ポガチャル王、ツール制覇へ「ジロで学び、今度は勝つ」

「王」ポガチャル、ドーフィネで戦線復帰！ツールへ向けた宿命の三つ巴戦が幕を開ける

「私の出す数字は、いつもかなり良いものです。11月だけは最高ではないかもしれませんけれどね」――そう語るのは、他ならぬタデイ・ポガチャルだ。ジロ・デ・イタリアでの圧倒的なパフォーマンスは記憶に新しいが、彼はその余韻に浸ることなく、すでに次の大目標、ツール・ド・フランスへと視線を向けている。その「総仕上げ」の舞台となるのが、今日、フランスで開幕するクリテリウム・デュ・ドーフィネだ。そしてこのレースには、彼の前に立ちはだかるであろう宿命のライバル、ヨナス・ヴィンゲゴーとレムコ・エヴェネプールが揃い踏み。ロードレース界の「王」が、満を持して戦線に復帰する。

「王」の帰還、ドーフィネでの「総仕上げ」

ジロ・デ・イタリアでの驚異的な勝利から約1ヶ月半。タデイ・ポガチャルが、ゼッケン21番を背負い、クリテリウム・デュ・ドーフィネのスタートラインに立つ。この復帰戦が、彼にとってツール・ド・フランスへの最終調整であることは明白だ。イタリアのメディアは、彼の現在のコンディションを探るべく、練習データについて質問を投げかけたという。それに対するポガチャルの回答は、まるでウノエックス・モビリティの選手たちが繰り出す電光石火のアタックのように、シンプルで、それでいて強烈な自信に満ち溢れていた。

「12月も2月も、3月も6月も、私の出す数字はいつもかなり良いものです…もしかしたら、そうですね、11月だけは最高ではないかもしれません。でも、ええ、私は幸せですし、正しい道を進んでいると思います」と彼は語る。この言葉の裏には、「数字など見なくとも、今の自分は最高の状態にある」という絶対的な自信が垣間見える。「アスリートは数字に囚われがち」という通説をあざ笑うかのような、彼の強者の余裕。これは、彼がどれだけ自身をコントロールできているか、そしてどれだけ充実したトレーニングを積んできたかの証左に他ならないだろう。

興味深いことに、ポガチャルはCOVID-19で混乱した2020年を除けば、これまでドーフィネに出場したことがなく、もちろん優勝経験もない。グランツールを主戦場とする彼にとって、ドーフィネは「未開の地」とも言える。しかし、だからこそ彼はこのレースに挑む。ツール・ド・フランスでの勝利を目指す上で、このドーフィネで何を得て、何を試すのか。その戦術的な動きは、まさにグランツール担当の私にとって、たまらない見どころとなる。

豪華すぎる顔合わせ：ヴィンゲゴー、エヴェネプールとの「頂上決戦」

今回のドーフィネがこれほどまでに注目されるのは、タデイ・ポガチャルだけでなく、ロードレース界のトップスターたちが一堂に会するからに他ならない。彼の4度目のツール・ド・フランス制覇への道のりには、最大のライバルであるヨナス・ヴィンゲゴー、そしてレムコ・エヴェネプールが立ちはだかる。彼らはそれぞれ、怪我からの復帰戦となるが、ツール・ド・フランスを前に、互いの力量を測り合う絶好の機会となるだろう。

ヴィンゲゴーは、昨年までのツール・ド・フランスでポガチャルを破り、2連覇を達成した唯一の男だ。彼のクライミング能力、そしてチーム ヴィスマ・リースアバイクの強力なアシスト陣は、ツールでの最大の脅威となる。一方のエヴェネプールは、世界選手権ロードレースを制した経験を持つオールラウンダー。タイムトライアルのスペシャリストであり、アップダウンのあるコースでは常に脅威となる。彼らがドーフィネでどのような戦略を繰り出すのか、例えばヴィンゲゴーがどれだけ回復しているのか、エヴェネプールが山岳でどこまで通用するのか、その一つ一つの動きが、ツール・ド・フランスの行方を占う重要なピースとなる。

この三つ巴の戦いは、単なるレースの勝敗以上に、選手たちの心理戦、そしてチーム間の情報戦が展開される場となる。まさに「頂上決戦」と呼ぶにふさわしい、見逃せない一週間が始まるのだ。

ポガチャルが「ジロから学んだこと」とは？

「ジロを観て、多くを学んだ」――ポガチャルのこの言葉は、彼の並外れた学習能力と、常に進化を求める姿勢を示している。ジロ・デ・イタリアでは、圧倒的な強さでライバルをねじ伏せ、まるで教科書のような勝利を収めた。しかし、彼はそこで満足することなく、さらに上を目指しているのだ。

ジロでの勝利は、彼に「グランツールを支配する」という感覚をより強固なものにしただろう。そして、ツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアの「ダブルツール」という、現代ロードレースにおいて最も困難とされる偉業への挑戦は、彼のキャリアにおける最大のモチベーションとなっているはずだ。ジロでの経験を通じて、彼は自身のコンディション管理、ライバルとの駆け引き、そしてレース中のエネルギーマネジメントにおいて、さらなる最適化を図ったに違いない。

ツール・ド・フランスは、ジロ・デ・イタリアとは全く異なるプレッシャーと、より強力なライバルが待ち受ける舞台だ。特に、チーム戦術の重要性はツールで顕著となる。ポガチャルがジロで「学んだ」のは、単に自分の能力を最大限に引き出す方法だけでなく、チームUAEチームエミレーツ・XRGとして、どのようにレースをコントロールし、勝利に導くかという、より深い戦術的な知見だったのかもしれない。ドーフィネでの彼の走り、そしてチームの動きから、その「学び」の成果を読み解くのが、私の役割だと感じている。

締め

ドーフィネでの彼の復帰は、単なるレースの再開ではない。それは、ツール・ド・フランスという大舞台に向けた、ロードレース界の「王」の最終調整であり、宿命のライバルたちとの心理戦の火蓋が切られる瞬間だ。タデイ・ポガチャルが「正しい道を進んでいる」と語るその先に、果たして史上稀に見る「ダブルツール」の偉業が待っているのか。ドーフィネでの彼のパフォーマンスは、その答えを予見する重要なヒントとなるだろう。さあ、この歴史的な挑戦の始まりを、私たち日本のロードレースファンも固唾を飲んで見守ろうではないか。