ナイロ・キンタナ ジロ復帰！「ステージ優勝を再び」

【中村 リサの視点】「コンドル」の帰還と「壊れないチャンピオン」の覚悟：ジロ・デ・イタリアを彩る二つの物語

モナコの窓辺から、今年も熱狂のピンク色に染まるイタリアへと思いを馳せています。ジロ・デ・イタリアが開幕しましたね。SNSを追っていると、選手たちの緊張感や高揚感がひしひしと伝わってきます。特に今回、私の心を強く惹きつけているのは、二人のベテラン選手が放つ静かな炎です。2015年のマリア・ローザ、 ナイロ・キンタナ。そして昨年の覇者、 プリモシュ・ログリッチ。彼らの言葉の端々から感じ取れる、過去への想いと未来への決意に迫ってみたいと思います。

「コンドル」 ナイロ・キンタナ 、復活の狼煙

2015年にイタリアの地で総合優勝を果たした「コンドル」、 ナイロ・キンタナ が再びジロへと帰ってきました。35歳という年齢で、グランツール最高峰の舞台の一つに挑む彼の姿を見ていると、胸が熱くなります。昨年、リヴィーニョでのステージ優勝を タデイ・ポガチャル という絶対王者に阻まれた悔しさを、彼はきっと忘れていないでしょう。

「良いコンディションで来られた。戦って、良い結果を出したいと思っている。自分たちはやれると信じているよ」と、レース前、彼は語っていました。シーズン序盤は体調を崩すなど、決して順風満帆ではなかった彼が、こうしてジロのスタートラインに力強く立っている。それは、彼自身が モビスター チーム から再びチャンスを与えられたことへの感謝と、それに応えたいという強い意志の表れだと感じます。チームには総合優勝候補こそいませんが、昨年ペラヨ・サンチェスがステージ優勝を飾ったように、きっとチャンスはある。 ナイロ・キンタナ は、「ステージ優勝を狙いに行く。全てをかけて臨む」と断言しています。その言葉からは、過去の栄光にしがみつくのではなく、あくまで「今」、そして「次」の勝利を貪欲に追い求める姿勢が伝わってきます。

イタリアへの特別な想い

ナイロ・キンタナ にとって、ジロ・デ・イタリア、そしてイタリアという国は特別な場所です。彼は「このレースには人々や場所に対する大きな情熱がある」と語り、その魅力を誰よりも理解しています。2014年の総合優勝（後に2015年に繰り上げ）、そして3度のステージ優勝。ピンク色のジャージに袖を通した記憶は、彼のキャリアの中でも最も輝かしいものの一つでしょう。

SNSでの彼の投稿を見ていると、イタリアの風景やファンとの交流を楽しむ様子が垣間見えます。それは単なるレースの遠征ではなく、彼にとっての「帰郷」のような感覚なのかもしれません。昨年、 タデイ・ポガチャル に阻まれた雪辱を晴らしたいという思いも強いでしょう。ポガチャルが不在の今大会、彼は再びイタリアの空の下で翼を広げ、かつての輝きを取り戻せるのか。ステージ優勝という具体的な目標を掲げながらも、「日ごとに対応していく」と先を見据える彼の言葉からは、経験に裏打ちされた冷静さと、それでも内に秘めた熱い闘志が感じられます。

プリモシュ・ログリッチ 、「傷跡を誇る」チャンピオン

一方、昨年のジロ覇者である プリモシュ・ログリッチ も、また特別な想いを胸に今大会に臨んでいることでしょう。彼のキャリアは、まさに「壊れないチャンピオン」という言葉がぴったりです。ラ・プランク・デ・ベル・フィーユでのTTでの劇的な逆転負け、ジロでの リチャル・カラパス のアタックによる苦戦、そしてラ・ブエルタでの度重なる落車。偉大な勝利の陰には、常に深い挫折と痛みが伴いました。

普通の選手なら心が折れてしまうような出来事を、彼は何度も乗り越えてきました。その度に強くなり、より洗練されたサイクリストへと進化していったのです。記事の中で「ログリッチは、その傷跡を誇りに思っている」という言葉に、私は深く共感しました。それは、彼が経験した苦難が、今の彼を形作る上で不可欠な要素だったという理解であり、その全てを受け入れた強さの表れだからです。毎日戦うことを信条とし、決して諦めない彼の生き様は、多くの人々に勇気を与えています。昨年のジロでの最終TTでの逆転劇は、まさに彼の不屈の精神を象徴するシーンでした。

新チーム、 レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ との挑戦

今シーズンから レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ に移籍した プリモシュ・ログリッチ 。新天地でのスタートは順調で、ティレーノ～アドリアティコやカタルーニャ一周といった重要なレースで勝利を飾っています。これらの勝利は、彼が依然として最高のレベルで戦えることを証明すると同時に、新しいチームが彼に提供するサポート体制が機能していることを示しています。

チームは彼をグランツールの総合エースとして迎え入れ、強力な布陣を揃えてきました。 レムコ・エヴェネプール や他の強豪選手がひしめく今大会は、間違いなく厳しい戦いになるでしょう。しかし、 プリモシュ・ログリッチ は、そのような状況でこそ真価を発揮する選手です。過去の経験から、グランツールを勝つためには何が必要かを誰よりも理解しています。彼の「千の物語を持つレース」であるジロでの挑戦は、彼のキャリアにおける新たな章の始まりであり、その「傷跡」が、きっとまた新たな伝説を紡ぎ出すはずです。

二人のベテランがそれぞれの想いを胸に挑むジロ・デ・イタリア。 ナイロ・キンタナ の復活への強い意志と、 プリモシュ・ログリッチ の不屈の精神。SNSから伝わってくる彼らの静かな闘志は、私たちファンをきっと熱くさせてくれるはずです。彼らがイタリアの道で紡ぐ新たな物語から、目が離せませんね。