エヴェネプール

レムコ・エヴェネプールを巡る水面下の攻防！？ ルフェーブル氏がレッドブル・ボーラ・ハンスグローエのデンク監督を「あのろくでなし」と罵倒した衝撃の背景

グランツール担当の山田 健一です。

スペインのスポーツ紙「マルカ」が報じた、パトリック・ルフェーブル氏（元スーダル・クイックステップ監督）のポッドキャストでの発言が、ヨーロッパのサイクルロードレース界に波紋を広げていますね。ルフェーブル氏といえば、その手腕もさることながら、歯に衣着せぬ物言いで常に話題の中心にいる人物です。今回、彼が標的にしたのは、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのチーム監督、ラルフ・デンク氏。なんと、「あのろくでなし（bastardo）」とまで言い切ったというのですから、穏やかではありません。一体、何があったのでしょうか。

「あのろくでなし」発言の衝撃

ルフェーブル氏がポッドキャスト「Vals Plat」で明かした内容は、まさに衝撃的でした。彼は、デンク氏がかつて自身に持ちかけたという、ある提案について語ったのです。その舞台は、人目を避けたホテルの一室。そこでデンク氏は、ルフェーブル氏に対してこう切り出したと言います。**「君のチームを引き継ぎたい」**と。

これを聞いたルフェーブル氏は、思わず耳を疑ったことでしょう。「私が彼の部下として働くと思ったのか？」と、ポッドキャストで当時の心境を吐露しています。長年、自らの哲学でチームを築き上げてきた彼にとって、他チームの監督からの吸収合併の提案は、まさに青天の霹靂だったに違いありません。そして、その提案の仕方、水面下での動きに対して、ルフェーブル氏らしい激しい言葉で怒りをぶちまけた、というわけです。彼の「あのろくでなし」という言葉には、単なる個人的な感情だけでなく、プロチーム運営者としての誇りや、相手のやり方に対する強い不信感が込められているように感じます。

狙いはレムコ・エヴェネプールだった

しかし、デンク氏の本当の狙いは、ルフェーブル氏のチームそのものだけではなかったようです。ルフェーブル氏によると、デンク氏とその周辺は、スーダル・クイックステップの吸収を打診する一方で、チームのエースであるレムコ・エヴェネプール選手に直接アプローチをかけていたというのです。

「彼らは（レムコ選手の）父の机の上にオファーを置いていった」とルフェーブル氏は語ります。レムコ選手の父、パトリック・エヴェネプール氏は息子の代理人も務めていますから、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエはまさに核心を突こうとしたわけです。しかし、ルフェーブル氏曰く、レムコ・エヴェネプール選手はそのオファーを「見向きもしなかった」とのこと。「テネリフェで会ったとき、彼は私を抱きしめてくれた」というエピソードは、ルフェーブル氏とレムコ・エヴェネプール選手の間の強い信頼関係を示唆しています。レッドブル・ボーラ・ハンスグローエとしては、チームごと、あるいは少なくともエースであるレムコ・エヴェネプール選手だけでも引き抜きたいという強い意図があったことは明らかです。彼らがどれほどレムコ・エヴェネプール選手の才能を高く評価しているか、そしてその獲得のためなら手段を選ばない覚悟さえ感じられます。

水面下の駆け引きと今後の行方

今回のルフェーブル氏の暴露は、トップチームの間で繰り広げられる、想像以上の水面下の駆け引きを垣間見せてくれました。チームの買収やエース選手の引き抜きは、サイクルロードレース界では常に囁かれるテーマですが、これほど具体的に、しかも当事者の口から語られることは稀です。

レムコ・エヴェネプール選手は2026年までスーダル・クイックステップとの契約がありますが、ルフェーブル氏が言うように、彼の将来は依然として不透明です。今回のレッドブル・ボーラ・ハンスグローエからのアプローチは、彼に対する他のチームからの関心がいかに高いかを示しています。ビッグマネーが動く可能性は常にあり、特にグランツールを狙える若手エースは、どのチームも喉から手が出るほど欲しい存在です。

ルフェーブル氏はスーダル・クイックステップの監督を退きましたが、チームに対する愛情と、かつてのライバルたちへの警戒心は全く衰えていないようです。彼の今回の発言は、デンク氏への個人的な怒りであると同時に、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのような新興勢力（レッドブルの参入は自転車界では比較的新しい動きです）に対する牽制、そして何より、レムコ・エヴェネプール選手を巡る争奪戦が既に始まっていることの証左とも言えるでしょう。今後、彼の去就、そしてチーム間のパワーバランスがどう変化していくのか、目が離せませんね。