ファン・アールト、常に上位も勝利は遠く

ワウト・ファンアールト、勝利なき春のクラシック。身体の限界か、それとも心の壁か？

こんにちは、松崎 愛です。世界中のロードレースをリアルタイムで追いかける日々ですが、今年の春のクラシックシーズンは、どうしてもあの選手のことが頭から離れませんでした。そう、ワウト・ファンアールトです。ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ～ルーベ、そして先日のアムステル・ゴールドレース。どれも彼の得意とする舞台で、優勝候補筆頭に挙げられながら、結果は全て4位。常にトップ戦線には絡むのに、あと一歩、いや、あとほんの少しだけ、勝利の女神が微笑んでくれない。この現状に、ファンならずとも胸が締め付けられる思いですよね。

レース後のインタビューで、彼は苦痛の表情と笑顔の間で感情を抑え、時折ジャーナリストに胃液を吐きそうになるほど苦しんでいたと聞きました。礼儀正しく、常に敬意を忘れない彼の仮面の下には、「ワウト、なぜ勝てないんだ？」という、もう何百回と聞かれたであろう問いに対する、全てを投げ出したくなるような衝動が隠されているのかもしれません。2020年のミラノ～サンレモでのモニュメント初勝利以来、彼にとってロンド・ファン・フラーンデレンやパリ～ルーベでの勝利は、まるで宿願のようなもの。同じシクロクロス出身で、共にロードへ転向した宿命のライバル、マチュー・ファンデルプールが次々とビッグタイトルを獲得していく姿を、彼はどんな思いで見ているのでしょうか。

勝利への飢えと宿命のライバル

ワウト・ファンアールトは、チーム ヴィスマ・リースアバイクのエースとして、キャリア通算49勝のうち43勝をチームにもたらしている、間違いなくチームで最も成功している選手です。その輝かしいキャリアをもってしても、ロンド・ファン・フラーンデレンやパリ～ルーベでの勝利がないことは、彼にとって痛みを伴う欠落であることは想像に難くありません。特に、若い頃から常に比較されてきたマチュー・ファンデルプールが、ロード転向後、彼よりも先にこれらのモニュメントで複数回勝利を挙げている事実が、ワウト・ファンアールトのフラストレーションを一層募らせている可能性があります。彼自身は「キャリアをマチュー・ファンデルプールに合わせているわけではない」と語っていますが、同じ土俵で戦う以上、比較は避けられない宿命なのでしょう。

今シーズンも、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ～ルーベで4位、そしてアムステル・ゴールドレースでも4位。さらにドワルス・ドール・フラーンデレンでは、チーム ヴィスマ・リースアバイクのチームメイト2人を従えながらも、最後のスプリントでニールソン・パウレスに敗れ、勝ちを逃しています。常に上位には顔を出す。しかし、勝利には届かない。この状況が続けば、「もしかして、自信を失っているのではないか？」と周囲が囁き始めるのも無理はありません。しかし、彼はこう断言します。「自信を失う理由が分からない。問題は、常に僕の前に1人か2人、より強い選手がいることだ」。この言葉の裏には、強がる気持ちと、本当にそう信じたい気持ちが混在しているように聞こえるのは、私だけでしょうか。

データ重視が生む歪み？ チーム内の声

ワウト・ファンアールトの不調の要因として、チームの準備方法に疑問を呈する声も上がっています。かつてチーム ヴィスマ・リースアバイクに所属していたトム・デュムランは、オランダのヘット・ニウスブラッド紙のロングインタビューで、チームのデータ重視の働き方に言及しました。「データに非常に特化した彼らのやり方で、数年間は黄金期を築いた。これは一部の選手には非常にうまく機能するが、他の選手にはそうではない。女子のフェム・ファンエンペルや、キアン・アイデブルックス、クリストフ・ラポルトなどは、しばらく調子が良くない」。彼は、チームのコーチにとっての課題は「科学と人間的な側面との間の公正なバランスを見つけることだ」と指摘しました。

確かに、チーム ヴィスマ・リースアバイクはデータ分析に基づいた緻密なトレーニングとレース戦略で近年圧倒的な強さを見せてきました。しかし、それが全ての選手にフィットするわけではないのかもしれません。特に、ワウト・ファンアールトのように、グランツールでのエースアシストのために減量し、山岳をこなせるように肉体改造を行ったことが、以前の彼の武器であったスプリント力に影響を与えている可能性も否定できません。チームメイトのティシュ・ベノートは彼を擁護し、「彼より良い成績を残している選手はほとんどいない。もしドワルス・ドール・フラーンデレンで勝っていたら、クラシックキャンペーンに対する見方は全く違っただろう」と語っています。この言葉からは、チーム内にワウト・ファンアールトを支えようとする強い意志と、彼への高い評価が感じられます。

スプリント力の変化とレース勘

かつて、集団スプリントでも少人数でのスプリントでも驚異的なパワーを発揮し、キャリア勝利の約30%をスプリントで挙げているワウト・ファンアールト。その彼が、最近のスプリントでの失敗を認めています。「現実として、この春のクラシックでの僕のスプリントはレベルに達していなかった。そのせいで2つの勝利を逃した。フラストレーションが溜まる」。原因は不明だと言い、「この冬の準備で何も変えていない。でも、これは本当に分析したい分野だ」と語っています。過去の栄光を知るファンとしては、「あのワウト・ファンアールトがスプリントで？」と、にわかには信じがたい話です。

さらに、ベルギーのレジェンド、エディ・メルクスは、レース出場よりも長期のトレーニングキャンプを優先する近年のトレンドに警鐘を鳴らしています。「トレーニングを優先するためにレースを犠牲にする理由が私には理解できない。集団の中での反射神経を失うリスクは大きすぎる。落車は言うまでもない」。ワウト・ファンアールトは2024年のブラバンツ・パイルやブエルタ、そして今回のアムステル・ゴールドレースでも落車に見舞われており、メルクスの指摘は示唆に富んでいます。そして、メルクスが最も疑問視するのは、ワウト・ファンアールトの「レース中のフレア（勘）」の欠如です。アムステル・ゴールドレース後、彼はレムコ・エヴェネプールのアタックを見逃したことを認め、「あの瞬間、判断を誤った。まだ勝利争いに加わっていることを十分に認識していなかった」と語りました。クラシックハンターにとって最も重要な資質であるはずの鋭いレース勘とポジショニング。その部分での課題が露呈しているのでしょうか。

統計データが語る現実

今シーズンのクラシックで、ワウト・ファンアールトが表彰台に上がったのは、出場レースのわずか25%です。これは、過去数年間の彼の表彰台率（2021年：57%、2022年：67%、2023年：80%、2024年：75%）と比較して、最も低い数字です（Fuoriclasse調べ）。さらに、今シーズン、ワンデーレースで勝利なしでトップ5フィニッシュを最も多く記録している選手も彼です。2位から5位までのフィニッシュで、彼ほど勝利から遠ざかっている選手はいません（Fuoriclasse調べ）。これらのデータは、彼の絶対的な実力が高位で安定している一方で、勝利という頂点に立つための何かが欠けている現状を如実に物語っています。「常に上位だが、決して勝てない」。このフレーズが、今のワウト・ファンアールトを最も端的に表しているのかもしれません。

クラシックキャンペーンを終えたワウト・ファンアールトは、次にジロ・デ・イタリアに参戦する予定です。グランツールでのステージ勝利や、チームのエースであるヨナス・ヴィンゲゴーのアシストとしての活躍も記憶に新しいですが、やはりファンは、彼が再びクラシックのモニュメントで輝きを取り戻す姿を見たいと願っているはずです。身体的な問題なのか、それとも精神的な壁なのか。チームの準備方法やレースへのアプローチに改善の余地はあるのか。彼が再び「ワウト・ファンアールト」として、圧倒的な力で勝利をもぎ取る瞬間は来るのでしょうか。ジロでの彼の走りに注目しつつ、今後の展開を心待ちにしたいと思います。...