アユソがUAEチームエミレーツで実績を積む

ジロ・デ・イタリア：雨中のタイムトライアルで見えた、フアン・アユソの「格」

皆さん、こんにちは。グランツールを中心に追いかける山田 健一です。今年のジロ・デ・イタリアは、序盤からUAEチームエミレーツ・XRGの圧倒的な支配力が際立っていますが、その中で、一人の若きスペイン人クライマーが着実に存在感を高めているのをご存知でしょうか？ そう、フアン・アユソです。雨に見舞われたリド・ディ・カマイオーレでの個人タイムトライアルは、彼のチーム内での地位を一段と押し上げるものとなりました。

雨が翻弄したピサ近郊のタイムトライアル

リド・ディ・カマイオーレをスタートし、ピサの街を目指すこのタイムトライアルは、スペシャリスト向けと言われながらも、思わぬ要素がレースを左右しました。それは「雨」です。序盤にスタートした選手には好条件でしたが、総合上位候補たちが走り出す頃には、路面はざあざあと降りしきる雨で濡れていきました。特に、後にスタートした選手ほど不利になるという、タイムトライアルでは非常に厄介な状況です。

そんな悪条件の中、フアン・アユソが見せた走りは、まさに「格」の違いを感じさせるものでした。落車で膝を痛めていたという彼ですが、総合を争うライバルたちと比較しても、プリモシュ・ログリッチを除けば最速のタイムをマークしたのです。特に、チームの総合リーダーであるイサーク・デルトロに対して48秒もの差をつけたのは驚きでした。デルトロは第9ステージのグラベル区間（ステッラート）でアユソを置き去りにしましたが、このタイムトライアルでは完全に立場が逆転した形です。雨というリスキーな状況下で、無理せずともきっちりタイムをまとめられる集中力と技術は、並々ならぬものを感じさせました。

UAEチームエミレーツ・XRGの「多頭体制」とアユソの立ち位置

ご存知の通り、今年のUAEチームエミレーツ・XRGは、ジロに強力な布陣を敷いています。現在の総合順位を見ても、トップ7の中にイサーク・デルトロ、フアン・アユソ、ブランドン・マクナルティ、アダム・イェーツと、実に4人もの選手を送り込んでいます。これは驚異的な数字であり、チームの層の厚さ、そして複数の選択肢を持ってレースを進める戦略が見て取れます。

開幕前、デルトロが総合リーダー候補の筆頭と見られていましたが、アユソもまたグランツールでの経験を積んだ実力者です。今回のタイムトライアルでデルトロを上回ったことで、チーム内での彼の発言力、そして今後のレース展開における重要性は増すでしょう。もちろん、ジェイ・ヴァインのようにタイムトライアルで速い選手もいますが、総合争いという点で見れば、アユソはデルトロに次ぐ、あるいは並び立つ存在として明確に名乗りを上げたと言えます。アダム・イェーツもプランBとして控えていますが、タイムトライアルでのタイム差を見る限り、現状ではアユソがより総合リーダーに近い位置にいると言えるのではないでしょうか。

唯一のステージウィナーが持つ「説得力」

フアン・アユソがチーム内で特別な存在感を放つもう一つの理由、それは彼が今大会、UAEチームエミレーツ・XRGの中で唯一ステージ優勝を飾っている選手であるという点です。第7ステージ、ターリアコッツォでの厳しい山頂フィニッシュで、彼は見事なスプリントを見せて勝利を掴み取りました。

ステージ優勝は、チーム、そして選手自身の「格」を証明する重要な要素です。総合争いももちろん大切ですが、日々のステージで勝利を掴む力は、チームメイトからの信頼や、ライバルへの威圧感に繋がります。アユソは、単に総合で上位を走るだけでなく、自らレースを動かし、勝利をもぎ取る力があることを証明しました。これは、チームが今後の山岳ステージで誰をエースとして推すか、という判断において、非常に大きな説得力を持つはずです。

今後のジロ、そしてアユソの行方

ジロはまだ中盤戦。これから厳しい山岳ステージが次々と控えています。UAEチームエミレーツ・XRGの「多頭体制」がどのように機能するのか、そしてフアン・アユソがその中でどのような役割を担うのか、非常に興味深いところです。

タイムトライアルでデルトロに差をつけ、チーム唯一のステージ勝利も手にしているアユソ。彼の膝の状態が万全であれば、今後の山岳ステージで真のリーダーとしてチームを牽引する可能性も十分にあります。デルトロも若い選手ですが、グランツール経験ではアユソが一歩リードしています。チームは状況に応じて、どちらをメインに据えるか、あるいは両輪で攻めるか、難しい判断を迫られるでしょう。

フアン・アユソがジロの最終日まで「マリア・ローザ」争いに絡み続け、そして最終的にそのピンク色のジャージに袖を通すことができるのか。彼の走りと、UAEチームエミレーツ・XRGの戦略から、まだまだ目が離せませんね。