ジロ 2025: カンターとウェルテンにイエローカード

ジロ・デ・イタリア2025：ジュリーレポートが映し出す、レースの「舞台裏」と選手たちの「素顔」

イタリア、フランス、スペインと、ヨーロッパの主要レースを追い続けてきた私の目に、今年のジロ・デ・イタリア序盤で特に留まったのは、毎日発表される「ジュリーレポート」だ。レースの結果や順位はもちろん重要だが、このジュリーレポートには、テレビ中継だけでは見えない、選手たちの息遣いや、時に人間味あふれる（？）行動、そしてレース運営の厳格な側面が凝縮されている。

ジュリー、すなわち競技委員会の裁定は、時に物議を醸すこともあるが、彼らの仕事はレースの公平性と安全を守ることにある。特にグランツールのような長丁場では、選手たちの疲労やプレッシャーが増大し、思わぬ違反行為に繋がることも少なくない。今年のジロ序盤のレポートからは、一体どんな「舞台裏」が見えてくるのだろうか。

ジロ序盤、多発する「うっかり」と「熱すぎ」な違反

ジロが始まって数日、ジュリーレポートを眺めていると、いくつかの典型的な違反が見受けられる。その中でも特に多いのが、「ボトル投げ捨て」に関するものだ。環境保護の観点から、指定されたゾーン以外でのボトルやゴミの投棄は厳しく禁じられている。これはもう何年も前から周知徹底されているルールなのだが、ついうっかり、あるいは無意識のうちにやってしまう選手が後を絶たない。

今年のレポートでも、第3ステージでEF Education First-EasyPostのダレン・ラファーティーがボトル投げ捨てで罰則を受けたと思いきや、その後の映像検証でチームメイトのカスパー・アスグリーンだったと訂正される一幕があった。これはまさに「うっかり」が招いた混乱と言えるだろう。カスパー・アスグリーンには罰金500スイスフラン、UCIランキング25ポイント減点、そしてイエローカードが科せられた。厳しい、と感じるファンもいるかもしれない。だが、これはレースの持続可能性を守るために必要な措置なのだ。

また、公衆の面前での排尿という、いかにもプロトンらしい（？）違反も報告されている。Alpecin-Deceuninckのクインテン・ヘルマンス、[コフィディス]のヤン・マース、Q36.5 Pro Cyclingのミラン・ファデルといった選手たちが罰金200スイスフランを科せられている。これもまた、レース中の生理現象とはいえ、プロとしての振る舞いが問われる部分。ヨーロッパのメディアでは、こうした「人間らしい」違反が笑い話として報じられることもあるが、ジュリーは容赦しない。

スプリントの混沌とルールの壁

ジュリーレポートで最も注目を集めやすいのは、やはりスプリントフィニッシュに関する違反だろう。最終盤の速度域では、選手たちは文字通り「熱く」なり、勝利のためにギリギリのラインを攻める。しかし、その「熱さ」が行き過ぎると、危険な行為やルールの逸脱に繋がる。

第4ステージでは、XDS [Astana]のマックス・カンターが「不規則なスプリント（不当なショルダーチャージ）」で罰金、ポイント減点、そしてなんと「所属グループでの最終順位への降格」という重い処分を受けた。さらにイエローカードまで。Picnic PostNLのブラム・ウェルテンも、スプリント中の遅延行為（他の選手を危険に晒した）でイエローカードを受けている。

スプリントにおけるショルダーチャージやライン変更は、過去にも多くの議論を呼んできた。どこまでが許容範囲で、どこからが危険行為なのか。ジュリーの判断は常に注目される。マックス・カンターのケースは、SNSでも「なぜ降格まで？」といった声が上がっていたようだ。現地メディアでも、チーム側が裁定に納得していないという報道があった。こうした判断の難しさも、スプリントの「混沌」の一部と言えるだろう。一瞬の判断が、順位だけでなく、選手自身の評判や今後のレースに影響を与えるのだから、選手たちにかかるプレッシャーは計り知れない。

見えない戦い：機材チェックとチームカーの動き

ジュリーレポートは、選手たちの行動だけでなく、レース運営の側面も垣間見せてくれる。毎日行われる「技術不正（メカニカル・ドーピング）との戦い」のための機材チェックもその一つだ。ジロ序盤、毎日数十台のバイクがチェックされ、今のところ全てのバイクがUCIのレギュレーションに適合しているとのこと。これは素晴らしいニュースである。見えないところで、こうした厳格なチェックが行われているのだ。

また、チームカーやモトの動きに関する違反も報告されている。VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネのチームディレクターが走行中の携帯電話使用で警告を受けたり、[Bahrain Victorious]のチームディレクターが車両の動きに関する違反で罰金を受けたりしている。レースを安全かつスムーズに進行させるためには、選手だけでなく、チームスタッフや帯同車両、メディアモトなど、コース上の全ての関係者がルールを守る必要がある。特にチームカーは、選手への補給や指示出し、メカトラブル対応など、重要な役割を担う一方で、その動き一つがレース展開や選手の安全に直結するため、細心の注意が求められる。

ジュリーレポートから読み解く、ジロの行方

ジュリーレポートは、単なる罰則リストではない。それは、レースの激しさ、選手の人間性、そして運営側の努力が詰まった、まさにジロの「舞台裏」の記録である。ボトル投げ捨てや公衆の面前での排尿といった「うっかり」違反は、選手たちがどれだけ集中し、そして同時にどれだけ肉体的・精神的に追い込まれているかを示唆している。スプリントでの違反は、勝利への執念と危険性のバランスを物語る。そして、機材チェックや車両に関する違反は、レースが多くの要素によって成り立っていることを教えてくれる。

ワウト・ファンアールトやマッズ・ピーダスンといったトップスプリンターたちも、こうした細かいルールの中で、いかに最大限のパフォーマンスを発揮できるか。総合を狙う選手たちは、長いレースの中で無用なペナルティを受けないよう、いかに冷静さを保つか。ジュリーレポートを読み解くことは、単に誰が罰せられたかを知るだけでなく、選手たちのコンディションや心理状態、そしてチームの規律までをも推測するヒントになるのである。

ジロはまだ始まったばかり。これからどんなドラマが生まれ、そしてジュリーレポートにはどんな驚きが記されるのだろうか。一つ一つの裁定に込められた意味を考えながら、今後のレースを見守っていきたい。