ポガチャル、ライバルに示した“初教訓”と埋めるべき隔たり
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【山田健一のサイクルロードレース最前線】ポガチャル、ドーフィネで「ツール・ド・フランスへの予習」を完了か？
フランス南東部を舞台に、ツール・ド・フランスの前哨戦として位置づけられる「クリテリウム・デュ・ドーフィネ」。今年の大会は、まさに「タデイ・ポガチャル劇場」と化しました。特に第6ステージ、ドマンシーの丘での彼の走りは、多くのサイクリングファンが抱いていた疑問符を、一瞬にして感嘆符へと変えるものでしたね。誰もがその状態を案じていた中で、彼はまるで「予習」でもするかのように、ライバルたちに圧倒的な「本気」を突きつけたのです。
ポガチャル、ドーフィネで「本気」を見せる
「タデイ・ポガチャルは今、どの程度の仕上がりなのか？」――水曜日の個人タイムトライアルで、彼がライバルたちにタイムを許した際、そう囁かれたのは無理もありません。本人は「特定のトレーニング不足と、力配分のミス」と説明していましたが、正直なところ、私自身も少しばかり不安を感じていたのは事実です。しかし、金曜日の第6ステージ、モンリュソンとは打って変わって、ポガチャルの頭の中にはこの山岳ステージが「赤丸印」で記されていたに違いありません。標高の高い場所での合宿を経て、今シーズン初のステージレースに臨む彼にとって、この山岳でのテストは、まさに自身の現在地を知るための重要な機会だったのです。そして、その答えはドマンシーの丘で、あまりにも明快に示されました。
ライバルを圧倒する「別次元」の強さ
コンブルーへと続く8kmの最終登坂、いや、正確にはその手前、ドマンシーの丘の急カーブを抜けたわずか100mで、彼は最大のライバル、ヨナス・ヴィンゲゴーを文字通り「切り裂いた」のです。その瞬間、私は思わず「なるほど！」と唸ってしまいました。ゴール後、クインティ・トンが冗談めかして「恋人のUrska Zigartにツール・ド・スイスで会うために早く着きたかった」と語っていたように、ポガチャル自身も安堵と自信に満ちた笑顔を見せていました。彼はライバルたちに対し、「もし今日、ヨナスやRemco Evenepoelの立場だったら、1分失ってもあまりストレスを感じるなと言うだろう。ツール・ド・フランスではまた別の話になるからね」と語りましたが、彼らが内心冷や汗をかいているのは間違いないでしょう。昨年のツールでヨナス・ヴィンゲゴーに打ちのめされたことを思えば、このドーフィネでのポガチャルのパフォーマンスは、まさに「別次元」としか言いようがありません。体幹がより引き締まり、腰から背中、胴体にかけてのパワーが増したことで、座ったままの体勢で誰もを置き去りにするアタックを可能にしているのです。
チーム戦術を超越した個の力
この日、序盤から逃げ集団に入り、最後まで粘ったアレックス・ボーダン（EFエデュケーション・イージーポスト）の言葉が、ポガチャルの圧倒的な力を物語っています。「彼が追いついてきた時、彼のホイールについて行こうとしたのですが、2、3分で完全にやられましたよ」と、フランス人選手は苦笑していました。チーム ヴィスマ・リースアバイクがモンサクソネックスの丘で猛攻を仕掛けたものの、その後にUAEチームエミレーツの選手たちを平坦区間で引き戻させてしまった戦術には疑問符が残ります。また、UAEチームエミレーツが、ティム・ウェレンスをフロリアン・リポヴィッツの後ろで牽引させた意図も、蜂と黒のジャージを着たチームが数で優勢だったことを考えると、理解しがたいものがありました。しかし、それらのチーム戦術上の「不完全さ」を、タデイ・ポガチャルという個の力が全て「平坦化」してしまったのです。当初の計画通り、ドマンシーの丘ではパヴェル・シヴァコフの強烈な牽引、そしてJhonatan Narvaezの決定的な加速が、ヨナス・ヴィンゲゴー以外の全てを粉砕しました。彼の圧倒的な強さは、もはやチームの戦略すら凌駕するレベルに達していると言えるでしょう。
ツール・ド・フランスへの「序章」
残りは2つの大きな山岳ステージ、特に土曜日のヴァルムニエへのステージは、マドレーヌ峠とクロワ・ド・フェール峠を越える難関です。しかし、今年のクリテリウム・デュ・ドーフィネの総合優勝の行方は、すでに封印されたも同然でしょう。ヨナス・ヴィンゲゴーとチーム ヴィスマ・リースアバイクは決して諦めず、ポガチャルを揺さぶろうとするでしょうし、フロリアン・リポヴィッツも「第三の男」としての地位を守ろうと、終盤まで攻撃的な走りを見せるはずです。また、Remco Evenepoelは、前日の落車で少し錆びついたかのような走りでしたが、そのタイム差を縮めようと必死になるでしょう。しかし、タデイ・ポガチャルはすでに次の舞台へと意識を向けています。彼はもちろん、この黄色のジャージを守り抜き、ライバルたちにさらに追い打ちをかける機会を逃さないでしょうが、このドーフィネはもはや彼にとって「戦い」ではないのかもしれません。「明日（土曜日）何が起こるかは、もうそれほど重要ではない」と彼は語りました。これは、彼が4度目のツール・ド・フランス制覇に向けて、着実に準備を進めていることの証でしょう。昨年、ヨナス・ヴィンゲゴーに打ちのめされたコンブルーで、彼は部分的に「和解」を果たしました。次のツール・ド・フランスは、オータカム、ヴァントゥー、ローズ峠といった、かつて彼が苦しんだ「聖地」への巡礼となるでしょう。そこで、ライバルが彼を山岳で支配できた時代は終わった、ということを証明するつもりなのです。さあ、今からもう、ツール・ド・フランスが待ちきれませんね！
