デュムラン、フルームに批判「ルーティン、止まるの怖いようだ」

Tom Dumoulinが語るChris Froomeの「引き際」論争 - 往年の王者はなぜ走り続けるのか？

かつて、Chris Froomeの走りはロードレース界の常識を塗り替えるものでした。ツール・ド・フランスで4度、ブエルタ・ア・エスパーニャで2度、そしてジロ・デ・イタリアで1度。合計7度のグランツール制覇という輝かしいキャリアは、まさに「レジェンド」と呼ぶにふさわしいものです。ドーフィネやツール・ド・ロマンディ、ツール・ド・オマーンといった有力なステージレースでも勝利を重ね、その圧倒的なクライミング力とタイムトライアル能力で、ファンを魅了しました。

しかし、2019年のクリテリウム・デュ・ドーフィネでのあの悲劇的な大落車以来、彼のキャリアは大きく変わってしまいました。骨折など複数の重傷を負い、そこからの復帰は想像を絶する努力が必要だったはずです。そして今、彼はIsrael-Premier チーム ソリューションテック・ヴィーニファンティーニの一員としてレースを走っていますが、かつての輝きは残念ながら見られません。

ライバルだからこそ見える「今の姿」

そんなChris Froomeの現状について、かつてジロ・デ・イタリアで激しいバトルを繰り広げたライバルであるTom Dumoulinが、あるポッドキャスト番組「De Grote Plaat」で非常に踏み込んだ発言をしました。

Dumoulinは「個人的には、彼がまだレースに出続けているのは残念に思う」と語ったそうです。そして、「もし彼自身が楽しんでいるのなら、それは素晴らしいことだ。私にはそれを止める権利はない」と前置きしつつも、「でも、私には彼がもう楽しんでいないように感じられる。まるで習慣でペダルを漕ぎ続けているかのようだ。辞めるのが怖いんじゃないか、とさえ思う」と続けたのです。

この言葉は、彼らがかつて頂点を争った間柄だからこそ、重く響きます。特に2018年のジロ・デ・イタリアでは、Chris Froomeが最終盤に大逆転劇を見せ、Tom Dumoulinは総合2位に終わりました。あの時の悔しさを知っているDumoulinだからこそ、今のChris Froomeの姿に複雑な感情を抱いているのでしょう。現場で何度も彼らの表情を見てきた私としては、「なるほど、Dumoulinにはそう見えているのか」と深く頷かされました。

お金の問題？ それとも「辞めることへの恐怖」？

Dumoulinはさらに、Chris Froomeが「まだ多額の収入を得ている」ことにも触れ、「それが本当に必要なのか疑問だ。彼はもう10年近くも何百万ドルと稼いできたのだから...一体、何軒の家が必要なんだ？」と経済的な側面を示唆しました。確かに、トッププロ選手の収入は一般人の想像をはるかに超える額です。

しかし、プロアスリート、特にChris Froomeのような頂点を極めた選手にとって、現役を続ける理由は単純にお金だけではないはずです。彼らは「選手であること」が自己のアイデンティティそのものになっていることが多い。朝起きてトレーニングをし、レースに向けて調整する。そのルーティンが生活の軸であり、それを失うことへの「恐怖」や、引退後のキャリアに対する不安があるのかもしれません。

かつてEddy MerckxやBernard Hinaultといったレジェンドたちが引退を決めた時も、様々な葛藤があったでしょう。彼らが「もう十分だ」と決断した時期と、今のChris Froomeの状況を安易に比較はできませんが、頂点を知る者ゆえの苦悩は共通するものがあるように思います。

現場で見るChris Froomeの今

私自身、ヨーロッパのレース現場でChris Froomeの走りを何度も見てきました。かつてはメイン集団の先頭でチームを牽引し、山岳ではライバルたちを置き去りにする姿が当たり前でした。しかし、最近のレースでは、集団の後方や、時に遅れてしまう姿を目にすることが増えました。Israel-Premier チーム ソリューションテック・ヴィーニファンティーニというチームに移籍してからも、かつてのようなエースとしての走りは見られず、アシストというよりは、経験豊富なベテランとしてチームに帯同しているような立ち位置に見えます。

もちろん、彼がリハビリを経て再びプロトンに戻ってきたこと自体、驚異的なことです。その不屈の精神には誰もが敬意を表するべきでしょう。しかし、Dumoulinが指摘するように、かつての輝きを知る者としては、今の姿を見るのは少し寂しい気持ちになるのも事実です。チームが彼を抱え続けるのは、過去の実績やブランド力、そして若手への助言といった側面もあるのかもしれません。

レガシーは守られるのか

Tom Dumoulinの率直なコメントは、Chris Froomeの「引き際」について、そしてプロアスリートのキャリア終盤について、改めて考えさせられる機会を与えてくれました。彼の輝かしいレガシーは、あの落車までのものとして永遠に語り継がれるでしょう。しかし、その後の現役生活が、彼の伝説にどのような影響を与えるのか。

ファンとしては、Chris Froomeが再び素晴らしい走りを見せてくれることを願う一方で、彼自身が心から満足できる形でキャリアを終えることを願う気持ちもあります。彼の今後の決断が、どのようなものになるのか、注目していきたいと思います。