フール『信じられない、思いがけない』

ジロ・デ・イタリア第10ステージ、ダーン・ホーレが掴んだ「クレイジー」な勝利

ジロ・デ・イタリアは、常にドラマを生む舞台です。美しいイタリアの風景の中、選手たちは熾烈な戦いを繰り広げますが、時に予期せぬ展開が訪れます。今回の第10ステージ、ルッカからピサまでの26.8km個人タイムトライアルで勝利を飾ったのは、Lidl-Trekのダーン・ホーレでした。26歳のオランダ人ライダーにとって、これはグランツールでのキャリア初のステージ優勝。その喜びを語る姿からは、「本当に自分が勝ったのか？」という驚きと、目標を達成した確かな喜びが伝わってきました。

雨が分けた明暗？ タイムトライアルの不確定要素

今回のタイムトライアルは、コース自体は比較的平坦で、スペシャリスト向けと言えるレイアウトでした。しかし、レース後半に雨が降り出したことが、結果に大きな影響を与えたのは間違いないでしょう。ダーン・ホーレは早い時間帯に走行し、まだ路面が乾いているうちにフィニッシュしました。一方、マリアローザを着るイサーク・デルトロを含む総合上位の選手たちは、雨で濡れた路面での走行を強いられたのです。

「午後に雨が降る可能性は分かっていたが、自分のタイムトライアルに集中した。天気アプリをずっと見ていたわけではないよ」とホーレは語っています。彼は、後の選手たちの天候不利は「どうすることもできない」としながらも、「通常は最も速い選手が勝つ」というタイムトライアルの原則に言及しました。

タイムトライアルにおいて、天候、特に雨は最大の不確定要素です。乾いた路面と濡れた路面では、コーナーリングのスピードやブレーキのかけ方、そしてメンタルへの影響が全く異なります。私もこれまで多くのタイムトライアルを取材してきましたが、こうした天候による番狂わせは、グランツールのような長丁場のレースではしばしば見られます。ホーレの勝利は、彼の素晴らしいパフォーマンスはもちろんですが、この「運」の要素も味方につけた結果と言えるでしょう。

Lidl-Trekの勢いとチームの結束力

ダーン・ホーレの勝利の背景には、チーム全体の良い雰囲気があるようです。彼は「チームには本当に素晴らしい精神がある。みんなが高いレベルにいて、ステージ優勝できる選手が何人もいるんだ」と語り、その一員として勝てたことを特別視しています。Lidl-Trekは今シーズン、各レースで積極的な走りを見せており、チーム全体の士気が高いことが伺えます。

「勝利は何度も何度も考えたことで、それが現実になった。この目標を達成できて本当に嬉しい」というホーレの言葉からは、彼がこの日のためにどれだけ準備し、勝利を渇望していたかが伝わってきます。彼の「クレイジーで予想外」という言葉は、彼自身のポテンシャルに対する謙虚さも感じさせますが、同時に、この勝利が彼にとってどれほど大きな意味を持つかを物語っています。チーム内のポジティブな競争と結束力が、個々の選手のパフォーマンスを押し上げている。Lidl-Trekの強さの秘訣を垣間見た気がします。

ツール組からの温かい祝福

レース後、ダーン・ホーレはチームメイトであるジョナタン・ミランとシモーネ・コンソンニからビデオ電話を受けたと明かしました。彼らは現在、ツール・ド・フランスに向けてネバダでトレーニングキャンプを行っているとのこと。

「彼らは落ち着いて結果を待つようにと言ってくれたけど、一番は瞬間を楽しむことだと。去年のジロで彼らとは本当に素晴らしい思い出をたくさん作ったから、今度は僕がこのジロで勝ったことを祝福してくれたんだ」

このエピソードは、チーム内の温かい絆を象徴しています。離れた場所でそれぞれの目標に向かっていても、チームメイトの成功を心から喜び合う。これは、ロードレースという個人競技でありながらチームスポーツであることの魅力の一つです。特に、昨年のジロで活躍した二人が、今年のジロで勝利を掴んだホーレを祝福するというのは、ファンにとっても感動的なシーンではないでしょうか。

今回のダーン・ホーレの勝利は、ジロ・デ・イタリアというレースの奥深さ、そしてプロトンに存在する選手たちの人間ドラマを改めて感じさせてくれました。マリアローザ争いはまだまだ続きますが、こうしたステージ優勝をかけた戦いにも注目しながら、今後のジロを楽しんでいきたいですね。