最終局面の大逆転？フィネストレ峠がリチャル・カラパスに希望

コレ・デッレ・フィネストレが呼び起こす「究極の逆転劇」：ジロ・デ・イタリア最終決戦への期待

2025年ジロ・デ・イタリア。いよいよ最終局面、その中でも最もドラマティックな舞台が整いました。マリア・ローザを巡る戦いは、最終山岳決戦を前に、わずか43秒差という息をのむような状況にあります。首位を走るはイサーク・デルトロ、そして猛追するのはリチャル・カラパス。この僅差をひっくり返す可能性を秘めているのが、悪名高き難所、コレ・デッレ・フィネストレです。

この伝説的な山岳が、過去にどれほどのドラマを生み出してきたか、皆さんはご存知でしょうか？ まさに「究極の逆転」が起こりうるこの舞台で、果たして何が起こるのか。過去の激闘を振り返りながら、今大会の行方を占ってみましょう。

荒れる「未舗装の難所」：コレ・デッレ・フィネストレの魔力

ジロ・デ・イタリア2025の第20ステージ、セストリエーレへの最終山岳は、4つの厳しい登りを選手たちに課します。中でも、終盤に控えるコレ・デッレ・フィネストレの存在感は際立っています。全長18.4km、平均勾配9.2%という数字だけでもその厳しさが伝わってきますが、特筆すべきはその「未舗装区間」。頂上までの最後の8kmは、まさに「ストラデ・ビアンケ（白い道）」が標高2,000mを超える高地に出現したかのような、荒々しいグラベルロードとなるのです。

絵に描いたような美しいパノラマが広がるこの山岳も、選手たちにとってはまさに地獄。砂塵が舞い、路面は荒れ、タイヤはグリップを失いかける。ここで一瞬でも集中が途切れれば、勝利への道は閉ざされてしまいます。マリア・ローザを着用するイサーク・デルトロにとっては、まさに「ワーテルローの戦い」となるかもしれない。一方で、虎視眈々と逆転を狙うリチャル・カラパスにとっては、千載一遇のチャンスとなるでしょう。このフィネストレこそが、第108回ジロ・デ・イタリアの勝者を決める、決定的な舞台となることは間違いありません。

2005年：サヴォルデッリの「奇跡の生還」

コレ・デッレ・フィネストレがジロ・デ・イタリアに初登場したのは、今からちょうど20年前、2005年5月28日でした。当時の総合リーダーは、ディスカバリー・チャンネルのパオロ・サヴォルデッリ。「イル・ファルコーネ（鷹）」の異名を持つ彼は、ジルベルト・シモーニに2分、ホセ・ルハノとダニーロ・ディルーカに3分という、一見盤石に見えるリードを築いていました。しかし、サヴォルデッリは決して楽観視していなかった。なぜなら、このジロの真骨頂は、まさにこの最終盤に隠されていたからです。

フィネストレは、当時の選手たちにとって全く未知の山岳でした。その未舗装区間は、サヴォルデッリにとって想像以上に過酷な試練となります。ライバルたちの猛烈なアタックに、マリア・ローザは徐々に遅れを取り始めました。頂上では、その差は2分19秒にまで拡大。彼のジロは風前の灯火かと思われました。しかし、ここでサヴォルデッリの真骨頂が発揮されます。驚異的なダウンヒル技術と、ダビタモンのマウリシオ・アルディラ、ウィム・ファンフッフェルという、本来ならライバルチームの選手たちからの助けを得て、彼は奇跡的にマリア・ローザを守り切ったのです。ステージを制したポケットクライマー、ルハノは、総合優勝にあと28秒届きませんでした。まさに、フィネストレがもたらした「奇跡の生還」だったと言えるでしょう。

2011年、2015年：コンタドールの明暗

2011年、フィネストレが再び登場した際には、2005年のような劇的な展開はなりを潜めました。アルベルト・コンタドールが数週間にわたってジロを完全に支配しており、マリア・ローザの行方はすでに決着していたからです。この日は、序盤から逃げたヴァシル・キリエンカが独走勝利を飾り、総合争いは静かな推移を見せました。ホアキン・ロドリゲスがアタックを試みるも、メイン集団は崩れず。ミケーレ・スカルポーニやヴィンチェンツォ・ニバリも一時遅れる場面はありましたが、ダウンヒルで態勢を立て直し、フィネストレを巡る戦いは、やや物足りない結果に終わったと言えるでしょう。

しかし、その4年後、2015年に再びフィネストレがコースに組み込まれた時、アルベルト・コンタドールは異なる顔を見せました。再びマリア・ローザを着用していた彼ですが、この年は決して順風満帆ではありませんでした。フィネストレの未舗装区間に入ると、ミケル・ランダのアタックを皮切りに、ファビオ・アルー、ライダー・ヘシェダル、リゴベルト・ウラン、ステフェン・クライスヴァイクといったライバルたちが次々と加速。コンタドールは苦悶の表情を浮かべ、集団から遅れ始めます。「まさか、コンタドールでもこんなに苦しむのか！」と、私も思わず唸ってしまいました。しかし、彼は経験と粘り強さで必死に食らいつき、何とかダメージを最小限に抑えます。最終的にファビオ・アルーには2分以上の差をつけられながらも、総合での大差が幸いし、彼はこの年、見事にジロの総合優勝を勝ち取ったのです。フィネストレは、コンタドールのタフネスを改めて証明する舞台となりました。

2018年：クリストファー・フルームの「不可能を可能にした」大逆転劇

そして、フィネストレの歴史に刻まれた最も衝撃的な一幕といえば、間違いなく2018年のクリストファー・フルームの大逆転劇でしょう。大会序盤はサイモン・イェーツとトム・デュムランが主役を演じ、フルームは影を潜めていました。フィネストレを擁する第19ステージを迎える時点で、彼はイェーツに3分以上の差をつけられていたのです。誰もが「もう、フルームのジロは終わった」と思ったはずです。

しかし、あの日のフルームは違いました。スタートから80km地点、まだフィネストレの麓にも到達していない地点で、彼はまさかのロングアタックを敢行したのです。「え、今行くのか！？」と、世界中のファンが驚きに包まれました。フィネストレの未舗装区間で、イェーツは完全に崩壊し、なんと39分もの大差を失うという悲劇に見舞われます。一方、フルームは圧倒的な力で独走を続け、トム・デュムランがなすすべもなく見守る中、バルドネッキアのゴールラインへ。この日、彼はマリア・ローザを奪取し、まさかの総合優勝を成し遂げたのです。あの日の興奮は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。

このクリストファー・フルームの「不可能を可能にした」大逆転劇こそが、今日のリチャル・カラパスに希望を与える最大の理由となるでしょう。

今日のフィネストレで、イサーク・デルトロはマリア・ローザを守り切れるのか。それともリチャル・カラパスが歴史に名を刻む大逆転を演じるのか。この伝説の山岳が、また新たなドラマを生み出すことに疑いの余地はありません。日本のファンも固唾を飲んで見守りましょう。

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