトン内で深い尊敬を集める存在でした。彼は「若い選手たちまでもが話しかけてきた」と語っていましたが、これは彼がどれほど多くの選手に影響を与え、慕われていたかの証左でしょう。彼の落ち着いた人柄、常に向上心を忘れない姿勢は、多くの若手選手にとって手本となるものでした。

私は長年、ヨーロッパのレース現場で選手たちを見てきましたが、バルデのように、その走りだけでなく、人間性そのものがペロトンに深く浸透している選手はそう多くありません。彼は、純粋なクライマーとしての美学を追求し、ドーピングスキャンダルに揺れた時代においても、クリーンなイメージを貫き通しました。彼の引退は、一つの時代の終わりを告げるようで寂しいですが、彼がサイクルロードレース界に残した功績は、これからも語り継がれていくことでしょう。

ロマン・バルデのプロとしてのキャリアは幕を閉じましたが、彼の自転車への情熱が尽きることはないでしょう。これからの彼の人生に、素晴らしい「新たなステージ」が待っていることを心から願っています。そして、私たちは彼の残した感動的な走りを胸に、これからもサイクルロードレースの魅力を追い続けていきましょう！