エヴェネプール、AGインシュランス・スーダル チーム-Quick Stepのリーダーに

「神童」レムコ・エヴェネプール、ドーフィネでツールへ向けた最終調整へ

今年のツール・ド・フランスを前に、世界中のロードレースファンが固唾を飲んで見守る一人の選手がいます。それが、AGインシュランス・スーダル チーム-Quick Stepのエース、レムコ・エヴェネプールです。昨年12月のトレーニング中の大事故によりシーズン序盤の計画が大きく狂った彼が、いよいよクリテリウム・デュ・ドーフィネ（6月8日〜15日）で本格的なレース復帰を果たします。これは、来るツール・ド・フランス（7月5日〜27日）に向けた最後の重要な準備段階であり、彼のコンディションが今どうなっているのか、世界が注目しているのです。

彼の復帰は、単なる一選手のカムバック以上の意味を持ちます。なぜなら、ドーフィネの舞台には、今夏のツール・ド・フランスで覇権を争うであろうライバルたち、UAE Team Emiratesのタデイ・ポガチャル、そしてVisma-Lease a bikeのヨナス・ヴィンゲゴーといった絶対的王者たちが集結するからです。「三強」と呼ばれる彼らが、グランツール前の前哨戦でどのようなパフォーマンスを見せるのか。このドーフィネで、今年のツールの勢力図が大きく塗り替えられる可能性を秘めている、と言っても過言ではないでしょう。

満を持しての復帰、その背景にあるもの

スペインのシエラネバダ山脈での高地合宿から戻ったレムコ・エヴェネプールは、5月4日のツール・ド・ロマンディの個人タイムトライアルでの勝利以来、レースから遠ざかっていました。約1ヶ月ぶりに実戦復帰となるわけですが、彼自身のコメントからは、慎重ながらも手応えを感じている様子が伺えます。彼は「アクションに戻れて嬉しい」と語り、今シーズンは昨年12月の深刻なトレーニング事故の影響で、わずか10日程度のレースしか経験できていない現状を明かしました。しかし、今季出場したアムステルゴールドレースでは強豪相手に3位という結果を残しており、そのポテンシャルの高さは健在です。

彼のフィジカルコンディションについては、現地メディアも大きく報じています。「昨年よりも1.5kg軽い」という情報が飛び交うなど、ツール・ド・フランスに向けて肉体改造が進められているようです。しかし、レムコ・エヴェネプール本人は「特定の目標を持って臨むわけではない。最も重要なのは、自分の調子を確認することだ」と冷静にコメントしています。グランツール担当の私から見ても、このコメントは非常に興味深い。焦りを見せず、あくまでツール・ド・フランスを最終目標として見据えている、その強い意志が感じられますね。

ドーフィネが示す、ツール・ド・フランスの行方

クリテリウム・デュ・ドーフィネは、そのコース設定から「ミニ・ツール・ド・フランス」とも称されるほど、ツール・ド・フランスの総合争いを占う上で重要な大会です。特に今年は、レムコ・エヴェネプールがタデイ・ポガチャル、ヨナス・ヴィンゲゴーといったツールの優勝候補と直接対決する機会が設けられており、その動向から目が離せません。彼がこのドーフィネでどのような走りを見せるかが、今夏の「グラン・ブークル」（ツール・ド・フランスの愛称）での可能性を測る、まさに試金石となるでしょう。

AGインシュランス・スーダル チーム-Quick Stepは、レムコ・エヴェネプールを総合エースに据え、強力な布陣で彼をサポートします。山岳ではフランスのヴァランタン・パレパントル-Peintre、ツール・ド・バスクで勝利を挙げたドイツのマキシミリアン・シャフマン、そしてベルギーのルイス・フェルヴァーケがアシストを務めます。平坦ステージでは、オランダの強力なルーラー、パスカル・エインコールンとペピン・レンデリンク、そしてデンマークのカスパー・ピーダスンが「トレイン」を組み、彼を風から守り、位置取りを助ける役割を担うことになります。チームは彼のコメントからも分かるように、決して「総合優勝」を至上命題とはせず、あくまでツールの準備として、一歩一歩着実に進んでいく方針のようです。しかし、その裏では虎視眈々と好結果を狙っているのは間違いありません。

タフなコース設定とファンの期待

クリテリウム・デュ・ドーフィネは、ドメラからモンリュソンへの195.8kmという起伏の多いステージで幕を開けます。そして、最終日のモン・スニ峠でのフィニッシュまで、2つの高山ステージと個人タイムトライアルが設定されており、総合争いはもちろんのこと、各ステージでの駆け引きも非常に見応えのあるものとなるでしょう。これはまさに、ツール・ド・フランスの予行演習とも言えるコース設定です。

SNS上では、レムコ・エヴェネプールの復帰と、彼が山岳でどれだけ強力なサポートを受けられるかについて、ファンの間で活発な議論が交わされています。「前回よりも山岳でサポートが手厚ければ」といった期待の声もあれば、「まだコンディションが万全ではないのでは」といった慎重な意見も飛び交っています。しかし、彼がパリ・オリンピックのダブルチャンピオンでもあることを考えれば、そのタイムトライアル能力の高さは折り紙つき。ドーフィネの個人タイムトライアルが、彼の真のコンディションを測る重要な指標となることは間違いありません。

次なる「グランツール」への期待

レムコ・エヴェネプールのクリテリウム・デュ・ドーフィネでのパフォーマンスは、今年のツール・ド・フランスの行方を占う上で極めて重要な意味を持ちます。彼がどれだけ主要なライバルたちに食い下がれるのか、あるいは、彼の「調子を確認する」という言葉の裏に隠された真の狙いとは何なのか。我々サイクルロードレースファンにとって、ゾクゾクするような一週間が始まろうとしています。

山田健一でした。また次のレースでお会いしましょう！