デル・トロ、王者の誕生

21歳の新星、イサーク・デルトロのジロ・デ・イタリアで見えた「未来へのパスポート」

今年のジロ・デ・イタリアは、まさにイサーク・デルトロという一人の若き才能が世界にその名を轟かせた大会だったと言えるでしょう。UAEチームエミレーツ・XRGに所属するこのメキシコ人クライマーは、イタリアの厳しい山岳路で連日アグレッシブな走りを見せ、多くのベテラン選手を凌駕するパフォーマンスを披露しました。特に、11日間にわたって総合首位の証であるマリア・ローザを身に纏い続けた姿は、多くのファンの心を掴んで離しませんでしたね。

しかし、レースは非情です。最終日前日、運命のフィネストレ峠、そしてセストリエールへの上りで、彼はマリア・ローザをサイモン・イェーツに奪われ、総合2位でフィニッシュラインを切ることになりました。この結果に、彼自身はもちろん、チーム全体にも大きな悔しさが残ったことでしょう。ですが、考えてみてください。まだ21歳という若さで、これほどまでにグランツールをリードし、リチャル・カラパス、プリモシュ・ログリッチ、そしてチームメイトのフアン・アユソといった強豪たちを相手に堂々と渡り合ったのです。この経験は、彼が真のグランツールチャンピオンとなるための、かけがえのない試練であり、輝かしい成長の証に他なりません。彼の表情には、悔しさの中に、確かな手応えと未来への強い意志が宿っているように見えました。

リーダーとしての覚醒、そして葛藤

マリア・ローザを着用するということは、単にレースで速く走るだけではありません。それは、メディア対応、ドーピング検査、表彰式といった日々のプロトコルに加え、チームの顔として、そして何よりもレースのリーダーとしての重圧を背負うことを意味します。UAEチームエミレーツ・XRGのモーロ・ジャネッティ監督は、「イサークは初めてステージレースでリーダーのポジションを経験した。それが『美しい』ことだけでなく、その周りにある全て、つまり観衆、毎日1時間半に及ぶメディア対応、セレモニー、ドーピング検査、そして全てのプロトコルを学んだのだ」と語っていました。これは、他の選手よりも多くの時間を費やすことになり、精神的にも肉体的にも負担がかかるものです。

特に、マリア・ローザを失った最終盤の展開では、彼の戦術やリーダーシップに対し、SNS上では様々な議論が巻き起こりました。「マリア・ローザを尊重しなかった」という批判的な声もあれば、「彼の若さとポテンシャルを賞賛すべきだ」という擁護の声もありました。中には、「リチャル・カラパスを負かすことに固執し、結果的に自分も失ったのではないか」といった分析も散見されました。確かに、レース終盤のあの局面で、彼がどのような選択をするべきだったのかは、後から見れば議論の余地があるかもしれません。しかし、21歳の彼が、あの極限の状況で下した判断は、彼の「キャラクター」の誕生を告げるものであったとも言えるでしょう。チームメイトのラファル・マイカが「彼は21歳だ！私は彼に多くの敬意を払っている。彼は偉大なチャンピオンになるだろう」と語っていたように、彼の成長には時間が必要なのです。この経験を通じて、彼は真のリーダーとしてさらに覚醒していくに違いありません。

UAEチームエミレーツ・XRGの戦略と育成哲学

UAEチームエミレーツ・XRGは、イサーク・デルトロの今回のジロでのパフォーマンスを、決して失敗とは捉えていません。むしろ、モーロ・ジャネッティ監督は「我々はハイレベルな選手、チャンピオンを発見した」と断言し、デルトロの将来に絶大な期待を寄せています。チームは、彼がマリア・ローザを失ったことに対する批判の火種を消すかのように、満面の笑みで彼を擁護しました。これは、チームがデルトロを単なる一過性のスターではなく、タデイ・ポガチャルの後を継ぐ、あるいは共にチームを牽引する将来の柱として育成する明確なビジョンを持っている証拠でしょう。

デルトロは、2024年1月のプロデビューからわずか2日目のツール・ダウンアンダーでステージ優勝を飾り、3月にはミラノ～トリノを制覇。さらに、ミラノ～サンレモではタデイ・ポガチャルのアシスト役を務め、そしてこのジロ・デ・イタリアでもマリア・ローザを着用してステージ優勝を飾るなど、驚くべきスピードで成長を遂げています。彼のマネージャーであるフェルナンデス・マッチンも、「イサークは尊重されるべき若い選手だ。プレッシャーをかけすぎないでほしい。しかし同時に、彼は勝ち方を知っている選手であり、それを既に証明している」と語っていました。UAEチームエミレーツ・XRGの育成哲学は、若き才能を焦らせることなく、しかし確実に大舞台で経験を積ませ、そのポテンシャルを最大限に引き出すことにあります。「確かに！」と唸るような、長期的な視点に立った戦略が見て取れますね。

未来への布石、ツール・ド・フランス不参加の真意

今回のジロでの活躍を受け、「7月のツール・ド・フランスでタデイ・ポガチャルのアシストとしてデルトロが出場するのではないか」という憶測が内部でも上がったようですが、チームはこれを早々に否定しました。彼の今シーズン後半のプログラムは、休養と、さらなる成長のための別の目標に定められています。これは、彼を酷使することなく、長期的な視野で育成していくというチームの強い意思の表れでしょう。

21歳でグランツールを総合2位で終えるという快挙は、並大抵のことではありません。その若さゆえに、まだ学ぶべきことは多いとジャネッティ監督は指摘します。特に、マリア・ローザを着用する「プロトコル」の全てを経験したことは、彼の今後のキャリアにおいて非常に大きな財産となるはずです。「そうだったのか！」と膝を打つような、深い育成意図がそこには隠されているのです。いつか、彼がツール・ド・フランスの「グラン・ブークル（大きな輪）」を制覇する日が来るかもしれません。その日まで、私たちは彼の成長を温かく見守り、彼の輝かしい未来に期待を膨らませるばかりです。次も読みたい！と思わせる彼の物語は、まだ始まったばかりなのですから。