プレビュー：2025年男子オランダ選手権ロードレース - クーイとフロネウェーヘンのスプリント対決再び？

開催地変更の舞台裏：NATOサミットが招いた波乱

今年のオランダ選手権は、当初ナイメーヘンとマルテ・ベルグエドセス＆ダルの周辺で開催される予定でした。しかし、今年の2月初旬に突如、開催地の変更が発表されたのです。その理由は、なんとハーグで開催されるNATOサミットによる「警察官不足」。これには私も驚きましたね。主要な国際会議が、国内選手権の開催にまで影響を及ぼすとは、まさに「想定外の事態」と言えるでしょう。

急遽、KNWU（オランダ自転車競技連盟）とオーガナイザーのクーラージュ・イベントは代替地を探し、最終的にエーデでの開催が決定しました。エーデはこれまでシマック・レディース・ツアーのスタート・フィニッシュ地点として活用されてきた場所で、女子選手には馴染み深い41kmの周回コースが設定されます。男子はこれを4周し、総距離は164km。これは過去50年間で最も短いオランダ選手権のコースとなります。

コース自体は非常に平坦で、周回あたりわずか115mの上りしかありません。2019年にファビオ・ヤコブセンが優勝したエーデのコースとは異なり、今回は街の北部を巡るルート。一見すると、純粋なスプリンターにとって絶好のチャンスに見えますが、果たしてそう簡単に決着がつくでしょうか？オランダ選手権は、常に「NKの法則」とも呼ばれる予測不能な展開を見せてきましたからね。

スプリンター有利のコース、しかし「NKの法則」に注意

164kmという短距離、そしてほぼ平坦なコース。もしこれがワールドツアーレベルの通常のステージレースであれば、間違いなく集団スプリントで決着するでしょう。しかし、オランダ選手権はそうはいかないのが常です。なぜか？その最大の要因は、各チームの参加人数にあります。

ワールドツアーレースでは、各チームが強力なスプリントトレインを組んでレースをコントロールできますが、国内選手権では多くのチームが少人数での参戦となります。スプリンターを擁するチームは、集団をまとめるための「アシスト」が不足しがちです。一方で、スプリンターを持たないチームは、集団スプリントを避けるために序盤から積極的にアタックを仕掛け、レースを混沌とさせようとします。この「少数精鋭 vs. 多様な思惑」の構図が、オランダ選手権を常に予測不能でエキサイティングなものにしているのです。

特に今年のコースは、わずかな起伏しかなく、逃げを捕らえるには組織的な追走が必要。しかし、その組織力が欠如しやすいのが国内選手権の宿命です。スプリンターたちは有利なはずのコースで、逆に孤立無援の戦いを強いられる可能性も大いにあります。「確かに！」と唸るような、意外な展開が待ち受けているかもしれませんよ。

頂点を目指すスプリンターたち：譲れない栄光

それでも、やはり注目はスプリンターたちに集まります。特に、このエーデの地で連覇を狙う王者と、その座を奪い返したい若き才能の対決は必見です。

まず、現チャンピオンのディラン・フルーネウェーヘン（チーム ジェイコ・アルウラー）。32歳にして77勝という輝かしいキャリアを持つ、オランダが誇るトップスプリンターです。今シーズン序盤は勝利から遠ざかっていましたが、5月のツール・ド・ハンガリーで待望の初勝利を挙げ、ツール・ド・スロベニアでも2勝をマーク。調子を上げてきています。しかし、直近のコペンハーゲン・スプリントではスプリントを早仕掛けし、失速して7位に終わるという珍しいシーンもありました。「あれは単なるアクシデントだったのか？」彼のコンディションと戦略が、連覇の鍵を握るでしょう。チーム ジェイコ・アルウラーは、エルマール・ラインダルス、イェルテ・クラインセン、クーン・ボウマンといった強力なアシスト陣を揃え、彼を支えます。

対抗馬の筆頭は、チーム ヴィスマ・リースアバイクの若きエース、オラフ・コーイ。23歳の彼は、過去2大会連続で2位という悔しい結果に終わっています。昨年もフルーネウェーヘンに惜敗しただけに、今年は雪辱に燃えているはずです。ジロ・デ・イタリアでは2勝を挙げるなど、ワールドツアーレベルでの実績も十分。コペンハーゲン・スプリントでは落車に見舞われましたが、幸い大きな怪我はなく、このNKに向けて万全を期していることでしょう。チーム ヴィスマ・リースアバイクは、ディラン・ファンバーレ、ウィルコ・ケルデルマン、バルト・レメン、タイメン・フラート、ルー・ファンベレ、メノ・ハイシングと、まさに盤石の布陣。彼らがコーイを勝利へと導くトレインを組めるか、注目です。

そして、ジロ・デ・イタリアで大番狂わせの勝利を挙げたのが、チーム ピクニック・ポストNLのカスペル・ファンウーデンです。レッチェでの第4ステージ勝利は「そうだったのか！」と多くのファンを驚かせました。好不調の波がある選手ですが、爆発力は折り紙付き。ニルス・エーコフ、ブラム・ウェルテン、ティモ・ローセンといった経験豊富な選手たちが彼を支え、強力なスプリントトレインを形成するでしょう。彼が勝てば、1年間「赤白青」のナショナルチャンピオンジャージを着用することになります。

他にも、単独での勝負に強い選手たちが虎視眈々とチャンスを狙っています。EFエデュケーション・イージーポストのマライン・ファンデンベルフ den マルテ・ベルグエドセスは、ルーツ・ドクシタニでステージ優勝を飾るなど好調を維持。レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのダニー・ファンポッペルは、世界屈指のリードアウトマンですが、自らスプリントを決められる能力も持ち合わせています。チューダーのマイケル・ゼイラートも同様に、リードアウトから自身の勝利を狙えるタイプです。 アスタナ・カザクスタン チームは、ケース・ボルとマイク・トゥーニッセンという二枚看板を擁しています。純粋なスプリント力ではボルに軍配が上がりますが、少人数のグループであればトゥーニッセンも侮れません。

虎視眈々とチャンスを狙うアタッカーたち

平坦なコースとはいえ、オランダ選手権ではスプリンター以外の選手にも十分にチャンスがあります。特に注目したいのは、攻撃的な走りを身上とする選手たちです。

21歳のマルチタレント、ティボール・デルフロッソ（アスタナ・カザクスタン チーム）は、今年のツール・ド・トルコでプロ初勝利を挙げ、ドゥラセル・ドワース・ドール・ヘット・ハーヘラントで3位、アントワープ・ポート・エピックで5位と、厳しいレースで結果を残しています。彼は単にスプリントが速いだけでなく、レースを「揺さぶる」ことを厭わない積極的な選手です。昨年のU23での優勝経験も自信になっているでしょう。「へぇ～」と唸るような、彼の大胆なアタックが見られるかもしれません。

アンテルマルシェ・ワンティのフープ・アルツやタコ・ファンデルホールン、リドル・トレックのダーン・ホーレやバウケ・モレマ、ユニベット・ティテマ・ロケッツのハータイス・デフリース、Q36.5プロサイクリング チームのシュールト・バックス、カハ・ルラル・セグロスRGAのアレックス・モレナール、スーダル・クイックステップのパスカル・エインコールンなど、スプリンターを気にせず自由に走れる選手たちは、果敢にアタックを仕掛けてくるでしょう。彼らは「なるほど！」と思わせるような、戦術的な駆け引きを見せてくれるはずです。

さらに、プロコンチネンタルチームやコンチネンタルチームの選手たちも侮れません。メテック・ソーラーワット p/b マンテル、ディフタル、パークホテル・ファルケンブルフ、ビート・サイクリングといったチームの選手たちは、この国内選手権で一発を狙っています。イェスパー・ラッシュ、ダーン・ファンシントマールテンスダイク、クーン・フェルメルトフォールト、ステファン・フェルホフ、サラ・ローイ・イーフティング＝ブルーム、そしてユニベット・ティテマ・ロケッツのマルティン・ブディングなど、彼らも集団スプリントで上位に食い込む力を持っています。

天候とテレビ中継：観戦のポイント

レース当日の土曜日は、選手たちにとって最高のコンディションが期待できそうです。天気は晴れ時々曇りで、気温は27度前後と夏らしい一日になりそうです。風は南西からやや強めに吹く予報（ビューフォート度4）で、これがレース展開にどう影響するか、興味深いところです。向かい風区間では集団のペースが落ち、アタックのチャンスが増えるかもしれません。

この注目のレースは、日本時間では夜遅くになりますが、オランダ国内ではNOSで生中継されます。SNSではすでに「有力選手がNKに出ないのはWK選考に影響すべきだ！」といった議論も巻き起こっており、ファンも熱い視線を送っています。

さて、スプリンター有利の平坦コースながら、「NKの法則」が発動し、アタッカーが勝利を掴むのか？それとも、現王者ディラン・フルーネウェーヘンが貫禄の連覇を果たすのか、それともオラフ・コーイが念願の「赤白青」ジャージを掴むのか？予測不能なオランダ選手権は、サイクルロードレースの奥深さを改めて教えてくれることでしょう。私も現地の友人たちからの情報に耳を傾けながら、この戦いの行方を見守りたいと思います。次回のレポートもお楽しみに！...