プロドム氏『18歳の頃はまだ電気技師でした』

涙と栄光のチャンポルック：遅咲きクライマーの覚醒

ジロ・デ・イタリア第19ステージ、イタリア北部の山岳地帯、チャンポルックへと至る道は、まさに地獄絵図でした。5つの峠を越え、獲得標高は実に4950m。グランツール終盤のこの過酷なコースで、28歳のフランス人、ニコラ・プロドム（デカトロン・AG2Rラモンディアール チーム）が独走勝利を飾ったのです。ゴールラインを越えた瞬間、彼は静かに、しかしとめどなく涙を流しました。疲労と、そして信じられないほどの喜びが入り混じった、純粋な感情の奔流でした。

「信じられない。まだ完全に実感が湧きません。この勝利は、チームだけでなく、僕自身のこれまでの道のり全てへのご褒美です」。彼はそう語り、晴れやかな笑顔を見せました。レースはスタート直後からアタック合戦となり、プロドムはほぼ0km地点から逃げ集団に加わると、その後も頻繁にアタックを繰り返し、まさに自らの力で勝利を掴み取ったのです。この日の勝利は、彼がこれまで歩んできたキャリアを、別次元へと押し上げるものとなるでしょう。フランス人選手としては10日以上ぶりに総合16位という成績も立派ですが、彼の真価は、その粘り強く、そして報われなかった努力が、ついに日の目を見たという点にあります。長年チームのために走り続けてきた「永遠のアシスト」が、ついにスポットライトを浴びた瞬間でした。

遅咲きの才能、覚醒の時：メンタルが拓く新境地

プロドムは、ジロに臨むにあたり、自身の好調を予感していたと明かしています。その確かな「サイン」となったのが、4月25日にステージ優勝を果たしたツール・デ・アルプスでした。彼はそこでポール・セクサスを抑えて勝利をもぎ取ったのですが、「あれが僕の意識を変えるきっかけになったんです」と振り返ります。登りでペダルを踏み込むたびに脚が応えてくれる手応えを感じ、ジロの日々が過ぎるにつれて、チャンスが少なくなっていく焦りも感じていたそうです。

「もっと大胆にならなければと。これまで逃げに乗っても、2度も5位に終わっていたんです。だから今日（金曜日）はリスクを冒そうと決めた。試してみたら、勝てた。クレイジーなことです」。彼の言葉には、これまでの葛藤と、それを乗り越えた清々しさがにじみ出ていました。この「意識の変化」は、まさに精神的な成長でもあります。「ここ数週間で、僕のキャリアは大きく変わりました。ツール・デ・アルプスでの初勝利も大きかったけれど、ジロでの勝利は別格です。2年前なら、グランツールでは『悪くない結果』を出すことを目標にしていました。でも今は、ステージ勝利を狙って走れると感じる。以前なら、今日一緒に走っていた選手たちに、絶対にアタックなんて仕掛けられなかったでしょうね」。この言葉は、彼の自信が確固たるものになったことを示しています。チーム内での立場も変わり、「このジロでは自由を与えられていました。チャンスを掴めると思っていたんです。これまではアシストが主な役割でしたし、それはそれで不満はありませんでしたが、4月の勝利のおかげで、皆が僕をより信頼してくれるようになった。僕を助けようとモチベーションを上げてくれるんです」。

18歳は電気工：異色のプロロード人生

現代のロードレース界では、10代でプロ契約を結び、すぐにトップレベルで活躍する選手も珍しくありません。しかし、ニコラ・プロドムのキャリアは、そうしたエリート街道とは大きく異なります。

「そうですね、18歳の時にはまだ電気工でしたからね。プロなんて程遠い存在でした。パワーメーターすら持っていなかったんじゃないかな」。彼の言葉には、驚きを隠せない日本のファンも多いのではないでしょうか。彼はプロになるのが遅かっただけでなく、高等技術者免状（BTS）を取得し、見習いとしてHP BTP-Auber 93、AG2R La Mondiale、そしてコフィディスという3つのチームを渡り歩きました。エリート教育を受けた若手選手たちとは異なり、彼には多くのことを学ぶ必要がありました。「シャンベリー・シクリスム・フォーメーション（育成チーム）に入った2018年当時、学ぶべきことは山ほどありました」。しかし、その遠回りとも思える道のりが、彼に独自の強みをもたらしています。「この道のりがあったからこそ、今でも成長し続けられるのかもしれません。肉体的な成長曲線はまだ上向きだと感じていますし、スランプに陥ったこともありません」。

汗と情熱が拓いた道：プロドムが語る「感謝」

電気工としての経験は、プロドムにとって人生の大きな財産となっているようです。「自転車以外の世界を知っているのは良いことですよ。見習い時代は、週に少なくとも35時間は働いて、給料は600ユーロくらいだったと記憶しています。だから、今、自分の情熱で生計を立てられることが、どれほど素晴らしい幸運か、心から実感しています」。彼は、プロトンの中で「このことを意識している唯一の選手かもしれないし、こういう経験をした唯一の選手かもしれない」と語ります。

中学校を卒業後、彼は職人のもとで家庭用電気の見習いをしながら職業高校に通いました。その後、工業用電気のBTSを取得し、生産ラインのメンテナンスに従事。仕事は気に入っていたものの、自転車への情熱は常にそこにあったと言います。転機が訪れたのは、シャンベリー・シクリスム・フォーメーションに入る前年、エスポワール2年目の時でした。CM Aubervilliers（Auber 93の育成チーム）に所属していた時に「Gislard」というレースで勝利を収め、そこからプロのレースにもいくつか出場する機会を得ました。「プロの世界は手の届くところにあるけれど、もっと努力が必要だと感じました。それまでは、仲間と楽しむための、気楽な自転車でしたからね」。

プロ入り当初は、14、15歳からプロとして自転車に乗ってきた選手たちとの「大きなズレ」を感じたそうです。「彼らは一度も働いたことがなく、学校を卒業したらすぐに自転車だけ。でも、夏休みだけでも働く経験は、人間としての成熟を大きく促すと思います。僕にとってはそれがプラスになりました。キャリアを軽んじないためのモチベーションとコミットメントになった。努力する価値が本当にあると知っているんです。それが僕を地に足の着いた人間にしてくれていると思います」。

皆さんはどう感じるだろうか？ 彼の言葉は、単なるレースレポートを超え、人生における努力と情熱の価値を教えてくれているように思います。

次なる驚きへの期待

ニコラ・プロドムのジロ・デ・イタリアでの勝利は、彼が「遅咲き」であること、そしてそのキャリアパスがどれほどユニークであるかを世界に知らしめました。電気工として汗を流し、地道な努力を重ねてきた彼だからこそ、今、プロの舞台で輝く喜びを人一倍感じているのでしょう。彼の勝利は、私たちファンに「努力は報われる」という確かなメッセージを届けてくれました。この感動的な物語は、まだ序章に過ぎません。グランツールで覚醒したニコラ・プロドムが、これからどんな「なるほど！」や「そうだったのか！」を私たちに見せてくれるのか、今から楽しみでなりませんね。