ポガチャル、いざ勝負の時

ポガチャル、沈黙を破るか？ ドーフィネのアルプス決戦がツールへの試金石となる3日間

クリテリウム・デュ・ドーフィネは、まるで巨大な謎解きゲームのようなものです。誰もが小さな手がかりを嗅ぎつけ、些細な動きすらも見逃すまいと目を凝らす。それは、今週のレースの行方だけでなく、1ヶ月半後に迫るツール・ド・フランスの未来を占うためでもあるのです。今回のドーフィネで、最も注目すべき「謎」は、やはりタデイ・ポガチャルでしょう。水曜日の個人タイムトライアルでまさかの失速を見せた彼が、このアルプスでの残り3日間で、一体どんな「答え」を導き出すのか。彼のプライドが、静かな言葉とは裏腹に、激しい反撃を命じる可能性も十分にあり得ます。日本のサイクルロードレースファンの皆さんも、きっと固唾を飲んで見守っていることでしょう。

タイムトライアルの衝撃とポガチャルの本音

ドーフィネの序盤戦で、誰もが目を奪われたのは、タデイ・ポガチャルが水曜日のタイムトライアルでレムコ・エヴェネプールに49秒もの差をつけられたという事実でした。これは、今大会における最初の、そして最も重要な「教訓」だったと言えるでしょう。彼の表情からは、確かに落胆の色が読み取れました。しかし、彼はすぐに「消火器」を取り出し、周囲のパニックを鎮めようと努めたのです。「ストレスはない」、それが彼の主なメッセージでした。

木曜の朝、サン＝プリエストの熱気の中で、彼はその理由を説明し始めました。「クラシックシーズンがあったから、高地ではグランツールや高山に備えるための基礎固めに集中した。だから、タイムトライアル特有の努力が足りなかったのかもしれない」と。彼はTTバイクには乗っていたものの、そこで本格的な努力はしていなかった、と認めたのです。これは、なるほど、と思わせる説明です。ツール・ド・フランスでは、タイムトライアルが勝敗を分ける重要な要素となるだけに、このドーフィネでのパフォーマンスは少なからず不安視されていました。しかし、彼は「ドーフィネ後には対策できる。昨日のパフォーマンスは分析済みで心配ない。ツールに向けて対策できるだろう。ツールでもタイムを失うかもしれないが、昨日ほどではないだろう」と語るスロベニア人チャンピオンの言葉は、非常に冷静でした。

ツールへの布石か、それともプライドか？

冷徹な分析はそう語るものの、タデイ・ポガチャル自身が水曜の夜、失望のあまり「週末はオールインする」と漏らしていたことも認めています。この「オールイン」という言葉に、彼の本音が垣間見えた、と私は感じました。もちろん、彼はその後「実際には緊急性はない」と主張し、総合でレムコ・エヴェネプールから38秒、ヨナス・ヴィンゲゴーから22秒の遅れに過ぎないと強調しました。「ここにはまだ3つの山岳ステージがある。脚のテストをするつもりだ」とポガチャルは木曜日に語っています。「もし可能なら（彼のチームUAEで）非常に厳しい一日を試すかもしれない。でも、パニックになる必要はない。当初から言っているように、このレースはリズムを取り戻すための準備が第一だ。もちろん、いつかドーフィネで勝ちたいが、今年でなくてもストレスにはならない。なぜなら、ツール・ド・フランスで最高の状態にいたいからだ」と。

この言葉は、彼のツール・ド・フランスへの揺るぎない集中を示しているように見えます。しかし、水曜日に傷ついた彼のプライドが、言葉とは異なる方向、つまり即座の反撃へと彼を駆り立てる可能性も、私は否定できません。彼が第1ステージで勝利を収めたとはいえ、ここまで最も印象的な走りを見せたのは、モンリュソンでのフィニッシュで鋭い切れ味を見せたチーム ヴィスマ・リースアバイクのデンマーク人、ヨナス・ヴィンゲゴーだったという見方もできます。あの時のヨナス・ヴィンゲゴーの動きは、確かに「へぇ～」と唸らせるものがありました。

チーム ヴィスマ・リースアバイクの数的優位が最大の脅威

レムコ・エヴェネプールは、自身のライバルであるタデイ・ポガチャルとヨナス・ヴィンゲゴーのどちらが危険か、という問いに対しては明確な答えを避けました。「彼らはどちらも非常に危険だ。過去に何度も証明されているから、区別はしない」と、マコンでの落車（幸い軽傷）から立ち上がったばかりのマイヨ・ジョーヌは語りました。この日はジェイク・スチュワートがスプリントを制し、レムコ・エヴェネプールの忠実なアシスト、ルイス・フェルヴァーケが落車で鎖骨を骨折するという、レムコ・エヴェネプールにとっての悪いニュースもありました。

しかし、レムコ・エヴェネプールが特に危険視するのは、チーム ヴィスマ・リースアバイクの数的優位です。ヨナス・ヴィンゲゴーはもちろんのこと、マッテオ・ジョーゲンソンも非常に調子が良く、総合8位でポガチャルとはわずか1秒差に迫っています。「それが最も危険だ」と、ドーフィネのリーダーは分析します。「彼らには、かつての（プリモシュ・）ログリッチとヨナス（・ヴィンゲゴー）のような数的優位がある。この2人の選手が上位にいることで、彼らは攻撃を仕掛けてくるだろう。だからタデイは、ある時点で選択を迫られ、彼自身も攻撃を仕掛けたいはずだ。それは面白い展開になるだろうし、私にとってもあの2人に対して自分がどこにいるかを知る良い機会になるだろう」と。確かに、これはチーム戦術において非常に重要な要素であり、レムコ・エヴェネプールの分析は的を射ています。

アルプス決戦へ！ドーフィネの行方とツールへの示唆

アルプスでの3日間の激闘が、私たちにいくつかの答えを与えてくれるでしょう。金曜日のコンブルーへの上りフィニッシュは、まさにアタックを誘うコースレイアウトです。「攻撃があると思うし、もし脚があれば私も試してみたい」とレムコ・エヴェネプールは木曜日の夜に語っていました。確かに、ドーフィネの総合争いはここからが本番です。

しかし、レムコ・エヴェネプールは警告します。「日曜の夜にはいくつかの答えが得られるだろうが、全てではない」と。彼は昨年の経験から、ドーフィネの真実が必ずしもシャンゼリゼの真実ではないことをよく知っています。このドーフィネは、ツール・ド・フランスに向けた最終調整の場であり、選手たちはまだピークを追い求めている最中なのです。SNS上でも、「ポガチャルはまだ調整段階で、ツールでは全く違うシルエットを見せるはずだ」というファンの声が多く見られます。そうだったのか！と思うような、彼の言葉の裏に隠された真意を探るのも、グランツール担当の私にとっての醍醐味です。果たして、ポガチャルはプライドをかけて反撃に出るのか、それともあくまでツールを見据えた「調整」に徹するのか？そして、チーム ヴィスマ・リースアバイクの数的優位は、レムコ・エヴェネプールを追い詰めることができるのか？

この週末、アルプスの山々で繰り広げられるドラマは、きっと今年のツール・ド・フランスの物語を占う上で、重要な序章となるに違いありません。日本のサイクルロードレースファンの皆さん、次もぜひご期待ください！