普通ではない」女子ブエルタのオランダ支配にデュムランが警鐘

「異常だ」デュムランが指摘する女子ブエルタのオランダ勢圧勝劇とその背景

皆さん、こんにちは。山田 健一です。グランツールを中心に追いかける私の目から見ても、今年のブエルタ・エスパーニャ・フェメニーナで繰り広げられた光景は、まさに圧巻、いや、ある種の「異常さ」を孕んでいたと言えるかもしれません。最終的な総合優勝は、圧倒的な強さを見せたDemi ボディネ・フォレリング（レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ）でしたが、ステージウィナーの顔ぶれを見て、思わず唸ってしまった日本のファンも多かったのではないでしょうか。そう、ステージ勝利は、チームタイムトライアルを制したLidl-Trekを除き、すべてオランダ人選手が独占したのです。

この「オランダ勢による完全支配」とも言える結果を受けて、元プロ選手であるTom Dumoulinが、自身のポッドキャストで率直な懸念を表明しています。彼の言葉には、この現象が女子ロードレース全体の発展にとって、必ずしも良い兆候ではないのではないか、という問いかけが含まれていました。今日の記事では、このオランダ勢の強さと、それにTom Dumoulinが投げかける波紋について、私の視点から深掘りしてみたいと思います。

オランダ勢による圧倒的な支配

今年のブエルタ・エスパーニャ・フェメニーナは、まさにオレンジ一色に染まったと言っても過言ではありません。開幕のチームタイムトライアルこそLidl-Trekが勝利を飾りましたが、それ以降の全ステージをオランダ人選手が制覇しました。

マリアンヌ・フォスが2ステージ、フェムケ・ヘリッツェが1ステージ、Anna van der Breggenが1ステージ、そして総合優勝を果たしたDemi ボディネ・フォレリングが山岳ステージを含む2ステージを勝利。文字通り、スプリンターからクライマーまで、あらゆるタイプのオランダ人選手が勝利を掴み取ったのです。もちろん、彼女たちが世界のトップレベルであることは疑いようがありません。特にDemi ボディネ・フォレリングの圧倒的なクライミング力と、マリアンヌ・フォスの衰えを知らないスプリント力は、世界の女子ロードレースを牽引する存在です。しかし、これほどまでに特定の国の選手が勝利を独占するというのは、確かに近年では珍しい光景だったと言えるでしょう。

デュムランが抱く懸念

この結果をじっと見つめていたTom Dumoulinは、自身のポッドキャスト「De Grote Plaat」の中で、素朴な疑問を投げかけました。「Anna（Van der Breggen）は、数年ぶりにレースに復帰したばかりだから、ツール・ド・フランスに向けてまだ成長の余地があるだろう」と希望を語る一方、「Demi（ボディネ・フォレリング）は今が最高のレベルで走っている。彼女がツールで急に10%も強くなるとは思えない」と現実的な見方を示しました。

そして、ブエルタでのオランダ勢の全ステージ勝利に触れ、「それは異常ではないか？」と問いかけます。これは、彼が女子ロードレースの現状、特にトップ層とそれ以外の選手の間に存在するレベル差について感じている率直な感想でしょう。スケート競技でオランダがメダルを独占し、「小さなスポーツだ」と言われる状況になぞらえ、このブエルタでの結果もまた、女子ロードレースがまだ「成長曲線」の途中にあることを示しているのではないか、と彼は指摘するのです。この「異常だ」という言葉の裏には、女子ロードレースのさらなる発展を願う彼の気持ちが見え隠れしているように感じます。

女子ロードレースの成長痛か？

Tom Dumoulinは、この状況を「悪い兆候」だと述べています。特定の国の選手がこれほどまでに支配的であることは、競争の多様性や、他の国の選手のモチベーションという点で、長期的に見て健全ではない可能性がある、ということでしょう。

もちろん、女子ロードレース自体は近年、目覚ましい発展を遂げています。プロチームが増え、給与水準も向上し、トレーニング環境も整備されてきました。ブエルタ・エスパーニャ・フェメニーナに出場した選手の中にも、高いプロ意識を持ち、献身的に競技に取り組むトップレベルの選手が数十人いる、とデュムラン自身も認めています。「多くの男子選手が見習うべきプロフェッショナリズムだ」とまで言っていますから、トップレベルの高さは彼も評価しているのです。

しかし、その一方で、トップレベルの選手と、それ以外の選手の間に大きな隔たりが存在していることも事実です。プロ化が進み、環境が整ったとはいえ、短期間で世界トップレベルの選手を大量に育成することは容易ではありません。このレベル差こそが、ブエルタで見られたような一方的な結果に繋がっている要因の一つであり、デュムランが「成長曲線」の途中にあると表現した所以でしょう。

ポジティブな発展と今後の課題

デュムランのコメントは、決して女子ロードレースの現状を否定するものではありません。むしろ、彼は近年の「巨大な発展」を高く評価しています。レースはより魅力的になり、トップアスリートたちのパフォーマンスは見る者を惹きつけます。

しかし、このスポーツがさらに大きくなり、真の意味で世界中のファンを熱狂させるためには、トップ層の厚みを増すこと、そして世界各国のレベルを底上げすることが不可欠です。そのためには、若い世代の育成、各国連盟のサポート体制強化、そしてより多くの国や地域での女子レース開催といった、長期的な取り組みが必要となるでしょう。

今回のブエルタ・エスパーニャ・フェメニーナで見られたオランダ勢の強さは、彼女たちのレベルの高さを示すと同時に、女子ロードレースが抱える「成長痛」の一面を浮き彫りにしたとも言えます。Tom Dumoulinの指摘は、女子ロードレースの未来を考える上で、非常に重要な示唆を含んでいるのではないでしょうか。

次なる舞台へ

ブエルタ・エスパーニャ・フェメニーナは閉幕しましたが、女子ロードレースシーズンはまだまだ続きます。そして何と言っても、次に控える大きな舞台はツール・ド・フランス・ファム・アベック・ズイフトです。

ブエルタでの結果を踏まえ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエを率いるDemi ボディネ・フォレリングが、ツールでもその強さを見せつけるのか？ それとも、他の国の選手たちが巻き返しを図り、より拮抗した戦いになるのか？ Tom Dumoulinが期待するAnna van der Breggenの更なる成長はあるのか？ そして、Lidl-TrekやMovistarといった強豪チームが、オランダ勢の牙城を崩せるのか？

今年のツール・ド・フランス・ファムは、ブエルタの結果を受けて、さらに注目度が増すこと間違いなしです。どのようなドラマが待っているのか、今から楽しみでなりません。皆さんもぜひ、今後の女子レースにご注目ください！