ヴァル・ディ・ソーレの鼓動：MTBワールドシリーズ開幕！メカニックが読み解く“山の声”

山が息をのむ瞬間、それはヴァル・ディ・ソーレでマウンテンバイク・ワールドシリーズが幕を開ける時です。トレント自治県ダオラサ・ディ・コメッツァドゥーラを舞台に、今年も世界のトップライダーたちが集結しました。メカニックとしてこの地を訪れるたび、私は彼らのバイクが発する微かな振動から、コースの“声”を聞き取ろうとします。特に、このヴァル・ディ・ソーレのコースは、まるで生き物のように表情を変え、ライダーと機材に究極の対話を迫るのです。

金曜日にはスペクタクルなショートトラック、土曜日には世界一のダウンヒルコース「ブラック・スネーク」、そして日曜日にはクロスカントリーの激戦が繰り広げられます。2026年の世界選手権の舞台でもあるこの地で、選手たちは一体どんな“声”を聴かせ、機材はどう応えるのか。その裏側に迫っていきましょう。

「ブラック・スネーク」が語るコースの真実

土曜日に開催されるダウンヒルの「ブラック・スネーク」は、その名の通り、まるで巨大な蛇がうねるかのような世界屈指の難コースです。メカニックの視点から言わせてもらえば、ここはバイクのフレーム剛性、サスペンションの耐久性、そしてタイヤのグリップ性能が極限まで試される場所。特に、岩がむき出しになったセクションや、高速で飛び出すジャンプからの着地は、バイクの各部に想像を絶する負荷をかけます。

過去、このコースでは数々の機材トラブルを見てきました。フレームのクラック、ホイールの破損、サスペンションのエア抜け……。それらはすべて、ライダーの攻めと、コースが持つ“牙”との衝突の証です。メカニックたちは、この「ブラック・スネーク」のために、通常よりも高圧にサスペンションのセッティングを施したり、より頑丈なタイヤを選んだり、時にはインサート（タイヤ内部の保護材）を追加するなど、あらゆる手を尽くします。ライダーが自信を持って攻め込めるのは、バイクが「大丈夫だ、任せろ！」と応えてくれると信じているからこそ。その信頼関係を築くのが、我々メカニックの仕事なのです。

クロスカントリー：乾燥と滑りやすさ、そして新セクションの挑戦

日曜日のクロスカントリーコースは、全長3.5km、標高差150mの周回コースに、今年は新たなセクションが加わりました。選手たちのコメントを聞くと、「とても乾燥していて、滑りやすい」という声が目立ちます。イタリアのMartina Bertaは「雨が降ってほしい」とまで言っていますね。この“乾燥と滑りやすさ”は、メカニックにとっては非常に重要な情報です。

乾いた路面では、タイヤのコンパウンド（ゴムの種類）とトレッドパターン（溝の形状）がグリップに大きく影響します。特にヴァル・ディ・ソーレのような岩場や木の根が多いコースでは、サイドノブ（タイヤの側面にある突起）の食いつきが命取りになる。また、乾燥しているとホコリっぽくなり、路面が非常に滑りやすくなるため、サスペンションのセッティングも通常よりソフトにして、路面追従性を高める傾向にあります。

世界チャンピオンのプック・ピーテルセも「ヴァル・ディ・ソーレらしいコースだが、改良点が気に入った」と話しています。彼女が特に評価している「上部のジャンプ」や「森のセクションの滑らかさ」は、バイクの重心移動や空中でのコントロール、そして高速での安定性が問われる部分。これらのセクションでいかに速く、かつ安全に走破できるかが、勝負を分けるポイントとなるでしょう。メカニックは、ライダーの好みとコースコンディションに合わせて、ミリ単位の調整で最高の“声”を引き出すことに全力を尽くします。

帝王Nino Schurter、10勝目の伝説へ

男子エリートのクロスカントリーでは、やはり「帝王」Nino Schurterから目が離せません。ヴァル・ディ・ソーレでの10勝目という偉業に挑む彼にとって、このコースはまさに「庭」のようなもの。彼は「昨年より標高差は少ないが、テクニカルさは変わらない」と語っています。このコメントからは、彼がいかにコースの特性を熟知しているかが伝わってきます。

Nino Schurterのバイクは、まるで彼の手足の延長のようです。長年の経験と、自身のライディングスタイルに合わせた完璧な機材セッティングが、彼の圧倒的な強さを支えています。彼は単に速いだけでなく、バイクの挙動を完全に制御し、コースのあらゆる起伏を味方につける。そのライディングには、まるでバイクが彼の意思を読み取っているかのような一体感があります。彼のバイクからは、常に「最高のパフォーマンスを引き出してくれ！」という力強い“声”が聞こえてくるようです。10勝目という歴史的瞬間を、ぜひその目で確かめてほしいですね。

イタリア勢の挑戦と未来のスターたち

ホームレースとなるイタリア勢にも注目です。男子エリートではヨーロッパチャンピオンのSimone AvondettoとベテランのLuca Braidotが、女子エリートではMartina Bertaが、そして女子U23ではノヴェ・メストで3位に入ったSara Cortinovisが期待されています。男子U23ではElian Paccagnellaがイタリアの希望を背負います。

地元でのレースは、選手にとって特別な意味を持ちます。声援が力になる一方で、大きなプレッシャーも伴うでしょう。しかし、彼らはこのコースを熟知しており、地の利を最大限に活かすはずです。特に若手の選手たちにとっては、世界のトップライダーと肩を並べて走ることで、多くの学びと経験を得る貴重な機会となります。彼らのバイクからは、未来への希望に満ちた“声”が聞こえてくることでしょう。

ヴァル・ディ・ソーレが紡ぐ新たな物語

ヴァル・ディ・ソーレのマウンテンバイク・ワールドシリーズは、単なるレース以上のものです。そこには、ライダーとバイク、そしてコースが織りなす壮大な物語があります。メカニックとして、私はその物語の裏側で、彼らの最高のパフォーマンスを引き出すための“声”なき対話を続けています。

今年はどんなドラマが生まれ、どんな新しい“声”が聞こえてくるのか。Nino Schurterの偉業達成なるか、それとも若手の台頭か。ぜひ、週末はヴァル・ディ・ソーレの熱気に注目してみてください。そして、もし機会があれば、ぜひ会場で、ライダーとバイク、そしてコースが一体となって発する“声”を肌で感じてみてください。きっと、新たな発見があるはずです！