マチュー・ファンデルプールにMTBでの面白い挑戦が到来

「異種格闘技戦士」ファンデルプールの挑戦

マチュー・ファンデルプールという選手は、まさに「異種格闘技戦士」という表現がぴったり来るでしょう。シクロクロスで世界を制し、ロードレースではクラシックのモニュメントを次々と手中に収め、そしてマウンテンバイクでもワールドカップを制する。そのいずれの分野においても、彼はトップレベルのパフォーマンスを見せつけてきました。今回のノヴェー・ムニェスト・ワールドカップ参戦は、2023年秋の2024年オリンピックテストイベント以来のMTBレースであり、ワールドカップに限れば2021年以来、実に4年ぶりの復帰となります。

ロードレースのシーズンが佳境を迎えるこの時期に、敢えてMTBの最高峰の舞台に挑む。これは単なる調整や気分転換では片付けられない、彼ならではの挑戦への渇望、そしてオリンピック出場に向けた明確な意思表示だと私は見ています。彼の心中を察すると、ツール・ド・フランスという大舞台を前に、ロードレースとは異なる筋肉や技術を刺激することで、心身ともにリフレッシュし、さらなる高みを目指そうとしているのかもしれません。常に限界を押し広げようとする彼の姿は、いつ見ても「なるほど！」と唸らされますね。

因縁のノヴェー・ムニェスト、そしてスタートラインの戦術

ノヴェー・ムニェストという地は、マチュー・ファンデルプールにとって特別な場所です。2019年にはここで自身初のMTBワールドカップ勝利を飾り、その多才ぶりを改めて世界に知らしめました。しかし、2021年には後のオリンピックチャンピオン、トム・ピドコックとの激しいバトルを繰り広げ、惜敗を喫した因縁の地でもあります。今回の復帰戦で、再びその舞台に立つというのは、彼にとって並々ならぬ決意があるに違いありません。

今回の参戦では、UCIポイント不足のため、通常金曜日に行われるショートレースには出場できません。これにより、日曜日のクロスカントリーレースでは5列目からのスタートとなります。MTBのスタート順は非常に重要で、前方に位置するほど有利なのは言うまでもありません。しかし、ノヴェー・ムニェストのコースは序盤が広く、最初の左カーブからすぐに登りに入るレイアウト。これはファンデルプールにとって、一気に順位を上げるチャンスを秘めていると言えるでしょう。彼の瞬発力とライン取りの巧みさがあれば、このハンディキャップもむしろ「へぇ～」と驚くような追い上げ劇の伏線になるかもしれません。

ツール・ド・フランスへの視点、そしてMTB参戦の戦略的意味

グランツールを専門とする私にとって、ロードレースのトップ選手がシーズン中にMTBレースに参戦するというのは、常に興味深いテーマです。特に、ツール・ド・フランスというロードレースの最高峰を控えている状況であれば、その意図は一層深まります。一部の現地メディアやSNSでは、「彼のトレーニングはツール・ド・フランスにフォーカスしており、ノヴェー・ムニェストはあくまでMTBの感覚を試す場に過ぎない」といった見方も出ています。確かに、パリ〜ルーベ後の彼のMTBトレーニング量が不明であることも、その見方を補強するかもしれません。

しかし、私はこれを単なる調整とは見ていません。マチュー・ファンデルプールは、ロードレースのパワーと持久力に加え、MTBで培われたバイクコントロールや瞬時の判断力、そしてオフロード特有の「攻める」メンタリティをロードレースにも持ち込んできた選手です。MTBのコースで極限のバランス感覚やアジリティを磨くことは、ツール・ド・フランスの石畳やテクニカルな下り、あるいは集団内での位置取りといった場面で、彼にさらなるアドバンテージをもたらす可能性を秘めているのです。「そうだったのか！」と膝を打つような、彼の戦略的な思考が垣間見えます。

勝利への挑戦と、その先のロードレースシーズン

今回のノヴェー・ムニェスト・ワールドカップでは、世界チャンピオンのアラン・ハザリー、マティアス・フリュッキガー、そしてヴィクトル・コレツキーといったMTBスペシャリストたちが彼の前に立ちはだかります。これまでのキャリアで、ファンデルプールはワールドカップ初戦で優勝したことがありません。2019年のアルプシュタットでの2位が最高成績です。このジンクスを破れるか、それもまた注目すべきポイントでしょう。

しかし、彼がこのレースでどのような結果を出したとしても、その経験は必ずや今後の彼のパフォーマンスに影響を与えるはずです。7月にはツール・ド・フランス、そして9月にはUCI MTB世界選手権 ヴァレーが控えています。ロードレース界を席巻しつつも、オフロードへの情熱を失わないマチュー・ファンデルプール。彼の多才な才能が、今シーズン、私たちにどのような驚きと感動をもたらしてくれるのか。次も読みたい、そんな彼の物語は、まだ始まったばかりです。