バルデの奮闘、報われず

日本のサイクルロードレースファンの皆さん、こんにちは！ジャーナリストの松崎 愛です。世界中のレースをリアルタイムで追い続ける私ですが、今回はジロ・デ・イタリア第17ステージで繰り広げられた、あるベテラン選手の熱きドラマに心を奪われました。勝利の女神は気まぐれですね。

あと一歩に泣いたベテランの執念

ジロ・デ・イタリア第17ステージ、ボルミオへと向かう山岳コースで、私たちは息をのむような展開を目撃しました。独走態勢に入ったのは、フランスのベテランクライマー、ロマン・バルデ。彼の顔は苦痛に歪みながらも、その眼差しには勝利への強い執念が宿っていました。ツール・ド・フランスで4勝、ブエルタ・ア・エスパーニャで1勝と、グランツールでのステージ勝利経験は豊富な彼ですが、ジロではまだその栄冠を掴んでいません。「今度こそ！」という彼の熱い思いが、画面越しにもひしひしと伝わってくるようでした。

しかし、運命の女神は残酷です。フィニッシュラインを目前に控え、背後から猛然と追い上げてきたのは、マリアローザを着用する若き強者、イサーク・デルトロ。まさに「マリアローザの呪い」ならぬ「マリアローザの力」が、バルデの前に立ちはだかったのです。最終的にロマン・バルデは、イサーク・デルトロに次ぐ2位でのフィニッシュ。あと一歩、本当にあと一歩でした。彼の美しい逃げが決まらなかった瞬間、多くのファンが「あぁ…」とため息をついたことでしょう。

「やり切った」からこその誇り

レース後、ロマン・バルデは驚くほど冷静でした。チーム ピクニック・ポストNLのチームカーの傍らで、リカバリーライドをしながら語った彼の言葉は、多くのことを物語っています。「今日（水曜日）はチャンスがあると思っていた… ジロには4回出場して、これでステージ2位が4回目（2021年、2022年、2024年、2025年）。それでも、僕は誇りに思うよ」と、彼は静かに語りました。

勝利は逃したものの、彼には後悔がないというのです。「勝てなかったのは仕方ない。でも、僕がやるべきステージはやり切った。このジロで少なくとも一度はこういう走りをしたかったんだ、それができた」。この言葉の裏には、34歳という年齢で、自身のキャリアの終盤を迎えつつあるベテランの覚悟と、自ら定めた目標を達成した満足感がにじみ出ていました。勝利だけがすべてではない。自身の力を出し切り、レースを動かすことこそが、彼にとっての「やり切った」意味なのでしょう。この潔さ、ベテランならではの境地といったところでしょうか。

計算し尽くされた戦略と、勝者の壁

今回のロマン・バルデの走りは、まさにベテランの知恵と経験が凝縮されたものでした。モルティローロ峠の上りや下りでは、無駄な体力を消耗しないよう、冷静にペースを管理。そして、勝負どころと見た最後の登坂で渾身のアタックを仕掛けました。しかし、そこに立ちはだかったのは、イサーク・デルトロとリチャル・カラパスという、今大会の総合優勝を争う二大巨頭でした。

「3人での最終局面でも、彼らが追いついてきた時も、まだ僕は勝てると信じていたんだ」と、ロマン・バルデは明かしています。ボルミオのフィニッシュ手前は非常にテクニカルなコースで、路面が濡れ始めていたことも、彼にとってはチャンスと映ったのでしょう。しかし、「デルトロはロケットのように突っ込んできた。2km手前のS字カーブでの彼のコーナリングアングルは、今まで見たことがないほどだった」と、その驚異的なスキルを語っています。一瞬の判断と技術の差が、勝敗を分けた瞬間でした。彼はカラパにはスプリントで勝ったものの、デルトロの壁はあまりにも高かった。それでも、彼は「後悔はない」と言い切ります。これぞプロの矜持、ですね。

終わらない「バルデ劇場」の余韻

今大会のジロで、ロマン・バルデは第8ステージ、第15ステージでも積極的にアタックを仕掛けていました。「これ以上は出せないというくらい出し切った」と語る彼の言葉は、決して大げさではありません。彼は常にレースを面白くしようとし、自らの限界に挑み続けているのです。

「フィジカル的にはこれ以上は無理だと思うけど、違う走り方をすれば勝てると思う」と、以前の休息日に語っていたロマン・バルデ。今回の第17ステージでの走りは、まさにその「違う走り方」を実践した結果だったのではないでしょうか。ボルミオでの勝利は惜しくも逃しましたが、彼の諦めない姿勢と、常にレースを動かそうとする「バルデ劇場」は、私たちファンに大きな感動を与えてくれました。6月15日のクリテリウム・デュ・ドーフィネで、彼はプロロード選手としてのキャリアに終止符を打つ予定です。彼の最後のレース、どんな走りで私たちを魅了してくれるのか、今から胸が高鳴りますね！

締めくくりに、ロマン・バルデの言葉をもう一度思い出しましょう。「勝てなかったのは仕方ない。でも、僕がやるべきステージはやり切った」。この言葉は、私たち自身の挑戦にも通じるものがあるのではないでしょうか。結果だけでなく、その過程でどれだけ力を出し切れたか。彼が教えてくれたサイクリズムの真髄を胸に、これからもレースを追い続けたいと思います。次回の記事もお楽しみに！