北の地獄、舞台裏への誘い

パリ～ルーベ2025、北の地獄は準備万端か？フランソワーズの朝食、ポン・ジビュ、そしてアランベールの森

パリ～ルーベといえば、石畳。石畳といえば、パリ～ルーベ。この方程式は、もはやロードレース界の常識と言えるでしょう。今年もまた、あの悪夢のような石畳が選手たちを待ち受けています。レース本番を前に、「北の地獄」ことパリ～ルーベのコースを徹底的にチェックしてきました。まるで戦場へ赴く兵士のように、細部まで確認するのです。

コースディレクター、ティエリー・グヴヌとの濃厚な一日

今回、私は特別にパリ～ルーベのコースディレクター、ティエリー・グヴヌ氏の車に同乗させてもらい、コースの公式な試走に同行することができました。早朝6時20分、パリを出発。グヴヌ氏は、1991年にグレッグ・レモン、1992年と1993年にはジルベール・デュクロラサールのチームメイトとして、このレースを走っています。自身も2002年には7位に入っている、まさに「ルーベを知り尽くした男」です。そんな彼から直接話を聞けるなんて、こんな贅沢な機会はありません。

「日曜日は雨になるかもしれないな…まあ、火曜日の天気予報だけどね」と、グヴヌ氏は冗談交じりに天気予報を気にしながら、最初の目的地であるトロワヴィルへと向かいました。

フランソワーズの朝食：40年間変わらぬ伝統

午前8時30分、トロワヴィルに到着。私たちが向かったのは、フランソワーズ・サンテールさんの経営するレストラン。ここは、パリ～ルーベのコース試走に訪れる人々にとって、40年間変わらぬ「聖地」なのです。

テーブルには、コルニッション、ニンニクソーセージ、パテ、そしてパンが並びます。そして、名物のふわふわオムレツが登場。ビールやコーヒーと共に、これらを味わうのが、ルーベの伝統なのです。

「1980年代の終わり、主催者はヌーヴィリー以外の石畳区間の入り口を探していました。トロワヴィルに立ち寄り、朝食をとれる場所を探していたところ、フランソワーズが『うちの冷蔵庫に卵があるわよ』と言ってくれたのが始まりです」とグヴヌ氏。「彼女は石畳の保護にも熱心で、自転車競技を愛しています。ここは儀式であり、集いの場となりました。試走には欠かせない場所です」。

アランベールの森：伝説の石畳と安全対策

午後2時、いよいよ「北の地獄」の象徴、アランベールの森へ。昨年は、速度抑制のためにシケインが設けられましたが、今年は撤去されました。しかし、安全対策は万全です。

「以前の採掘場跡地を利用して、アランベールの森への新たな進入路を設けました。直線で進入する代わりに、最後の600メートルで4つのコーナーを通過するため、速度は約35km/hに抑えられます。コーナーごとに選手が減速し、隊列が分断されるため、集団で進入することはできなくなります」とグヴヌ氏は説明します。

実際に車で石畳を走ってみると、その揺れは想像以上。特に後半部分は草が生い茂り、まるで春の草原のようです。しかし、日曜日のレースでは、タデイ・ポガチャルやマチュー・ファンデルプールといったトップ選手たちは、笑顔を見せる余裕などないでしょう。

パリ～ルーベ・ファム：女子レースへの期待

今回の試走では、パリ～ルーベ・ファムのコースも確認しました。デンインからスタートするこのレースは、今年で5回目の開催となります。全長148.5km、17の石畳区間（計29.2km）を含むコースは、年々その注目度を高めています。

記者会見では、フランスの英雄、ポーリーヌ・フェランプレヴォー(チーム ヴィスマ・リースアバイク-Lease a bike)の出場が発表され、大きな話題となりました。「彼女は中長期的な目標としてルーベを考えていたようです。ロードレースへの復帰後、彼女の調子は上向きで、良い結果が期待できます」と、レースディレクターのフランク・ペルク氏は語ります。

女子レースでも、モンサンペベルやカルフール・ド・ラルブルといった難関区間が登場します。観客もメディアも、そして主催者も、「PFP」ことポーリーヌ・フェランプレヴォーの活躍に期待を寄せているのです。

パリ～ルーベは、単なる自転車レースではありません。そこには、人々の情熱、歴史、そして伝統が詰まっています。今年のレースも、きっと記憶に残るドラマが生まれることでしょう。