ゴデュ、再起へ向けリセット

ダヴィド・ゴデュ、ツール・ド・フランス欠場の衝撃と再起への道：マルク・マディオ監督が語る「リセット」の真意

今年のツール・ド・フランス開幕を前に、ロードレース界に衝撃が走りました。フランスの期待を背負うGroupama-FDJのリーダー、ダヴィド・ゴデュが、今年のグランツール最高峰の舞台への出場を断念したのです。「50%の状態では、正しい選択ではない」――彼の監督であるマルク・マディオのこの言葉には、選手とチームが下した苦渋の決断、そして未来への強い意志が込められています。

ツール・ド・フランスといえば、選手にとってキャリアの集大成であり、最高の栄誉をかけた舞台。特にフランス人選手にとっては、自国開催ということもあり、並々ならぬ想いがあるはずです。2022年にはツール総合4位という輝かしい成績を残し、フランスの次世代エースとして期待されてきたダヴィド・ゴデュ。しかし、今シーズンは彼にとってまさに「混沌」と表現されるような、困難な道のりでした。果たして、この決断の裏には何があったのでしょうか。そして、彼はどのようにして再び輝きを取り戻すのでしょうか。グランツールを中心にヨーロッパのレースを追い続けてきた私、山田健一の視点から、その背景を深く掘り下げていきましょう。

度重なる不運と「混沌」のシーズン

今シーズンのダヴィド・ゴデュは、まさに不運に見舞われ続けています。冬のトレーニング中に猫との衝突で落車したのを皮切りに、イタリアの石畳が舞台となるストラーデ・ビアンケ、そしてティレーノ〜アドリアティコでは手の骨折を負うなど、すでに4度の落車を経験しています。極めつけは5月のジロ・デ・イタリアでの負傷。これら一連の落車が、彼のコンディションを大きく蝕んでいきました。

Groupama-FDJのマルク・マディオ監督は、彼の今シーズンを「カオス」と表現しています。本来のパフォーマンスを発揮できない焦り、そして度重なるアクシデント。現地メディアの報道を見ても、彼の表情には常に苦悩が滲み出ていました。選手が本来の力を出せないシーズンは、精神的にも肉体的にも非常に辛いものです。特にグランツールの総合を狙うような選手にとって、シーズン序盤の落車は、その後の準備に大きな影響を与えます。ジロ・デ・イタリアで上向きの調子で終えられなかったことが、ツール・ド・フランスへの道のりをさらに険しくしたことは想像に難くありません。まさに「負の連鎖」に陥っていたと言えるでしょう。

「50%では意味がない」苦渋の決断の裏側

今回のツール・ド・フランス欠場は、ダヴィド・ゴデュ本人、チーム、そして彼のトレーナーであるダヴィド・ハン氏を交えた「集合的な」判断だったと報じられています。ハン氏も「100%でなければ、ツールでは存在感を示すことすらできない」と語っており、彼のデータが示すコンディションは「並外れたものではない」と率直に認めています。2022年に総合4位という輝かしい成績を残した彼が、現在の状態では「ツールを完走するだけ」になってしまうという現実。それは、選手本人にとっても、チームにとっても、何の意味もなさないという結論に至ったのでしょう。

私自身も長年グランツールを取材してきましたが、トップ選手がコンディション不良のままビッグレースに出場し、不本意な結果に終わるケースを何度も見てきました。それは選手自身のキャリアに傷をつけるだけでなく、チームの士気にも影響を与えかねません。特にツール・ド・フランスのような世界中の注目が集まる舞台では、その影響は計り知れません。今回の決断は、彼が28歳というキャリアのピークを迎えようとしている年齢であることを考えると、非常に勇気がいるものだったはずです。しかし、これが彼自身の未来、そしてGroupama-FDJというチームの未来を考えた上での最善の選択だったと、私は確信しています。まさに「英断」と言えるでしょう。

再建への道：マディオ監督の「炎を再燃させる」哲学

マルク・マディオ監督は、ダヴィド・ゴデュに対し、「リセット」の必要性を強く訴えています。「ある時点でどうする？彼が最高の状態ではないのに沈み続けるのか、それともリセットしてシーズン後半を確実にするのか？」この言葉からは、選手を長期的な視点で見守る、監督の深い愛情と戦略が見て取れます。彼の持つ「本質的な資質」が失われたわけではない、とマディオ監督は強調します。まるで故障した機械を修理するかのように、じっくりと時間をかけて彼を再建する。その覚悟が伝わってきますね。

マディオ監督は、ダヴィド・ゴデュが「苛立ち」や「皮肉」に耳を傾けすぎないよう促し、自身の経験を語って彼を鼓舞しました。1990年12月15日、失業者だった彼が、クインティ・トンの兄弟であるイヴォン・マディオからの誘いを受け、わずか5ヶ月後にパリ〜ルーベで優勝したというエピソードです。苦しい時期を乗り越え、逆境をバネにする。この「ハングリー精神」こそが、マディオ監督がダヴィド・ゴデュに求めるものでしょう。「怒り」や「反骨心」を力に変えろ、と。これは、選手が精神的に落ち込んでいる時に、経験豊富な監督だからこそ伝えられる、重みのあるメッセージです。SNSでの反響を見ても、多くのファンが彼を心配しつつも、この再建への道を応援していることが伺えます。

チームの戦略と今後の展望

ダヴィド・ゴデュの欠場は、Groupama-FDJのツール・ド・フランスにおける戦略に大きな変化をもたらすかと思いきや、マディオ監督のコメントからは、すでにチームの方向性が定まっていたことが伺えます。「彼の欠場は、さほど大きな変化ではない。我々の戦略はすでにロマン・グレゴワールを中心に、そしてギヨーム・マルタンのサポートという形に固まっていたからだ」と。若き才能ロマン・グレゴワールの成長に期待し、彼をエースとしてツールに送り出す。そしてベテランのギヨーム・マルタンがチームを支える。これは、チームが世代交代を進める中で、ゴデュのコンディション不良とは別に、若手育成に舵を切っていたことを示唆しています。

ダヴィド・ゴデュ自身は、ツール・ド・フランスをテレビで観戦することになるでしょう。今年のフランス選手権も、彼は欠場しました。しかし、彼にとって「大舞台のプレッシャーから離れて、一ヶ月間牧草地で過ごす」ことは、決して悪いことではないはずです。そして、彼の次の目標は、昨年総合6位と好成績を残したブエルタ・ア・エスパーニャになる可能性が高いと見られています。スペインの山岳で、彼が再び輝きを取り戻すことを、日本のファンも心待ちにしていることでしょう。

この決断が、ダヴィド・ゴデュにとって、そしてGroupama-FDJにとって、新たな飛躍のきっかけとなることを願ってやみません。彼はまだ28歳。その才能が完全に開花する日は、きっと来ると信じています。さあ、今年のツール・ド・フランス、そしてその後のダヴィド・ゴデュの動向から、ますます目が離せませんね！