最終ステージはモンマルトルを通過

山田 健一

ツール・ド・フランス2025、最終日は革命か？ モンマルトル通過決定の衝撃

ツール・ド・フランスのフィナーレといえば、誰もがパリ・シャンゼリゼでの華やかなスプリントを思い浮かべるだろう。世界中のスプリンターたちが、栄光の瞬間を掴むべく最後の力を振り絞る。しかし、2025年のツール・ド・フランス最終日は、その伝統を破る、まさに「革命」とも呼べるコース設定となることが明らかになった。大会主催者は水曜日、2025年大会の最終ステージが、あのパリ五輪で世界の度肝を抜いたモンマルトルの丘を通過すると発表したのだ。

シャンゼリゼ50周年のサプライズ

1975年以来、ツール・ド・フランスの最終フィニッシュ地点は、常にシャンゼリゼ大通りだった。そこは、マイヨ・ジョーヌを確定させた総合優勝者がパレード走行を楽しみ、その後に待つ周回コースで、純粋なスプリンターたちが最後の勝利を争う舞台として定着している。もちろん、例外がなかったわけではない。例えば1989年には、最終日ヴェルサイユからの個人タイムトライアルで、グレッグ・ルモンがローラン・フィニョンからマイヨ・ジョーヌをわずか8秒差で奪い取るという、歴史に残る大逆転劇が演じられた。そして、昨年（2024年）はパリ五輪の準備のため、異例のニースフィニッシュとなったのは記憶に新しい。

そして迎える2025年は、シャンゼリゼでの初フィニッシュからちょうど50周年にあたる記念すべき年だ。てっきり盛大なシャンゼリゼ周回で祝うのかと思いきや、主催者ASOは、あえて過去の伝統を破るサプライズを用意してきた。「シャンゼリゼでの50周年を記念し、異例のコースが設定された」とASOのリリースにはある。その「異例」の中身こそが、今回の発表の核心なのだ。

パリ五輪の感動、再び！

その異例のコースは、2024年パリ五輪のロードレース、特に男子レースのコースにインスパイアされているという。五輪では、選手たちはパリ市街を駆け巡り、特にモンマルトルの丘を3回も駆け上がった。ルピック通りを経由する急勾配と石畳。その難コースで、世界中の観客が沿道を埋め尽くし、選手たちに熱狂的な声援を送る様子は、まさに圧巻だった。サクレ・クール寺院の白いシルエットを背景に、苦悶の表情でペダルを踏み込む選手たちの姿は、今も目に焼き付いている。

2025年のツール最終ステージは、その五輪コースのエッセンスを取り込み、選手たちをモンマルトルの丘へと導く。サクレ・クール寺院の麓を通過とのこと。これは、単なるパレード走行とスプリントで終わるのではなく、最終日まで総合順位やポイント賞、山岳賞、あるいはステージ優勝を巡るドラマが、あの象徴的な場所で繰り広げられる可能性を示唆している。五輪のような熱狂が、ツールでも再現されるのか？考えるだけで鳥肌が立つ。

プロトンの規模とコースの難しさ

とはいえ、五輪とツールには大きな違いがある。ツール・ド・フランスのプロトンは、五輪の約90人に対して、倍近い176人もの選手で構成されるのだ。この大人数で、モンマルトルのような狭く勾配のあるコースを走破するには、五輪以上の安全確保と交通規制が必要となる。ツールのテクニカルディレクター、ティエリー・グヴヌー氏も五輪後にその点に言及していたと聞く。主催者はパリ市や警察当局と綿密な調整を重ねた上で、今回の決定に至ったのだろう。

シャンゼリゼの周回コースは、道幅も広く、集団スプリントには適しているが、展開としては比較的単調になりがちだった。しかし、モンマルトルを含む新コースは、その勾配とテクニカルな要素によって、レース展開を大きく揺さぶる可能性がある。最終日に逃げが決まるかもしれない。有力選手がアタックを仕掛けるかもしれない。あるいは、五輪のように少人数のサバイバルレースになる可能性だってある。50年間続いた「シャンゼリゼ＝スプリント」という常識が、いよいよ覆されるかもしれないのだ。

詳細なコースレイアウトは、5月21日に発表される記者会見で明らかになる予定だ。五輪コースのどの部分が採用されるのか？ モンマルトルは何度上るのか？ フィニッシュ地点はシャンゼリゼなのか、それとも五輪のようにトロカデロ広場付近になるのか？ 疑問は尽きないが、一つだけ確かなことがある。2025年のツール・ド・フランス最終日は、間違いなく歴史に残る一日となるだろう。あのモンマルトルの石畳で、どんなドラマが生まれるのか。今から楽しみで仕方がない。