ヘイターがTT制し総合リーダーに躍り出る

イーサン・ヘイター、復活の狼煙！ツール・ド・ベルギーTTで新天地初勝利、総合リーダー奪取の舞台裏

ベルギーのリンブルフ州を舞台に行われたバロワーズ・ツール・ド・ベルギー第3ステージ、9.7kmの平坦な個人タイムトライアルは、多くのサイクルロードレースファンにとってサプライズの連続でした。私自身も、このTTスペシャリストたちの戦いを固唾をのんで見守っていましたが、AGインシュランス・スーダル チーム-Quick Stepのイーサン・ヘイターが、今シーズン、そして新天地での初勝利を挙げ、見事総合リーダーの座を射止めたことは、彼の苦難の日々を知る者としては感無量です。「なるほど！」と思わず唸ってしまう、その勝利の裏側を探っていきましょう。

苦難を乗り越えた男の復活劇

イーサン・ヘイター。この名前を聞いて、ピストトラックでの輝かしい実績を思い浮かべるファンも多いのではないでしょうか。彼は世界選手権で4つのメダルを獲得した、まさに「ピストの申し子」とも言える存在です。その類まれなる加速力と空気抵抗を極限まで抑え込むエアロダイナミクスの感覚は、タイムトライアルにおいて絶大な武器となります。しかし、AGインシュランス・スーダル チーム-Quick Stepに移籍して以来、彼は苦しい時間を過ごしていました。落車、病気、そして何よりも「継続的なフォームの欠如」。前チームであるイネオス・グレナディアーズを離れ、新たな挑戦を選んだ彼にとって、この無勝利の期間は計り知れない重圧だったはずです。

今回の勝利は、実に1年ぶりの「勝利の雄叫び」でした。昨年6月のイギリス国内選手権以来、そしてチャンピオンシップ以外のレースではツール・ド・ロマンディ2023以来となるブーケです。今回のコースは、完全に平坦で、曲がり角も少なく、まさに純粋なパワーとエアロダイナミクスが問われるレイアウトでした。ここでヘイターが叩き出した10分29秒59というタイムは、彼が本来持つ能力が、ようやく戻ってきたことを証明しています。この勝利が、彼にどれほどの自信をもたらすか。これは単なるステージ優勝以上の意味を持つ、彼のキャリアにおける重要なターニングポイントとなるでしょう。「確かに！」と、彼の再起を願っていた誰もが共感する瞬間でした。

TTキング、フィリッポ・ガンナの誤算

このタイムトライアルで、誰もが優勝候補の筆頭に挙げていたのは、ダブル世界チャンピオンのフィリッポ・ガンナでした。彼は現在、ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャのダブル出場、そしてそれぞれのタイムトライアルステージでの勝利を目指し、ピーキングを進めている最中。しかし、結果はヘイターに4.38秒及ばず2位。彼のコンディションが万全でなかったのか、それともヘイターの走りが想像を絶するものだったのか。

グランツールを担当する私の視点から見ると、ガンナはツール・ド・フランスに向けて、まだ完全にギアを上げきっていない段階だったのかもしれません。彼は過去に、本命レースに向けて意図的に調整を施し、直前のレースでは「少し抑えめ」な走りを見せることもあります。今回の僅差の敗北は、彼にとっては良い刺激になったはずです。そして3位には、UAEチームエミレーツのフロリアン・フェルミールスが入り、ベルギー勢の意地を見せました。UAEチームエミレーツは、ファン・セバスティアン・モラーノが総合リーダージャージをヘイターに譲ったものの、チームとしての存在感は示しています。

平坦TTからクイーンステージへ：ベルギーの奥深さ

ベルギーのレースは、その地形の多様性から常に予測不能な展開を見せます。今回の平坦なリンブルフ州でのタイムトライアルは、純粋なスピード勝負でしたが、続く土曜日の第4ステージ、通称「クイーンステージ」は、その様相を一変させます。ルクセンブルク州のデュルビュイを中心とした173kmのコースには、4つの短いながらもパンチの効いた登りが待ち構えています。中でも注目は、フィニッシュ地点となる「デュルビュイの壁」。距離1.2km、平均勾配6.2%、最大勾配12%というこの激坂は、まさにクラシックレースを思わせる展開を生み出すでしょう。

タイムトライアルで総合リーダーになったヘイターが、このクイーンステージでどれだけ持ちこたえられるか、あるいはアタックを仕掛けられるか。彼のピスト出身というバックグラウンドは、短距離の爆発的なパワーには長けていますが、急勾配の登りでの持久力は未知数です。ここが、彼の総合優勝への最大の試練となるでしょう。「へぇ～」と、ベルギーのレースの奥深さに感心させられますね。

移籍の重圧とチームの期待

AGインシュランス・スーダル チーム-Quick Stepは、クラシックレースでの強さで知られるチームですが、近年はグランツールやステージレースでの総合力強化にも力を入れています。イーサン・ヘイターの獲得も、その戦略の一環でした。イネオス・グレナディアーズという、選手育成に定評のあるチームから移籍してきた彼には、大きな期待が寄せられていました。それだけに、今シーズン前半の不調は、彼自身にとっても、チームにとっても、もどかしいものがあったはずです。

今回の勝利は、彼の才能が色褪せていないことを証明するとともに、チームの投資が間違っていなかったことを示唆しています。チーム内の力学としても、若き才能が結果を出すことで、チーム全体の士気向上にも繋がるでしょう。特に、これまで苦楽を共にしてきたAGインシュランス・スーダル チーム-Quick Stepのスタッフやチームメイトたちは、今回の勝利を心から喜んでいるに違いありません。「そうだったのか！」と、彼の苦境とチームの期待が繋がった瞬間を理解できます。

明日は、デュルビュイの壁で、総合争いが大きく動くことが予想されます。イーサン・ヘイターは、この難関を乗り越え、総合リーダーの座を守り切れるのか。それとも、新たなチャレンジャーが現れるのか。日本のサイクルロードレースファンの皆さん、ぜひ注目して次なる展開を見守りましょう！「次も読みたい！」そう思っていただけるような、深い情報と分析をこれからもお届けしていきます。