ヴィスマ・リースアバイク、ポガチャルに挑まず。ヴィンゲゴーは3週間後に真価

日本のサイクルロードレースファンの皆さん、こんにちは。グランツールを中心にヨーロッパのレースを追いかける山田健一です。

さて、今年のツール・ド・フランスを前に、自転車界のビッグネームが火花を散らしています。特に注目すべきは、タデイ・ポガチャルとヨナス・ヴィンゲゴー、この二人の絶対的エースの対決でしょう。しかし、ここにきてチーム ヴィスマ・リースアバイクのチーム代表、リシャール・プルッヘがWielerFlitsのポッドキャストで驚くべき発言をしました。「ヨナス・ヴィンゲゴーはタデイ・ポガチャルよりも、3週間のグランツールにおいて優れている」と。この大胆な発言の真意とは一体何なのでしょうか。

「ヴィンゲゴーはポガチャルより優れている」チーム代表の揺るぎない自信

リシャール・プルッヘ代表のこの発言は、多くのサイクリングファンにとって衝撃的だったのではないでしょうか。今シーズン、タデイ・ポガチャルはミラノ〜サンレモやパリ〜ルーベではマチュー・ファンデルプールに阻まれたものの、それ以外の出場レースではまさに「王」として君臨してきました。ジロ・デ・イタリアでの圧倒的なパフォーマンスは記憶に新しいところ。そんなポガチャルを「チャレンジャー」と位置付けるのではなく、自らのエースであるヨナス・ヴィンゲゴーを「同等、いやそれ以上」と評するプルッヘ代表の言葉には、確固たる自信が感じられます。

元選手であるネイサン・ファン・ホーイドンクもこの見解に同調しており、両選手が最高のコンディションであれば、ヴィンゲゴーが勝ると強調しています。プルッヘ代表は、2023年のツール・ド・フランスでヨナスが不運な準備期間とフィジカルの悪化に苦しんだにもかかわらず、ポガチャルに肉薄したことを指摘し、「我々もまた大きな一歩を踏み出した」と語っています。2022年と2023年のツールで、ヴィンゲゴーがポガチャルに時間差をつけた事実（原文の記述に従い「レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ」とあるが、これはヴィンゲゴーが当時所属していたチーム ヴィスマ・リースアバイクでの成績を指すものだろう）が、この自信の源泉になっているようです。

総合力で勝るヴィンゲゴー、AIが拓く新たな戦術

プルッヘ代表がヴィンゲゴーの優位性を語る上で、最も強調するのは「3週間の総合力」です。ロンド・ファン・フラーンデレンのような単発のクラシックレースではポガチャルのようなパンチャータイプが有利かもしれませんが、グランツールでは話が別。彼曰く、「3週間を通して、疲労の蓄積に耐える能力において、ヨナスは我々の見方では優れている」と。これは、選手のフィジカルデータや過去のレース展開を徹底的に分析した上での結論でしょう。

さらに興味深いのは、チーム ヴィスマ・リースアバイクが「AI（人工知能）」を積極的に活用しているという点です。プルッヘ代表は詳細を明かしませんでしたが、AIを用いて各ステージの攻略法、アタックすべきタイミング、あるいは逆にアタックを避けるべき状況などを分析し、トレーニングや戦術に落とし込んでいると語っています。これはまさに現代のロードレースにおける最先端の試みであり、データとテクノロジーが選手のパフォーマンスをどこまで引き上げるのか、非常に注目すべきポイントです。PONとの協業も、その取り組みの一環なのでしょう。

ツール・ド・フランス2025、頂上決戦への期待

今年のツール・ド・フランスは、タデイ・ポガチャルがジロ・デ・イタリアで総合優勝を果たし、その勢いのままダブルツール制覇を目指す中で、ヨナス・ヴィンゲゴーとの直接対決が最大の焦点となります。もしヴィンゲゴーが今年のツールで総合優勝を飾れば、彼もまたポガチャルと同じくツール3勝という金字塔を打ち立てることになります。

プルッヘ代表の自信に満ちた発言は、UAEチームエミレーツ・XRGとチーム ヴィスマ・リースアバイクという二大巨頭の間の激しい心理戦の始まりを告げているようにも見えます。ファンの間では、この発言に対して「言い訳だ」「見栄を張っているだけ」といった批判的な意見も散見されますが、これは裏を返せば、それだけ両チーム、両選手への期待と注目が高い証拠でしょう。

RIDE Magazineの「Zomergids 2025」では、タデイ・ポガチャルとヨナス・ヴィンゲゴー、それぞれの裏方で彼らを支えるマウロ・ジアネッティとティム・ヘームスケルクのインタビューが掲載されており、彼らがエースをいかにツール・ド・フランスへ導くのか、その準備の全貌が明かされるとのこと。これはぜひ読んでみたいですね。

今年のツール・ド・フランスは、単なる肉体と戦略のぶつかり合いだけでなく、データとAIを駆使した最先端の戦術、そしてチーム代表の自信に満ちた言葉の応酬が、レースをさらに面白くしてくれることでしょう。果たして、プルッヘ代表の予言通り、ヨナス・ヴィンゲゴーがタデイ・ポガチャルを上回るのか、それともポガチャルがその圧倒的な強さを見せつけるのか。今からツールの開幕が待ち遠しくて仕方ありません。