ポガチャルが見せたジロの偉業：現代サイクリングの歴史を築く

絶対王者タデイ・ポガチャルが刻んだ『ピンクの歴史』、そして『コンドル』ナイロ・キンタナが挑む新たなジロ

2024年のジロ・デ・イタリアは、文字通り一人の天才によって塗り替えられた歴史の舞台となりました。スロベニアの至宝、タデイ・ポガチャル。26歳にして、彼はこの「コーザ・ローザ」ことピンクのレースに初出場し、その存在感をこれでもかと見せつけました。

ポガチャルが支配した2024年ジロ・デ・イタリア

第2ステージ、オローパのサンクチュアリへと続くフィニッシュライン。ここでタデイ・ポガチャルは見事なアタックを決め、独走で勝利を飾りました。これが彼のジロにおける最初のステージ優勝であり、同時にマイヨ・ローザ、つまり総合リーダージャージ獲得の瞬間でもありました。ここから最終日のローマまで、ポガチャルがピンクのジャージを手放すことはありませんでした。

彼の支配力は圧倒的でしたね。全21ステージ中、彼はなんと6回のステージ優勝を挙げたのです。オローパ（第2）、ペルージャでの個人タイムトライアル（第7）、プラティ・ディ・ティーヴォ（第8）、リヴィーニョ（第15）、モンテ・パナ（第16）、そしてモンテ・グラッパ（第20）。特に山岳での強さは際立っており、総合優勝に加え、山岳賞も獲得しました。ポストウォー、つまり第二次世界大戦後において、総合優勝を果たした選手がこれほど多くのステージ勝利を挙げたのは、1973年のエディ・メルクス以来という歴史的な快挙です。

総合タイム差も驚異的でした。2位のダニエル・マルティネスに9分56秒差、3位のゲラント・トーマスには10分以上の差をつけての勝利。これは1965年以降のジロ・デ・イタリアで最も大きな総合タイム差であり、彼の強さが如何ほどであったかを物語っています。まさに、歴史に残る圧勝劇だったと言えるでしょう。

「トリプルクラウン」達成と2025年の大胆なカレンダー変更

2024年は、タデイ・ポガチャルにとってジロだけにとどまらない、キャリア最高のシーズンとなりました。ジロ・デ・イタリア制覇に続き、ツール・ド・フランスも制し、さらにチューリッヒ世界選手権ロードレースでは残り100kmからの独走で優勝。これにより、彼は自転車ロードレース界で最も栄誉ある「トリプルクラウン」（同年にジロ、ツール、世界選手権を制覇）を達成したのです。これはエディ・メルクス、ステファン・ロッシュに次ぐ、史上3人目の快挙です。

これだけの成功を収めたタデイ・ポガチャルですが、2025年シーズンに向けて大胆なカレンダー変更を決断しました。2024年のジロでの支配的な走りを見れば、タイトル防衛は十分に可能に思えましたが、彼は来年のジロには出場しないことを選択したのです。代わりに、7月5日から27日に開催されるツール・ド・フランスと、8月23日から9月14日に開催されるブエルタ・ア・エスパーニャに焦点を当てるようです。ツール・ド・フランスでの連覇、そしてキャリア初のブエルタ制覇を目指すということでしょう。この決断は、彼の飽くなき勝利への渇望と、新たな挑戦への意欲を示していますね。

ピンクの舞台に戻る『コンドル』、ナイロ・キンタナ

さて、タデイ・ポガチャルが不在となる2025年のジロ・デ・イタリアですが、そこにはまた別の注目すべき選手が戻ってきます。2014年のジロ覇者、ナイロ・キンタナです。コロンビアの英雄、『コンドル』の愛称で知られる彼は、35歳となった今も、彼が愛するこのイタリアの地へ戻ってきました。

昨年のジロにも出場していたキンタナですが、特にリヴィーニョのステージでは、勝利まであと一歩というところでした。しかし、その時も後方から猛烈な追い上げを見せたのが、他ならぬタデイ・ポガチャルだったのです。キンタナはポガチャルにステージ勝利を阻まれた悔しさを胸に、今回のジロに臨みます。「調子は良い。戦って良い結果を出すつもりだ。まだやれると思っている」と、彼はレース前に語っていました。

今シーズンの序盤は決して順調とは言えませんでしたが、このジロに向けて調子を上げてきたようです。所属するモビスター チームは、総合優勝候補を擁しているわけではありませんが、キンタナを含め、ステージ勝利を狙える8人のメンバーで臨みます。昨年はペラヨ・サンチェスがステージを制しており、今年もそれを再現したいところでしょう。キンタナ自身も「ステージを狙いに行くと思う。全力を尽くす」と意気込んでいます。イタリアの地で、ピンクに染まる熱狂的なファンの中で走ることへの情熱は、彼の中から決して失われていません。「このレースは、人々と場所に対する大きな情熱がある。サイクリングの世界で非常に重要な大会だ」と、彼はジロへの特別な思いを語ってくれました。

ポガチャル不在のジロ2025、そして今後の展望

タデイ・ポガチャルの不在は、2025年のジロ・デ・イタリアの総合争いを間違いなくオープンなものにするでしょう。プリモシュ・ログリッチ、フアン・アユソ、ミケル・ランダ、リチャル・カラパスといった強力なライバルたちが、マイヨ・ローザ獲得に向けて激しいバトルを繰り広げるはずです。

ナイロ・キンタナにとっても、このジロは重要な意味を持つかもしれません。モビスター チームとの契約が2025年で切れる彼にとって、ジロでの活躍は今後のキャリアを左右する要素の一つとなり得るからです。過去にジロとブエルタで総合優勝し、ツールでも2度表彰台に上った実績を持つ彼が、どれだけ存在感を見せられるか。特にタデイ・ポガチャルという絶対的な存在がいない今大会は、彼のようなベテランが輝くチャンスでもあるでしょう。

タデイ・ポガチャルは2024年のジロで、その名を歴史に深く刻み込みました。そして2025年は、ツールとブエルタという新たな目標に挑みます。彼が再びジロの舞台に戻ってくることは間違いないでしょうが、それまでの間、他の選手たちがどのようなドラマを見せてくれるのか。特に、ナイロ・キンタナのような経験豊富な選手が、若き才能が不在の間に何を成し遂げるのか、非常に興味深いですね。自転車ロードレースの世界は、常に新しい物語が生まれています。次なる展開から、目が離せません。