ログリッチ、ジロ16ステージ前に「敬意で出走」

「敬意」が生んだ無念の棄権

ジロ・デ・イタリア開幕前、誰もがプリモシュ・ログリッチに大きな期待を寄せていました。昨年の覇者であり、グランツールでの数々の栄光を持つ彼が、今年もピンクのジャージをまとう姿を想像したファンは少なくないでしょう。しかし、現実は厳しいものでした。序盤から複数の落車に見舞われ、特にグラベルステージでの転倒は、彼の体に大きなダメージを与えていたのです。

レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのトレーナー、マルク・ランベルツが『ヘット・ニーウズブラッド』のインタビューで明かした証言は、まさに胸を締め付けられるものでした。「プリモシュはローラー台でわずか60ワットしか踏めない時点で、すでに苦しんでいたのです」と。想像してみてください、世界トップレベルの選手が、まるで素人のようにペダルを踏むことすらままならない状態。これは尋常ではありません。

それでも彼は、チームメイトへの「敬意」から、第16ステージまで走り続けたと言います。チームメイトたちが献身的に彼を支え、護衛し、力を尽くしてくれたことへの感謝の念が、彼をスタートラインに立たせ続けたのでしょう。しかし、体は正直です。痛みに耐えながら走る姿は、まさに満身創痍。最終的には、チームの判断もあり、無念の棄権となりました。このニュースは、多くのファンに衝撃を与えつつも、ログリッチのプロフェッショナリズムと、チームとの絆の深さを改めて感じさせたのではないでしょうか。

満身創痍の「グラベル」激走が代償に

ログリッチの棄権の最大の原因は、やはりシエナへのグラベルステージでの落車でした。ランベルツの言葉を借りれば、「昨年ドーフィネで落車したのと同じ肩を強打し、多くの汚れた深い傷を負ったため、回復に膨大なエネルギーを要した」とのこと。さらに、大腿四頭筋にもダメージを受け、ペダルを上へ引き上げるたびに痛みが走る状態だったというのです。

グランツールで総合優勝を目指す選手にとって、わずかな体調の異変すら命取りになります。ましてや、これほどの深刻な負傷を抱えていては、トップレベルでの戦いを続けることは不可能でしょう。ログリッチのキャリアを振り返ると、ツール・ド・フランスでの逆転負けや、昨年のツールでの棄権など、落車や怪我による不運がつきまとっています。しかし、彼はその度に不屈の精神で立ち上がり、カムバックを果たしてきました。今回もまた、彼のキャリアに刻まれた「逆境」の一つとなるわけですが、私たちは彼の「慣れ」ともいえるような精神的な強さを知っています。あのピンクのジャージを着ていた頃の輝きを思い出すと、この現状は本当に悔やまれますが、彼がどれだけチームのために戦っていたかが伝わってきますね。

ツール・ド・フランスへ向けた再出発

今回の棄権は、ログリッチにとって大きな挫折であることは間違いありません。しかし、彼のトレーナーは「精神的には問題ないようだ」と語っています。過去にツールを棄権した際よりも、彼の心は落ち着いている様子です。これは、彼がすでに多くの困難を乗り越えてきた経験から来るものでしょう。

今後、彼は精密なメディカルチェックを受け、骨折や深刻な筋肉損傷がないかを確認する予定です。そして、もし問題がなければ、ツール・ド・フランスに向けてティニュでの高地合宿で準備を進めることになります。今回のジロでの早期離脱は、皮肉にも、ツールに向けた準備期間を1週間余分に確保するという、ポジティブな側面も生み出しました。

ログリッチの不屈の精神は、多くのサイクリストに勇気を与えてきました。今回のジロでの無念の棄権は、彼のキャリアにおける新たな試練です。しかし、彼は必ずやこの困難を乗り越え、再び世界の舞台で輝きを放つと信じています。7月に開幕するツール・ド・フランスで、彼がどのような走りを見せてくれるのか、今から胸が高鳴りますね。日本のサイクリングファンの皆さん、プリモシュ・ログリッチの次の挑戦を、共に熱く応援していきましょう！