フィリプセン、奇跡の落車回避に安堵「悪化を免れた」

あわや大惨事！ヤスペル・フィリプセン、九死に一生を得る

ベルギーの地で幕を開けたバロワーズ・ベルギー・ツアー。初日のスプリントステージは、ティム・メルリールが力強い加速で勝利を飾りました。しかし、レース後、私の耳に飛び込んできたのは、勝者メルリールよりも、ある一人のスプリンターに関する安堵の声でした。そう、アルペシン・ドゥクーニンクのヤスペル・フィリプセンです。彼はこの日、勝利には絡めなかったものの、最後の数百メートルで、まさに奇跡的な回避劇を演じたのです。

現地のメディアでも大きく報じられ、SNSにはその瞬間を捉えた動画が瞬く間に拡散されました。「信じられない！」「どうやって持ちこたえたんだ？」――誰もがそう呟いたことでしょう。私もその映像を何度も見返しましたが、何度見てもゾッとするような瞬間でした。フィリプセンが、最終盤でフランス人選手ジェゾン・テソンの後輪に前輪を引っかけてしまったのです。一瞬、車体が大きく横に振れ、空中へ投げ出されるかのような体勢に。まさに「オーバー・ザ・バー」寸前、誰もが落車を確信したはずです。しかし、彼は驚くべき体幹とバランス感覚で、自転車を立て直し、そのまま走り抜けたのです。あの状況で転倒しなかったのは、彼の反射神経と、長年の経験がなせる業としか言いようがありません。運も味方した、まさに紙一重の出来事でした。

「悪く終わっていた可能性も」フィリプセンが語る冷や汗の瞬間

レース後、フィリプセンは現地のメディア『Het Laatste Nieuws』に対し、その時の状況を冷静に語っています。「位置取りは悪くなかったのですが、最後のコーナリングで少しポジションを失ってしまい、いつもより早めにスプリントを開始せざるを得ませんでした」と彼は振り返ります。スプリンターにとって、最終局面でのポジション争いは最も神経を使う場面。一瞬の判断ミスが命取りになることも珍しくありません。

彼は続けます。「もちろん、ティム（メルリール、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ）の後ろについてスプリントしたかったのですが、残念ながら間に選手がいました。調子は良かったので、良い結果を出せると思っていました。しかし、ジェゾン・テソンの後輪に引っかかってしまい、判断を誤ってしまったのです。残念ですが、幸いにも落車せずに済みました。もっと悪く終わっていた可能性もありましたからね。明日のステージで新たなチャンスを掴みにいきます」。彼の言葉からは、勝利を逃した悔しさよりも、無事にレースを終えられたことへの安堵が強く感じられました。あの高速域で、僅かな接触が命取りになるのがロードレースです。彼がどれほど肝を冷やしたか、想像に難くありません。

ツールへ向けた試金石：スプリンターの宿命とスキル

今回のフィリプセンの落車回避は、単なる幸運な出来事として片付けられるものではありません。スプリンターの宿命とも言える、集団スプリントにおけるリスク管理の重要性を改めて浮き彫りにしました。ツール・ド・フランス開幕を間近に控えるこの時期、彼にとって今回の経験は大きな教訓となるでしょう。

ヤスペル・フィリプセンは、昨年のツール・ド・フランスで緑のジャージを獲得した名実ともにトップスプリンターです。彼のスプリント力はもちろんのこと、今回の件で明らかになった危機回避能力は、混沌としたツール・ド・フランスのスプリントステージを生き抜く上で不可欠な要素です。チーム アルペシン・ドゥクーニンクとしても、エーススプリンターが大きな怪我なくシーズンを乗り切ることは最重要課題。今回のヒヤリハットは、チーム全体の緊張感を高め、より一層の注意を促すきっかけになったのではないでしょうか。

さて、フィリプセンは明日のステージで仕切り直しを図るでしょう。あの「奇跡の回避」が、彼に新たな自信を与えるのか、それとも慎重さを増す要因となるのか。いずれにせよ、彼の今後の走りに注目が集まります。特にツール・ド・フランスでは、今回の経験が必ずや活きてくるはずです。スプリンターたちの熾烈な戦いは、まだ始まったばかり。次のステージも目が離せませんね！