クリテリウム・デュ・ドーフィネ：有力選手たちの星評価

ツール・ド・フランス前哨戦！ドーフィネで激突する三大巨頭の思惑

いよいよ今週末、サイクルロードレース界が固唾を飲む「クリテリウム・デュ・ドーフィネ」が開幕します。ツール・ド・フランス本番を約1ヶ月後に控え、今季の三大総合優勝候補、タデイ・ポガチャル、ヨナス・ヴィンゲゴー、そしてレムコ・エヴェネプールが初めて顔を揃えるこのレースは、まさに今年のグランツールを占う上で、これ以上ない舞台となるでしょう。長年ヨーロッパのレースを追いかけてきましたが、これほどまでに本番前の「前哨戦」が注目される年は稀だと感じています。彼らがドーフィネで何を見せ、何を隠すのか。その心理戦と戦術に、今から胸が高鳴りますね。

ポガチャル：ジロの疲労と新たな挑戦の行方

タデイ・ポガチャル（SLN, UAE-XRG）は、今シーズン前半戦、ストラーデ・ビアンケ、ロンド・ファン・フラーンデレン、フレッシュ・ワロンヌ、リエージュ～バストーニュ～リエージュでの勝利に加え、パリ～ルーベとアムステルゴールドレースで2位、ミラノ～サンレモで3位と、クラシック戦線で圧倒的な強さを見せつけました。しかし、彼はクリテリウム・デュ・ドーフィネでの優勝経験がなく、過去のツール・ド・フランスへのアプローチでも、このレースは彼のメインルートではありませんでした。唯一の参加は2020年で4位という結果に終わっています。それでも、ポガチャルがカレンダー上の主要レースを全て制覇したいという野望を抱いていることは周知の事実であり、今回のドーフィネは彼にとってその野望を達成する絶好の機会となるでしょう。

アルレニス・シエラ Nevadaでの高地トレーニングを経て、このドーフィネに臨む彼には、前半戦の疲労をいかに回復させ、ツールへの準備を万全にするかという課題があります。世界チャンピオンの彼は、週末のアルプスでの山岳ステージで力を発揮するでしょうが、モンリュソン周辺の日曜日、中央山塊での月・火曜日、そして木曜日のマコンへ向かう起伏の多いコースでも、ヨナス・ヴィンゲゴーをテストするべく、仕掛けてくる可能性は十分にあります。特に、クラシックで共闘したマチュー・ファンデルプールがダイナミックな走りを望むなら、さらにその傾向は強まるでしょう。ポガチャルは、今回もその計り知れない強さを見せつけることができるのでしょうか？彼の走りから目が離せません。

ヴィンゲゴー：ベールに包まれた復帰戦、王者の証明なるか

ヨナス・ヴィンゲゴー（DAN, チーム ヴィスマ・リースアバイク）は、今シーズン、レース出場日数がわずか9日と、これまであまり姿を見せていません。ヴォルタ・ア・アルガルヴェでの勝利（ステージ1勝を含む）で幸先の良いスタートを切ったものの、パリ～ニース第5ステージ、コート＝サン＝タンドレへの下りでの落車が彼を襲い、脳震盪によりヴォルタ・ア・カタルーニャも欠場せざるを得ませんでした。これにより、彼のコンディションには大きな疑問符がついていました。

ドメラをスタートする今回のドーフィネで、ヴィンゲゴーはタデイ・ポガチャル以上に「証明」すべきものがあると言えるでしょう。しかし、ここは彼にとって慣れ親しんだ舞台です。2023年にはドーフィネで総合優勝を飾っており、2024年大会を欠場したのはバスクでの落車が原因でした。ヴァルミエニエ1800とモン・スニでの週末の2つの頂上フィニッシュは、まさに彼のために用意されたようなコースレイアウトである。彼はこの1週間で勝利を掴むだけでなく、ツール開幕まで1ヶ月を切ったリールでのグランデパールを前に、ポガチャルの心に「疑いの種」を蒔くことができるか、注目が集まります。彼の回復度と、本来のクライミング能力がどこまで戻っているのか、世界中のファンが固唾を飲んで見守っています。

エヴェネプール：未完の大器、ついに覚醒の時か

レムコ・エヴェネプール（BEL, スーダル・クイックステップ）は、昨年12月の練習中の大落車により、今シーズンは4月と遅めの始動となりました。ブラバンツ・パイルでの復帰戦での勝利、アムステルゴールドレースでの3位と華々しいカムバックを見せたものの、アルデンヌクラシックではリエージュ～バストーニュ～リエージュで59位と沈み、ツール・ド・ロマンディでも総合5位と、まだ波のあるパフォーマンスを見せています。しかし、最終日の個人タイムトライアルでの勝利は、彼にとって大きな収穫だったはずです。

スーダル・クイックステップのチームマネジメントは、エヴェネプールが昨年同時期よりも体重が1.5kgも減っており、予定よりも早く仕上がっていると自信を見せています。昨年、彼はドーフィネでは少し重い体で7位に終わりましたが、ツールまでには完璧に仕上げてきました。今大会、水曜日のシャルム＝シュル＝ローヌからサン＝ペレまでの17.7kmの個人タイムトライアルは、世界チャンピオンである彼にとって間違いなく見せ場となるでしょう。しかし、真の焦点は、山岳でポガチャルとヴィンゲゴーという「二つの怪物」との差をどこまで縮められるか、という点にあります。果たして、彼のグランツールでの真価が問われる一戦となるのか、それともまだ準備段階なのか。その駆け引きに注目です。

影の主役たち：若手とベテランの挑戦、そしてチーム内の力学

今大会は、三大巨頭だけでなく、彼らを脅かす、あるいは彼らに続くであろう選手たちの動向も見逃せません。

**マッテオ・ジョーゲンソン（USA, チーム ヴィスマ・リースアバイク）**は、ヨナス・ヴィンゲゴーの「豪華なアシスト」という役割を担う一方で、チーム ヴィスマ・リースアバイクにおける「プランB」以上の存在へと成長しました。パリ～ニースでは、ヴィンゲゴーのリタイア後にリーダーシップを継承し、見事に総合優勝を飾ったのは記憶に新しいでしょう。昨年ドーフィネでもプリモシュ・ログリッチにわずか8秒差で総合2位と、その実力は折り紙付きです。彼がヴィンゲゴーのバックアップとして、あるいは自ら総合を狙う存在として、どのような走りを見せるのか、注目です。

**カルロス・ロドリゲス（ESP, イネオス・グレナディアーズ）**は、2023年のツール・ド・フランスで総合5位に入って以来、安定感に欠けるシーズンを送っています。UAEツアーでの鎖骨骨折、ツール・ド・ロマンディでの不調と、今季はまだ本調子ではありません。しかし、イネオスは彼に信頼を寄せ、ドーフィネ、そしてツールでのエースとして起用する構えです。昨年、プラトー・デ・グリエールでの最終ステージ勝利で総合4位に食い込んだように、ここでの巻き返しが期待されます。

そして、今まさに「旬」を迎えているのが、**フロリアン・リポヴィッツ（ALL, レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ）**です。24歳のドイツ人クライマーは、昨年から急成長を遂げ、今季はパリ～ニースで2位、ツール・ド・ペイ・バスクで4位と、その実力を証明しています。チームのエースであるプリモシュ・ログリッチやジャイ・ヒンドレーがジロ・デ・イタリアの疲労回復に努め、アレクサンドル・ウラソフがツール・ド・スイスに参戦する中、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエは彼を全面的にサポートするでしょう。山岳に強く、タイムトライアルもこなせるリポヴィッツは、ドーフィネのコース特性に合致しており、ダークホースとして台風の目となるかもしれません。

さらに、**サンティアゴ・ブイトラゴ（COL, バーレーン・ヴィクトリアス）**にも注目です。ヴォルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナでの総合優勝、ツール・デ・アルプ＝マリティームでの2位と、序盤は好調でしたが、パリ～ニースでの落車と脳震盪でリズムを崩しました。チームは彼に期待を寄せていますが、21歳の若き才能、レニー・マルティネスが新たなオプションとして台頭しています。パリ～ニースでのステージ勝利、ツール・ド・ロマンディでのステージ勝利、そしてフレッシュ・ワロンヌでの4位と、その実力は目覚ましいものがあります。チーム内の力学も興味深いポイントです。

ツールへ向けた最終調整、そして心理戦の火蓋が切られる

クリテリウム・デュ・ドーフィネは、単なるステージレースではありません。ツール・ド・フランスという最高峰の舞台へ向けた、最後の、そして最も重要な調整の場であり、同時に熾烈な心理戦が繰り広げられる場所でもあります。各チームの戦略、選手たちのコンディション、そして彼らの表情や声のトーンから、私は次の展開を予見しようと努めています。

特に、タデイ・ポガチャル、ヨナス・ヴィンゲゴー、レムコ・エヴェネプールという3人のスーパースターが、互いにどのような駆け引きを見せるのか。彼らの走り一つ一つが、ツール・ド・フランスの行方を左右する伏線となるでしょう。また、ポール・セクサスのような若手がどこまで食い込むか、あるいはマリアンヌ・フォスのように、今後のロードレース界を牽引するであろう選手たちの成長の兆しが見えるか、なども注目です。今週末から始まるドーフィネ、皆さんもぜひ、彼らの「本気」を感じ取ってください。きっと、今年のツールが何倍も面白くなるはずです。...