ロマン・バルデ、最後の挑戦

ロマン・バルデ、心のレースで迎えるプロキャリアの終幕

フランスが生んだ孤高のクライマー、ロマン・バルデが、自身の「心のレース」と語るクリテリウム・デュ・ドーフィネで、14年間のプロキャリアに幕を下ろします。昨年6月に2025年ドーフィネでの引退を発表して以来、幾度となく「最後の舞台」を経験してきた彼ですが、今回は本当に最後のプロレースウィーク。その胸中には、どんな思いが去来しているのでしょうか。現地からの情報と、私自身の視点から、彼のラストダンスに迫ります。

静かなる引退ロード、ドーフィネへ

「特別な感情はない」――そうロマン・バルデは語ります。昨年、2025年のクリテリウム・デュ・ドーフィネを最後に引退すると発表して以来、彼はツール・ド・フランスの「バルデ・コーナー」や、今年のジロ・デ・イタリアのボルミオでのエピソードなど、数々の「最後の」瞬間を経験してきました。だからこそ、今、このドーフィネを前にしても、驚くほど冷静なのだと。34歳になったイスラエル・プレミアテックのクライマーは、やり切ったという充実感を漂わせています。

「プロとしてすべてを出し尽くしたと感じているから、とても穏やかなんです。この引退が来ることも、これまでのキャリアも、すべてに納得しています」と彼は笑顔を見せます。その表情からは、長年背負ってきたプレッシャーから解き放たれ、晴れやかな心境が読み取れますね。ちなみに、彼の息子アンガス君は、ドーフィネのスタート地点ドメラに駆けつけるよりも、スケートボードの練習を優先したとか。「それでいいんだ。まさに僕が望むことだから」というバルデの言葉に、アスリートとしてだけでなく、一人の父親としての彼の人柄が滲み出ていました。

プロとしての犠牲、そして家族との時間

しかし、この平穏な心境に至るまでには、計り知れない犠牲があったことも忘れてはなりません。バルデは、プロ生活の厳しさを赤裸々に語っています。「この生活様式、すべての犠牲を払い続けて、年に2、3回良い走りができるかもしれない、というだけではもう続けられない」。火山の頂上で3週間合宿し、その直後に1週間のレース、そしてわずか6日後にはまたグランツールへ――。想像を絶するような過酷なスケジュールをこなす中で、「アスリートとしての自分は満たされても、父親としての自分が少し失われていく感覚があった」と彼は打ち明けます。

なるほど、プロスポーツの頂点に立つ選手たちも、私たちと同じように家庭とのバランスに悩むのですね。特に、グランツールを主戦場としてきたバルデのような選手にとって、長期の遠征や集中を要するトレーニングは、家族との時間を大きく奪うものだったのでしょう。彼の言葉には、プロとしてやり切ったという満足感と同時に、その代償として得られなかったものへの正直な思いが込められているように感じられました。

監督の胸中とバルデの「心のレース」

長年バルデを支えてきたクリスティアン・ギベルトー監督も、今回のドーフィネには特別な感情を抱いています。「正直に言って、今夜（土曜日）は少し感情的になっている。ロマンのそばにいられることは光栄だが、同時に『なぜ終わるのか？』とも思う」。監督のこの言葉は、私たちファンにとっても胸に迫るものがあります。彼の走りがまだ第一線で通用するだけに、この引退は惜しまれてやまないでしょう。

しかし、バルデ自身は「引退ツアーではない」と強調します。「キャンピングカーに乗って沿道にいるような真似はしない。正直に言って、レースがしたいんだ」。ジロからの連戦で練習時間はほとんど取れていないものの、「1、2日良い日があるはずだ、いや、とても良い日が1、2日あるはずだ」と、彼は勝利への意欲を隠しません。ドーフィネは彼にとって「心のレース」であり、「ツールの魔法のほとんどを、その疲弊させる側面なしに味わえる、自転車の純粋な状態」なのだそうです。2016年に総合2位に入ったこのレースで、彼は最後の輝きを放とうとしているのです。ギベルトー監督が「脚よりも頭が彼を突き動かすだろう」と予見するように、彼の精神力と経験が、この最後の舞台でどんなドラマを生み出すのか、本当に楽しみでなりません。

最後の輝き、そして新たな道へ

ロマン・バルデのプロキャリアは、クリテリウム・デュ・ドーフィネで幕を閉じますが、彼のサイクルロードレースへの情熱が尽きるわけではありません。今後はグラベルライドの世界で、引き続きハイレベルな活動を続けていくと聞いています。プロとして駆け抜けた14年間を「あっという間だった」と振り返る彼の目は、まるで子供のように輝いていました。

さあ、ロマン・バルデのラストダンスが始まります。彼が「一発」を狙うと宣言したこのクリテリウム・デュ・ドーフィネで、どんな走りを私たちに見せてくれるのか。フランスの山岳で、彼が再びそのクライミング能力を炸裂させる瞬間を、固唾を飲んで見守りましょう。彼の最後の雄姿は、きっと私たちの記憶に深く刻まれることでしょう。