ケビン・ヴァウクラン「本当に悔しい」

落車のアクシデントを乗り越え、ケヴィン・ヴォークランが掴んだ「悔しさの2位」 フランス選手権個人TTが示す未来

フランス選手権個人タイムトライアルで、Arkéa-B＆Bホテルズのケヴィン・ヴォークランがまたしても2位に終わりました。しかし、今年は昨年とは異なる「悔しさ」がその表情にはありました。レース序盤の不運な落車、そしてそれでも見せた驚異的な走り。この結果が、彼、そしてフランスのサイクルロードレース界に何をもたらすのか、グランツール担当の山田健一が深く掘り下げます。

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「まさか、そこで？」：レースを狂わせた不運な落車

レ・ゼルビエで開催されたフランス選手権個人タイムトライアル。レース序盤に、Arkéa-B＆Bホテルズの若きエース、ケヴィン・ヴォークランに不運が襲いました。彼のスポーツディレクターであるローラン・ピションが「ありえない場所で」と語るように、危険のない左カーブで前輪が滑り、落車してしまったのです。

「車から飛び降りて、彼に自転車を渡し、背中を押すまでに多くの時間をロスした」と、フローランス・ノルマンのトレーナーを務めるケヴィン・リナルディは振り返ります。このアクシデントにより、ヴォークランは想定していたペース配分を完全に狂わされ、タイムロスだけでなく精神的なダメージも負ったはずです。それでも彼は、その後、上り区間を予定よりも速いペースで駆け上がり、文字通り「できる限り」の力でフィニッシュラインを目指しました。肘と膝には痛々しい擦過傷を負いながらも、その闘志は失われていなかったのです。

チームメイトのティボー・ゲルナレックも同じレースで落車していたという事実も、この日のコースの難しさ、あるいは不運な要素が重なったことを示唆しています。しかし、ヴォークランの落車は、まさに「まさか、そこで？」という、プロでも避けがたい一瞬の不運だったと言えるでしょう。

「それでも2位」：精神的な成長と揺るがぬ実力

落車という決定的なアクシデントに見舞われながらも、ケヴィン・ヴォークランは最終的に2位という結果を掴み取りました。これは彼の並外れた実力と、何よりも精神的なタフネスの証しに他なりません。昨年のフランス選手権個人タイムトライアルでも、彼は優勝したブリュノ・アルミライユにわずか3秒差で敗れ、その悔しさを露わにしていました。しかし、今年の彼は一味違いました。

「落車が僕の勢いを削いだけど、脚の調子はとても良かったんだ。悔しいけど、これがレースの状況だ」と、ヴォークランは淡々と語ります。そして、印象的だったのは彼の次の言葉です。「落車してタイトルを失う方が、調子が悪くて感覚が悪いよりも安心できる。僕は相対的に見ているよ」。この言葉は、彼が単なる結果だけでなく、自身のパフォーマンスの質そのものを重視していることを示しています。落車がなければ勝てたかもしれないという自信、そしてそれを上回るブリュノ・アルミライユの強さを素直に認める謙虚さも持ち合わせているのです。

この「それでも2位」という結果は、彼がトップレベルの選手としてさらに成長していることを物語っています。不運に見舞われても崩れない安定感と、状況を受け入れ、次へと目を向ける精神力。これはグランツールのような長丁場のレースを戦い抜く上で、非常に重要な資質と言えるでしょう。

フランスTT界の躍進とヴォークランの未来

近年、フランスのタイムトライアル界は目覚ましい進歩を遂げています。かつてはTTスペシャリストが少ないと言われていたフランスですが、この記事でも触れられているように、「フランス人選手はもはやタイムトライアルを軽視しない」という意識改革が進んでいます。ブリュノ・アルミライユの安定した強さ、そしてケヴィン・ヴォークランや、女子TTを制したセドリーヌ・ケルバオルといった若手・中堅の台頭は、その証拠に他なりません。

ヴォークランは、今年のツール・ド・スイスでも総合2位に入るなど、TTだけでなく山岳もこなせるオールラウンダーとしての才能を開花させています。彼のポテンシャルは計り知れません。今回のTTでの不運はあったものの、彼のコメントからは、今週末のロードレースへの意欲がひしひしと伝わってきます。「最終盤の上り以外はまだコースを見ていない」としながらも、「消耗戦になるだろうし、獲得標高もかなりある。35～40度の気温も予想される」と、過酷な条件でのレースを想定しています。このようなタフなレースこそ、彼の粘り強さが活きる舞台となる可能性を秘めています。

SNSでは、フランスのファンから「大したことないよ、チャンピオン！ツール・ド・フランスが君を待っている！」といった応援の声が上がっています。彼らの期待は、今回の悔しい結果にもかかわらず、ヴォークランの未来に向けられています。

グランツールを担当する私の視点から見ても、今回のフランス選手権は、ケヴィン・ヴォークランにとって大きな意味を持つレースだったと言えるでしょう。落車というアクシデントに見舞われながらも、自己分析を怠らず、自身の状態と向き合う彼の姿勢は、まさに一流のプロフェッショナルです。現代のロードレースにおいて、個人タイムトライアルの重要性は増す一方であり、ヴォークランのようなTTもこなせるオールラウンダーは、グランツールで総合を狙う上で不可欠な存在です。

今回の経験が、彼をさらに強くするはずです。この悔しさをバネに、彼はどのように成長し、ツール・ド・フランスをはじめとする世界の舞台で、どのような走りを披露してくれるのか。落車からのリカバリー、そしてロードレースでの活躍が、彼の真価を問う試金石となるでしょう。彼の次なる挑戦に、ぜひご注目ください。私も、彼の雄姿をグランツールの現場で見られる日を心待ちにしています。