ゴドン：過小評価されながらも、実力に確かな自信

ドリアン・ゴドン、秘めたる自信が花開いたフランス王者の戴冠

ヴァンデ地方で開催されたフランス選手権。灼熱の太陽が照りつける中、ドリアン・ゴドンが劇的な勝利を収め、待望のナショナルチャンピオンジャージをその身にまといました。これまで「過小評価」されがちだった彼が、なぜこの大一番で輝けたのか。その背景には、チームからの絶対的な信頼と、彼自身の揺るぎない確信があったのです。グランツール取材で培った私の視点から、彼の戴冠劇と、その裏に隠された物語を紐解いていきましょう。

「過小評価」された男の確信

ドリアン・ゴドン、29歳。彼のキャリアには、2023年のブラバンツ・パイル、パリ〜カマンベールでの2度の優勝、そして昨年のツール・ド・ロマンディでの2ステージ勝利など、輝かしい成功が刻まれています。しかし、デカトロン・AG2Rラモンディアール チームでは、常に絶対的なリーダーとしての地位を確立してきたわけではありません。彼はしばしば「集団のために走る」役割を担い、自身のチャンスが限られることにフラストレーションを感じることもあったと言います。今年のジロ・デ・イタリアでも、残念ながら自身が主役となる機会は巡ってきませんでした。

しかし、ゴドンは確信していました。「僕の本当の能力を知っているのは、僕だけだ」と。そして、「チャンスが与えられれば、僕は必ずゴールを決める」とも。今回のフランス選手権では、まさにその言葉通りの走りを見せました。彼はスタート前から「今日勝てる脚がある」とチームメイトに伝えていたそうです。その自信は、決して慢心ではなく、自らの努力と実力を冷静に見つめた上での確かな手応えだったのです。なるほど、彼が「過小評価」されてきたのは、彼自身の謙虚さと、チームのための献身的な走りが、表舞台での派手な勝利よりも目立っていたからなのかもしれません。

チームの結束が生んだ戴冠

ドリアン・ゴドンのフランス王者獲得は、彼個人の力だけではありません。デカトロン・AG2Rラモンディアール チームの結束力が、この勝利を盤石なものにしました。昨年、ポール・ラペラが獲得したナショナルチャンピオンジャージを、チームは一年間守り抜いたのです。表彰台でフランス国家「ラ・マルセイエーズ」が響き渡る中、ゴドンはチームクルー全員を振り返り、「何も聞こえない！」と叫びました。すると、拍手はさらに大きくなり、チームメイトたちは「もっと！」と絶叫するゴドンに応えるように、喜びの声を上げ続けました。

チームメイトのポール・セクサスは、「ドーリアンは百回この勝利に値する」と称賛。最終盤、ゴドンをモン・デ・アルーエットの頂点へと押し上げた「三段ロケット」の一番機として、セクサスも献身的に働きました。チームのディレクター・スポルティフ、ジュリアン・ジュルディは、レース前夜にゴドンに「君の日は来たかもしれない」と告げ、彼をスプリント局面でのエースとして指名したと言います。「このジャージは、誰もが夢見るものだ」というジュルディの言葉からは、チーム全体がゴドンの勝利をどれほど望んでいたかが伝わってきます。へぇ〜、チームの監督がそこまで選手を信頼して送り出すとは、素晴らしい関係性ですね。

執念の暑さ対策と未来への視線

今回のフランス選手権は、ヴァンデの灼熱のコンディションが選手たちを苦しめました。デカトロン・AG2Rラモンディアール チームのディレクター・スポルティフ、ディディエ・ジャネルは、「彼は暑さが苦手なのに」と漏らしていました。しかし、ゴドンは今シーズン、この弱点克服に執念を燃やしていました。今月のルート・ド・オクシタニーで暑さ対策に取り組み、さらに居住地であるスペインのジローナでは、連日38度を超える猛暑の中、午前11時から午後2時という最も暑い時間帯にトレーニングを積んでいたそうです。30分おきにボトルを補充しながらの過酷な練習が、この日の勝利に繋がったのです。

彼のガールフレンド、マルゴーさんもこの勝利を予見していました。「コースが発表された時、『ドーリアン、これはあなたのためにある！』ってすぐ言ったの。ツール・ド・フランスには出ないし、ジロではステージ優勝できないかもしれないけど、フランスチャンピオンになるってね」と笑いながら明かしてくれました。そうだったのか！まさに予言通り。この勝利で、ゴドンはこれまで背負っていた重圧から解放され、今はただ「リセットが必要だ」と語ります。7月は休暇を取り、8月31日のブルターニュ・クラシック、9月12日のグランプリ・ド・モントリオールが次の大きな目標となるでしょう。

移籍の噂、デカトロン・AG2Rを離れるか

このフランス選手権の勝利は、ドリアン・ゴドンのキャリアにおいて非常に大きな意味を持つものですが、同時に彼の未来には不確かな要素も漂っています。実は、彼は7月5日にリールで開幕するツール・ド・フランスには出場しません。そして、L'Équipe紙が報じた通り、彼は来シーズン、Ineosに移籍する可能性が高いとされています。2019年から所属するデカトロン・AG2Rラモンディアール チームとの契約延長交渉は、サラリー面での隔たりが大きく、決裂した模様です。

もし移籍が実現すれば、デカトロン・AG2Rラモンディアール チームはフランスチャンピオンを失うだけでなく、食事のたびに冗談を飛ばし、ウォーミングアップ前のバスでは音楽係を務めるという、チームのムードメーカーをも失うことになります。彼がチームにもたらしてきたものは、単なる勝利以上のものだったと言えるでしょう。確かに、チームの力学や選手間の絆は、データだけでは測れない重要な要素です。今後の正式発表に注目が集まりますが、ドリアン・ゴドンという「知られざる強者」の物語は、まだ始まったばかり。彼の真価が問われる今後の活躍に、私たちは熱い視線を送り続けることでしょう。次も読みたい！