2025年NK女子ロード展望：ウィーベス、フォス、ブレーデウォルツ、次なる女王は？

オランダ女子ロードレースの「小さな世界選手権」

オランダ選手権ロードレースは、毎年そのレベルの高さから「小さな世界選手権」とまで呼ばれるほど、国内外の注目を集めます。グランツールを追いかける私としても、この国の女子選手層の厚さには常に驚かされます。世界トップクラスの選手たちが、自国のナショナルタイトルをかけて激突するのですから、その熱気たるや想像に難くありません。今年は2025年6月28日、エーデを舞台に開催されます。昨年の王者、シャンタル・ファンデンブルーク＝ブラークに続く新たなチャンピオンは誰になるのでしょうか？そして、誰もがその勝利を疑わないロレーナ・ウィーベスの牙城を崩すことができる選手は現れるのか、そこが最大の焦点となるでしょう。

歴史が語る名勝負、そして昨年の感動

オランダ選手権の歴史を紐解くと、そこには数々の名選手たちの名前が刻まれています。デミ・ボディネ・フォレリング、リーアンヌ・マルクス、エイミー・ピータース、アンナ・ファンデルブレッヘン、アヌースカ・コステル、ルシンダ・ブラントといった、現代ロードレースを代表する選手たちがこのタイトルを獲得してきました。特に、昨年のアルンヘムでの大会は、引退を控えていたシャンタル・ファンデンブルーク＝ブラークが、そのキャリアの集大成とも言える見事なソロアタックでタイトルを獲得しました。彼女のフィジカルと戦術眼が完璧に噛み合った、まさに「最後の本当の妙技」でしたね。表彰台での彼女の表情は、長年の経験と、この特別な勝利に対する深い満足感に満ち溢れていました。チーム SDワークス・プロタイムの鉄壁の連携が、彼女の勝利を後押ししたことは言うまでもありません。

鍵を握るエーデのコースと知られざる歴史

今年の舞台はエーデ。2019年にもナショナルチャンピオンシップが開催されたこの地は、ロレーナ・ウィーベスが力強いスプリントで勝利を収めた場所としても知られています。コースは一見すると平坦に見えますが、決して侮れません。3周回で合計122km、1周あたりわずか115mの獲得標高差と聞けば、集団スプリントが濃厚だと考える方もいるでしょう。しかし、侮るなかれ。このコースの終盤には「パーズベルフ」という緩やかな上り坂が待ち受けています。ここが勝負の分かれ目となるでしょう。2019年のロレーナ・ウィーベスも、この上り坂でライバルを突き放しました。 また、このパーズベルフ周辺には、第二次世界大戦の解放記念碑や戦没者墓地など、歴史的な場所が多く点在しています。ウェーケロムというスタート/フィニッシュから10kmの場所は、かつてツール・ド・フランスのステージ優勝者であり、アメリカ代表チームの監督も務めたヘニー・トップの生誕地だそうです。もちろん、レース中の選手たちがこれらの歴史に思いを馳せることはないでしょうが、こうした背景を知ると、レースの舞台がより立体的に見えてくるものです。平坦に見えるコースでも、シマック・レディース・ツアーの例のように、少人数の逃げ集団がメイン集団を振り切る可能性も十分にあります。「チャンピオンシップは予測不能なレース」とよく言われますが、まさにその通りなのです。

女王ロレーナ・ウィーベスか、それとも…？優勝候補たちの戦略

今年の最大のテーマは、「いかにしてロレーナ・ウィーベスを倒すか」に尽きるでしょう。彼女をフィニッシュラインまで連れて行ってしまえば、ほとんどの選手に勝ち目はありません。チーム SDワークス・プロタイムは、この点で非常に有利なポジションにいます。ロレーナ・ウィーベスがゴールスプリントで決める、という明確なオプションがあるからです。 しかし、彼女だけがチームの武器ではありません。ロレーナ・ウィーベスと瓜二つのルックスで知られるフェムケ・ヘリッツェもまた、非常に速いスプリンターです。そして、何よりも注目すべきは、ミーシャ・ブレーデウォルツでしょう。彼女はタイムトライアル能力も高く、単独でのアタックも得意とします。さらに特筆すべきは、彼女が持つ「キラーインスティンクト」です。レースを締めくくる、あの独特の嗅覚は天性のもの。もし彼女がロードとタイムトライアルの両方でナショナルタイトルを獲得すれば、レオンティエン・ファン・モルセル（1998年、1999年）やマリアンヌ・フォス（2011年）といった伝説的な選手たちと肩を並べることになります。これは「へぇ～」と思わせるような、非常に興味深いトリビアですよね。 もちろん、チームSDワークス・プロタイムも絶対ではありません。近年、他チームも着実に力をつけており、その牙城を崩すべく虎視眈々と狙っています。 その筆頭が、チーム ヴィスマ・リースアバイクに所属する「史上最高の選手」マリアンヌ・フォスです。ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス・ファムを控える彼女にとって、このNKは重要な調整レースとなるでしょう。昨年は47位と振るいませんでしたが、これは彼女にとって「ありえない」順位です。私から言わせれば「おいおい、そんなことあっていいのか！」というレベルです（皮肉ですよ、もちろん）。彼女が「スーパーコンペンセーション（超回復）」を果たし、自身5度目のナショナルタイトルを獲得する可能性も十分にあります。また、チーム ヴィスマ・リースアバイクにはニンケ・フェインホーフェンという若き才能もいます。今年に入ってからのスプリントでの活躍は目覚ましく、ヘント〜ウェヴェルヘムでの鎖骨骨折がなければ、さらに多くの結果を残していたでしょう。ロレーナ・ウィーベスとの直接対決は厳しいかもしれませんが、展開次第では彼女が浮上する可能性も秘めています。さらに、エヴァ・ファンアハトのような逃げ巧者もおり、チーム ヴィスマ・リースアバイクは多様な戦略を立てられる強みがあります。 ロレーナ・ウィーベスを、正規のスプリントで打ち破った選手も存在します。ピクニック・ポストNLのシャーロッテ・コールがその一人です。2023年にはエーデでのプロローグで勝利を収め、ツール・ド・フランス・ファムの開幕日、ロッテルダムの市街地で驚異的なスプリントを見せつけました。人生に「絶対」がないように、ロードレースにも「絶対」はありません。 他にも、多くの選手がこのタイトルを狙っています。UAE・チーム・ADQのカーリーン・スウィンケルスは、怪我からの復帰後、調子を上げてきています。リブ・アルウラー・ジェイコからは、クインティ・トンやシルケ・スムルデルスが、比較的静かな環境から上位に食い込むかもしれません。また、フォルカーヴェッセルズ・ウィメンズプロサイクリング チームも強力なブロックを形成しています。スカーレット・スーレンのようなスプリンターに加え、アンネケ・ダイクストラやエリーネ・ヤンセンも今シーズンすでに勝利を挙げています。特にエリーネ・ヤンセンは、このNKでサプライズを起こす可能性を秘めた、要注目の選手です。彼女が2019年にこのチーム（旧パークホテル・ファルケンブルフ）で勝利を挙げたことを考えると、「なるほど、そうだったのか！」と膝を打つような背景があるのです。 さらに、イルゼ・プルイマース、マイリーン・デ・ゾーテ、フロールチェ・マッカイ、リーケ・ノーイェン、マイケ・ファンデルドゥイン、ダニエク・ヘンゲフェルトといった選手たちも、常に上位争いに加わる実力者たちです。ルース・アドヘースツは過去数年、常に4位という惜しい結果が続いていますが、今年こそは表彰台、いや優勝を狙っていることでしょう。 本当に、今年も誰が勝ってもおかしくない「選択肢が多すぎる」大会となりそうです。

天候とテレビ放送、そして最後の問いかけ

大会当日の土曜日は、天気予報によれば晴れ間が広がり、気温は27度まで上昇する見込みです。風は西南西から3ボフォールと穏やか。絶好のレース日和となりそうですね。 この熱戦は、NOSのNPO1とNOS.nlで午前11時からライブ放送されます。日本の皆さんも、ぜひテレビやストリーミングで、この「小さな世界選手権」の白熱した展開を見届けてください。 さて、皆さんの優勝予想は誰でしょうか？ロレーナ・ウィーベスが順当にスプリントで勝利を飾るのか、それとも伏兵が飛び出し、番狂わせを演じるのか。私としては、ミーシャ・ブレーデウォルツの「ダブルタイトル」に密かに期待を寄せているのですが、皆さんはどうお考えでしょうか？...