ブエルタ英雄ルチョ・エレーラ、隣人殺害関与の疑い

【山田健一コラム】英雄 Lucho Herrera にかけられた、あまりに衝撃的な疑惑

サイクルロードレースファンの皆さん、こんにちは。グランツール担当の山田健一です。

イタリアの有力スポーツ紙「ガゼッタ・デロ・スポルト」が報じたあるニュースに、私は今、大きな衝撃を受けています。それは、かつて「庭師」の愛称で親しまれ、コロンビアに初めてグランツール総合優勝をもたらした国民的英雄、Lucho Herrera にまつわるものです。彼の輝かしいキャリアとはあまりにかけ離れた、信じがたい疑惑が浮上しているのです。

コロンビアの英雄にかけられた衝撃の疑惑

1987年のブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝、そしてツール・ド・フランスでの山岳賞2回獲得。Lucho Herrera は、アルベルト・エレーラとして知られる名クライマーであり、その活躍はコロンビア国内で絶大な人気を誇り、まさに英雄視されてきました。そんな彼が、地元メディア「エル・クロニスタ」の報道を引用する形でガゼッタ紙が伝えたところによると、2002年に近隣住民4人を殺害するよう指示した疑いが持たれているというのです。

目的は土地の取得。これが事実であれば、あまりにも身勝手で、そしてあまりにも残忍な行為です。しかも、その実行犯とされるのは、かつてコロンビア国内で活動した準軍事組織のメンバーだというのですから、事態の根深さを感じずにはいられません。

元実行犯が語る生々しい証言

今回の疑惑が明るみに出たのは、この殺害に関与したとされる元準軍事組織メンバーの一人、Luis Fernando Gómez Flórezが、別の事件で有罪判決を受けた後の証言によるものです。彼は自らの責任を認めつつ、Lucho Herrera がこの殺害に多額の報酬を支払ったと証言しているのです。

彼の語る内容は、あまりに生々しく、聞くに堪えないものです。Lucho Herrera は彼らに近隣住民4人の写真と、当時のレートで8万1000ユーロ（約1300万円）以上にもなる4000万コロンビアペソを渡したといいます。そして、被害者たちを「自分を誘拐しようとしているゲリラ民兵だ」と偽って説明したそうです。被害者たちは Lucho Herrera の農場と隣接する土地の所有者だったとのこと。彼らは誘拐され、首を切断された後、マチェーテで切り刻まれ、道路脇に埋められたと証言されています。実行犯たちは後になって、被害者がゲリラではなく、Lucho Herrera に騙されていたことに気づいたといいます。

イタリア語の原文を読み解くと、その描写は非常に具体的で、元準軍事組織メンバーの証言がどれほど詳細であるかが伝わってきます。これが単なる虚偽の告発であると信じたいところですが、すでに一人が有罪判決を受けているという事実が、疑惑の重さを物語っています。

コロンビアでの「英雄」と本人の反応

Lucho Herrera は、コロンビアでは今もなおスポーツ界のレジェンドとして尊敬されています。それだけに、このニュースがコロンビア社会に与える衝撃は計り知れないでしょう。被害者の家族は、一日も早い捜査の進展と真相解明を求めています。

一方、Lucho Herrera 本人は、この疑惑に対して無罪を主張しています。彼は地元メディアに対し、「これらの事実には一切関与していない」「追ってメディアを通じて話す」「弁護士と相談し、検察に出頭する」と語っています。これは、彼が法的な手続きを通じて自らの潔白を証明しようとしている姿勢を示しています。

過去の誘拐事件と複雑な背景

Lucho Herrera の人生には、今回の疑惑以外にも、コロンビアという国の複雑な社会情勢に巻き込まれた過去があります。記憶に新しいのは、2014年5月にコロンビア革命軍（FARC）に一時的に誘拐された事件です。幸いにも彼はその後解放されましたが、これは彼が国内の武装勢力と全く無縁ではいられなかったことを示唆しています。

今回の疑惑が、彼の過去の経験や、コロンビア国内の土地問題、武装勢力の活動といった複雑な背景とどのように絡み合っているのかは、今後の捜査によって明らかになるでしょう。

この件は、一人の元アスリートの個人的な問題に留まらず、コロンビアの歴史や社会構造をも映し出しているのかもしれません。サイクリング界の英雄が直面しているこの厳しい現実から、私たちは目を背けることはできません。今後の捜査の行方、そして Lucho Herrera 本人の対応に、引き続き注目していく必要があります。