アムステル・ゴールドレース

日本のサイクルロードレースファンの皆さん、こんにちは！山田 健一です。

グランツールを中心に、ヨーロッパの主要レースを長年追いかけていますが、この時期のクラシックレースもまた格別です。特に、フランドル地方からアルデンヌ地方へと舞台が移るこの瞬間は、選手たちのコンディションや戦略が大きく変わる、非常に興味深い局面と言えるでしょう。

さて、いよいよアルデンヌクラシックの幕開けです！

アルデンヌクラシック開幕！「ビールのクラシック」アムステル・ゴールド・レース2025展望

フランドルクラシックの興奮冷めやらぬ中、戦いの舞台はオランダ、リンブルフ州の丘陵地帯へと移ります。そうです、今年も「クラシック・オブ・ザ・ビール」、アムステル・ゴールド・レースがやってきました。アルデンヌ地方特有の短く急なコネタ（丘）が次々と現れるこのレースは、フランドルとはまた違ったタイプのパンチャーやクライマーが輝く場所。今年のレースはどんなドラマを見せてくれるのでしょうか？

今年の第59回大会は、4月20日、日曜日に開催されます。スタート地点は例年通りマーストリヒト。そこから34ものコネタを越え、テルブリートのマルテ・ベルフエドセスへとゴールする256.1kmの長丁場です。獲得標高は3000メートル。数字だけ見れば山岳ステージのようですが、その本質は短く爆発的な上り坂の連続にあります。現地メディアも「まるでジェットコースターのようだ」と表現するほど、リズムの変化が激しいのが特徴ですね。

このレースは、その後のフレッシュ・ワロンヌ、そして「モニュメント」の一つであるリエージュ～バストーニュ～リエージュへと続くアルデンヌ3連戦の初戦。ここで弾みをつけることは、選手たちにとって非常に重要です。例年、このレースの結果がその後のアルデンヌクラシック全体の行方を占うと言っても過言ではありません。

34のコネタが織りなす戦略的なコース

アムステル・ゴールド・レースのコースは、大きく3つのセクションに分けられます。最初の170kmは、比較的コネタが散らばっており、ここでレース序盤の逃げ集団が形成されるのが常です。ここはチームの若手や、このレースで一発を狙う選手たちにとって、絶好のアピールの場となります。

しかし、真の戦いが始まるのは、レース中盤、約195km地点から215km地点にかけてのわずか15kmの間です。ここに、Gulperberg、Kruisberg、Eyserbosweg、そしてKeutenbergという4つの象徴的なコネタが集中しています。特にKeutenbergは最大勾配が非常にきつく、ここで集団が大きく絞り込まれることが多い。まるで、フルーイダースベルフやオウデ・クワレモントのようなフランドルの石畳の丘とは違う、純粋なパワーとリズム感が試される区間です。この短い区間での動きが、レースのその後の展開を大きく左右します。「ここで遅れたら終わり」という緊迫感が、現場にいてもひしひしと伝わってきますね。

そして、レースのクライマックスを彩るのが、終盤の決定的なループです。かつてゴール地点だった伝説的なCauberg（800m、平均勾配7%）に2度上るほか、Geulhemmerberg（0.9km、6%）とBemelerberg（0.9km、5%）が登場します。特に最終盤のGeulhemmerbergとBemelerbergは、見た目以上にダメージが蓄積した脚には堪える上りです。最後のBemelerbergを越えてからの平坦区間、そしてマルテ・ベルフエドセスへのフィニッシュラインまで、息つく暇もありません。この最後の数キロで、逃げ切れるのか、追いつかれるのか、スプリント勝負になるのか…毎回手に汗握る展開が待っています。

豪華な顔ぶれ！主役はやはりあの男か？

さて、今年の優勝争いはどうなるでしょうか？やはり最大の注目は、アルデンヌ3連戦完全制覇を狙う**タデイ・ポガチャル (UAEチームエミレーツ・XRG)**でしょう。彼の爆発的なアタックは、短いコネタが連続するこのコースでは非常に強力な武器となります。昨年のリエージュ～バストーニュ～リエージュでの圧倒的な走りを見れば、彼がこのタイプのレースでどれだけ強いかは明らかです。彼の表情からは、すでに勝利への強い意志が感じられますね。

そして、彼の最大のライバルとなりそうなのが、怪我から復帰したばかりの**レムコ・エヴェネプール (Soudal Quick-Step)**です。フレッシュ・ブラバンソンでの勝利は、彼がすでに高いレベルに戻ってきていることを証明しました。ホームレースであるアムステル・ゴールド・レースへの特別な思いもあるはずです。彼の独走力は、コースのどの地点でも脅威となります。

フランドルクラシックでは不運に見舞われた**ワウト・ファンアールト (チーム ヴィスマ・リースアバイク)**も、もちろん優勝候補の一角です。チームメイトのBenootやTulettといった強力なアシスト陣も揃っており、チーム ヴィスマ・リースアバイクが集団コントロールから仕掛けまで、レースを動かす中心となる可能性は高いでしょう。ワウト・ファンアールトが本来の力を発揮できれば、勝負はさらに面白くなります。

昨年の覇者、**Tom Pidcock (Q36.5)**も侮れません。今シーズンすでに4勝を挙げるなど、その調子は非常に良いと聞いています。小柄ながらパンチ力があり、テクニカルな下りも得意とする彼は、このコースに非常に合っています。連覇へのモチベーションも高いはずです。

この他にも、アウトサイダーとして注目すべき選手はたくさんいます。ベン・ヒーリーや**ニールソン・パウレス (EF Education-EasyPost)**は、常に積極的な走りでレースをかき乱す存在です。マルク・ヒルシ (Tudor)、アレックス・アランブル (コフィディス)、マキシム・ファンヒルス (Red Bull-BORA-hansgrohe)、**ティボー・ネイス (Lidl-Trek)**といった選手たちも、展開次第では上位に食い込む力を持っています。特に、若手のティボー・ネイスは、その成長著しい走りに「へぇ～」と唸らされますよ。

アルデンヌの戦いは始まったばかり

アムステル・ゴールド・レースは、単なる一日のレースではありません。これは、その後のフレッシュ・ワロンヌ、そしてリエージュ～バストーニュ～リエージュへと続く、アルデンヌクラシックという壮大な物語のプロローグです。このレースでの結果や選手のコンディションは、次のレースに大きな影響を与えます。

過去には、このアムステル・ゴールド・レースでサプライズを起こした選手が、そのまま勢いに乗ってアルデンヌ3連戦で活躍することも珍しくありませんでした。逆に、ここで消耗しすぎて、その後のレースで失速してしまうケースもあります。各チームの思惑、選手の駆け引き、そして何より、オランダの丘陵が選手たちの脚に与えるダメージ。そのすべてが複雑に絡み合い、勝負の行方を予測不可能にします。

果たして、タデイ・ポガチャルはアルデンヌ完全制覇への第一歩を踏み出すのか？ それとも、復帰したレムコ・エヴェネプールが意地を見せるのか？ ワウト・ファンアールトやTom Pidcockが牙城を守るのか、それとも新たなヒーローが誕生するのか？

現地で取材する私としても、選手たちの表情やチームの動きから、少しでも早くその予兆を掴みたいと思っています。「確かに！」と思えるような、データだけでは見えない深い洞察を皆さんにお届けできれば幸いです。

日曜日は、アルデンヌの戦いを、熱いビール片手に（いや、レースを見ながらは危ないかな？）、一緒に応援しましょう！ 次はフレッシュ・ワロンヌ、そしてリエージュ～バストーニュ～リエージュと続きます。まだまだ見どころ満載のクラシックシーズン、どうぞお楽しみに！