ヴィクトル・カンペナールツがツール・ド・フランスで目指す敬意

【山田 健一の視点】ヴィクトル・カンペナールツ、チーム ヴィスマ・リースアバイクで追う「イエロージャージへのリスペクト」

サイクルロードレースファンの皆さん、こんにちは。グランツールを中心にヨーロッパの主要レースを追い続けている山田 健一です。

さて、今、クリテリウム・デュ・ドーフィネが熱戦を繰り広げている最中ですが、私が注目しているのは、あるベテラン選手がキャリアの新たな章をどのように刻もうとしているか、その深い心理にあります。その選手とは、言わずと知れた個性派、ヴィクトル・カンペナールツ。彼が今シーズンから加入したチーム ヴィスマ・リースアバイクで、一体何を追い求めているのか。現地メディアの報道や、彼の言葉の裏にある真意を、私の視点から深掘りしていきましょう。

異色のキャリアが導いた「チーム貢献」への道

ヴィクトル・カンペナールツのキャリアは、まさに異色中の異色と言えるでしょう。「サイエンスの申し子」とでも呼ぶべきか、トライアスロンの世界からロードレースに転身して以来、彼は常に科学的なアプローチと独自の理論を追求してきました。その結果、タイムトライアルでヨーロッパチャンピオンに二度輝き、2019年には世界アワーレコードを更新。さらにジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスで区間優勝を飾るなど、個人としての輝かしい成功を収めてきたのは、皆さんもご存知の通りです。

特に印象的だったのは、昨年、ロット Dstnyに所属していた時のツール・ド・フランス2024での区間優勝です。彼はシーズン開幕前からこの第18ステージを明確な目標に据え、文字通り「マニアック」な準備を重ねてきました。そして、その執念が実を結び、見事に勝利を掴んだのです。レース後、彼が「これまで選手が泣く理由が理解できなかったが、今はわかる」と語った姿は、彼のキャリアにおける一つの区切り、いや、集大成とも言える瞬間でした。あの涙には、個人としての成功を追い求めることへの、深い達成感と、ある種の終焉が込められていたように感じます。

「勝利」を捨てて手にする「リスペクト」：チーム ヴィスマ・リースアバイクでの新たな決意

そして今シーズン、ヴィクトル・カンペナールツはチーム ヴィスマ・リースアバイクへと移籍しました。彼のこの移籍は、単なるチーム変更以上の意味を持っています。彼は過去、Team ロットNL - Jumbo（現チーム ヴィスマ・リースアバイクの前身）に所属していましたが、当時はステフェン・クライスヴァイクやプリモシュ・ログリッチといったエースの存在から、個人での勝利を追求するのが難しいと感じ、チームを離れました。その後、ロット DstnyやNTT Pro Cycling Team、Team Qhubeka NextHashといったチームで、彼は自身の哲学と能力を存分に発揮し、個人としての成功を積み重ねてきたのです。

しかし、今回のチーム ヴィスマ・リースアバイクへの復帰は、彼自身のキャリアにおける大きな転換点を示しています。彼は「以前このチームにいた時は、個人の成功を第一に考えていた。それが難しいから離れたんだ」と率直に語っています。だが今は違う。「本当にツール・ド・フランスでチームのために走りたい」という明確な意思を持って戻ってきたのです。

特に彼の心を強く捉えているのは、「イエロージャージを着た選手がいるチームが受けるリスペクト」だと言います。「あれは本当に特別なことだ。その一部になりたい」と。ヘッドコーチの Mathieu Heijboer との最初の話し合いから、彼は「チームとしてグランツール、特にツール・ド・フランスを勝ちたい」という野望を伝えていたそうです。自身の勝利への執着を手放し、チームの勝利のために全力を尽くす。この姿勢は、長年個人として戦ってきた彼だからこそ感じる、新たな境地なのではないでしょうか。「なるほど！」と思わず膝を打つような、深い洞察に満ちた言葉です。

ドーフィネで見せる献身、そしてツールへの確固たる視線

現在進行中のクリテリウム・デュ・ドーフィネで、私たちはすでにヴィクトル・カンペナールツの新たな役割を目にしています。彼は献身的にチームの先頭を牽引し、エースであるヨナス・ヴィンゲゴーのために文字通り「盾」となっているのです。彼の圧倒的なパワーと持久力は、集団のペースをコントロールし、ライバルチームの動きを封じる上で不可欠な要素となっています。

チーム ヴィスマ・リースアバイクは、ツール・ド・フランス2025に向けて、すでに強力な布陣を敷いています。ヨナス・ヴィンゲゴーを筆頭に、ワウト・ファンアールト、セップ・クス、マッテオ・ジョーゲンソン、ティシュ・ベノート、エドアルド・アッフィニ、そしてSimon Yatesといったトップ選手が名を連ねています。カンペナールツは、彼らの中でも特に「長く、そしてハードに先頭を牽引する」という、自身のフィジカル特性に最も合致する役割を担うことを自ら望んでいます。

「2位では成功とは言えない」とまで言い切る彼の言葉からは、チームの目標達成への並々ならぬ覚悟が感じられます。彼の献身と経験が、チーム ヴィスマ・リースアバイクが目指すツール・ド・フランス制覇にどれほど大きな影響を与えるか。彼のこれまでのキャリアと、今選んだ道を見ていると、「確かに！」と共感を覚えずにはいられません。

ヴィクトル・カンペナールツのキャリアは、個人主義が色濃いロードレースの世界において、一つの新たな価値観を提示しているようにも見えます。彼の「リスペクト」を求める旅が、チーム ヴィスマ・リースアバイクのツール・ド・フランスでの成功へと繋がるのか。7月5日、リールで開幕するツール・ド・フランスで、彼の献身的な走りが、また新たな感動を生み出すことを期待せずにはいられません。次も読みたい！そう思わせる彼の挑戦に、引き続き注目していきましょう。