ポガチャルとエヴェネプール、ついに再会

タデイ・ポガチャル vs レムコ・エヴェネプール、ついに激突！アムステルゴールドレースで再会する二人の天才

ツールやジロといったグランツールを中心に追いかけている私、山田 健一だが、春のクラシック、特にアルデンヌウィークはやはり心躍るものがある。フランドルの石畳とはまた違う、短くても勾配のきつい丘が連続するコースは、選手のパンチ力とレース展開を読む力が試される、非常に見応えのあるレースだ。今年の「アムステルゴールドレース」は、例年以上に注目せざるを得ない。なぜなら、このレースでついに、ロードレース界の二大スター、タデイ・ポガチャルとレムコ・エヴェネプールが、昨年のツール・ド・ロンバルディア以来、直接対決を果たすからである。マチュー・ファンデルプールの不在は確かに寂しいが、それを補って余りある、いや、それ以上のスリルが待っていると予感させる顔合わせだ。

マチュー・ファンデルプール不在がもたらすもの

正直なところ、今週末のアムステルゴールドレースにマチュー・ファンデルプールがいないのは、少し物足りなさを感じてしまうファンも多いだろう。ルーベのヴェロドロームで勝利を飾り、華々しいフランドルクラシックキャンペーンを終えた彼は、ここで一旦休息に入ることを決めたという。それは賢明な判断であるとも言える。イタリアのヴィア・ローマからフランドルの石畳まで、すでに広大な「狩場」を持つ彼が、さらにアムステルゴールドレースや、昨年3位に入ったリエージュ〜バストーニュ〜リエージュまで手を広げるのは、30歳という年齢を考えれば、どこかで区切りが必要なのだろう。データが支配する現代ロードレースにおいて、マチュー・ファンデルプールのようにここまで幅広いレースで勝ち続ける選手は稀有な存在だが、やはりツール・ド・フランスでの活躍を見据えれば、今は休息が重要なフェーズなのだろう。彼のロードレースでの復帰は、ツール・ド・フランスまでお預けだというから、それまで楽しみに待つしかない。

レムコ・エヴェネプールの劇的な復帰

そんなマチュー・ファンデルプールの不在を、まさに「待ってました」とばかりに埋める存在がいる。それが、レムコ・エヴェネプールだ。昨冬のトレーニング中の事故で負傷し、長期離脱を余儀なくされていた彼が、先日のブラバンツ・パイルで見事な復帰勝利を飾った。しかも、相手はワウト・ファンアールト。半年ぶりのレースで、あのワウト・ファンアールトを打ち破るパフォーマンスを見せるとは、まさに驚きの一言だ。AGインシュランス・スーダル チーム-quick-stepのエースとして、彼にかかる期待は計り知れない。過去、ツール・ド・ロンバルディアでの落車（2020年）や、昨年のバスク地方での大規模落車など、キャリアが度重なるアクシデントに見舞われてきた「不運な」天才。しかし、それらの経験が彼に謙虚さを教えたとも言えるだろう。ブラバンツ・パイルでの勝利後、「これからはタデイと私に注目が集まるだろう」と語っていた彼の言葉には、単なる復帰以上の、強い決意と自信が滲み出ていた。

因縁の対決、タデイ・ポガチャル vs レムコ・エヴェネプール

そして、いよいよ彼がアムステルゴールドレースで対峙するのが、タデイ・ポガチャルである。26歳のタデイ・ポガチャルは、今年のクラシックキャンペーンで「全てを獲りに行く」と宣言しているかのような、驚異的なタフネスを見せている。ミラノ〜サンレモから始まり、フランドル地方のレースをこなし、そしてこのアルデンヌウィークへと突入する。データやコンディション調整が重視される現代において、これほど多くの主要クラシックに参戦するトップ選手は、かつてはいても今はほとんどいない。彼の辞書に「オフシーズン」や「ピーク調整」という言葉はないのだろうか、と首を傾げてしまうほどだ。

レムコ・エヴェネプールは、以前からタデイ・ポガチャルの最大のライバルとして期待されてきた。特にアルデンヌ地方のレースでは、彼こそがタデイ・ポガチャルに対抗できる唯一の存在だと目されてきたのである。しかし、これまで二人がアルデンヌで直接、万全の状態でぶつかる機会はほとんどなかった。2023年はタデイ・ポガチャルがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで落車し、2024年はレムコ・エヴェネプールがバスク地方での怪我で欠場した。ようやく、満を持して二人がアムステルゴールドレースのスタートラインに並ぶのだ。昨年10月のツール・ド・ロンバルディアでは、タデイ・ポガチャルがレムコ・エヴェネプールを圧倒したが、今回の舞台はアムステルゴールドレース。コース特性も違い、レムコ・エヴェネプールにとってはこれが初出場となる。この対決が、ツール・ド・フランスでヨナス・ヴィンゲゴーと繰り広げられるであろう戦いとはまた違う、クラシックならではの熱狂を生むことは間違いない。

アムステルゴールドレースのコースと二人の戦略

アムステルゴールドレースのコースは、「ジェットコースター」と形容されるように、短く急な丘が延々と続く。登坂力だけでなく、細かいアップダウンへの対応力、そして何よりも位置取りが重要になる。そして、今年のフィニッシュは、2012年以来となるカウベルフの頂上だ。これはレムコ・エヴェネプールにとって有利に働く可能性がある。ブラバンツ・パイルで見せたような、短い登りでの爆発的な加速力は、カウベルフのフィニッシュにはうってつけだからだ。

一方、タデイ・ポガチャルは、どんなコースでも自分から仕掛けてレースを破壊するスタイルだ。彼のパンチ力と、最後まで諦めない粘り強さは誰もが知るところ。彼がどこで仕掛けてくるのか、レムコ・エヴェネプールや他の選手たちはどう対応するのか。カウベルフでのスプリント勝負になるのか、それともその前に誰かが飛び出すのか。過去のツール・ド・ロンバルディアとは全く異なる展開が予想される。このカウベルフ頂上フィニッシュの復活が、二人の戦略にどんな影響を与えるのか、非常に興味深いところである。

アルデンヌクラシックの幕開け、その行方は？

アムステルゴールドレースは、アルデンヌクラシック三部作の幕開けを飾るレースだ。この後にはフレーシュ・ワロンヌ、そしてリエージュ〜バストーニュ〜リエージュと続く。タデイ・ポガチャルとレムコ・エヴェネプール、二人の天才の直接対決が、このアルデンヌウィーク全体にどんな火をつけるのか。レムコ・エヴェネプールの完全復活を印象づける勝利となるのか、それともタデイ・ポガチャルがクラシックでの圧倒的な強さを見せつけるのか。あるいは、全く別の選手が漁夫の利を得る可能性もゼロではない。ワウト・ファンアールトのような強力な選手もいるのだから。

今年のアルデンヌクラシックは、この二人の対決を中心に、目が離せないドラマが待っていることだろう。彼らが繰り広げるであろう、知力と体力の限りを尽くした戦いを、心ゆくまで楽しみたいと思う。さあ、アムステルゴールドレースのスタートが待ちきれない！