ポガチャル、痛恨の一日

ドーフィネTTの衝撃：ポガチャル、まさかの沈黙

フランス、クリテリウム・デュ・ドーフィネの個人タイムトライアルは、多くのファンに衝撃を与えました。この日の主役は、タイムトライアル世界王者レムコ・エヴェネプール。彼が圧倒的な走りでステージを制したのは当然と言えば当然なのですが、私が現地で目の当たりにしたのは、それ以上に「静かなる衝撃」でした。

レース後の駐車場の一角。タデイ・ポガチャル（UAEチームエミレーツ）は、ローラー台でクールダウンしながら、スタッフと何やら話し込んでいました。その表情は硬く、いつもの陽気な彼からは想像できないほど。結局、彼はメディアに一言も発することなく、チームの大型トラックへと姿を消したのです。監督たちもまた、多くを語りませんでした。この沈黙は、彼にとってこの日がどれほど不本意なものだったかを雄弁に物語っていました。

ヴィスマ・リースアバイクの盤石な連携と自信

一方で、この日の真の勝者は、チーム ヴィスマ・リースアバイクの二人でした。ヨナス・ヴィンゲゴーとマッテオ・ジョーゲンソン。トラックの傍らでクールダウンしていたジョーゲンソンは、私にこう語りかけました。「今夜はぐっすり眠れるよ。これ以上ないくらい最高の出来だったからね」。彼は、少し遅れて到着したヨナス・ヴィンゲゴーを心から称賛していました。

この日のタイムトライアルで、ヴィンゲゴーはレムコ・エヴェネプールに20秒差の2位、ジョーゲンソンも37秒差の3位と、素晴らしい成績を収めました。そして何より、彼らは最大のライバルであるタデイ・ポガチャルに対し、17kmという短い距離で約30秒ものタイム差をつけたのです。ヴィンゲゴーは、「正直、ポガチャルに少しはタイムを詰められると思っていたから、驚いたよ。良い一日だったね」と、控えめながらも確かな手応えを口にしました。グランツール担当として数々のレースを見てきましたが、このチームの連携と自信は、今シーズンも健在です。

ポガチャルの「戦略ミス」と機材への視線

レース後、チームを通じて発表されたポガチャルのコメントは、「序盤が保守的すぎた。もっとプッシュすべきだった」と、自身の戦略ミスを認めるものでした。しかし、それだけではないように感じます。プロトコルゾーンで、彼がライバルたちのバイクをじっと見つめていた姿は、私には「何か革新的な機材があるのではないか？」と探る、彼の焦りのようにも映りました。

メカニックの問題か、戦術か、あるいは単に脚の調子か。原因が何であれ、この日のポガチャルが三大総合優勝候補の中で「敗者」であったことは間違いありません。クリテリウム・デュ・ドーフィネは、ツール・ド・フランスの前哨戦として非常に重要な位置づけですが、このタイムトライアルは、まさに今大会の最初の大きな「ターニングポイント」となったと言えるでしょう。

山岳ステージで問われる真の力：ツールへの布石か？

初日のスプリント勝利こそ飾ったものの、それまでのポガチャルは、ライバルのアタックに追従する形で「エコノミー走行」に徹していました。火曜日のシャラントネ（イゼール県）へのパンチのあるフィニッシュでも、彼は静かにレースを進めていました。しかし、このタイムトライアルで、彼はチーム ヴィスマ・リースアバイクのヨナス・ヴィンゲゴーとマッテオ・ジョーゲンソンという強力な二人に挟み撃ちにされる形となりました。チームのスポーツディレクター、グリシャ・ニールマンが「我々は望む位置にいる」と語ったように、ヴィスマ・リースアバイクは自信に満ち溢れています。

週末には3つの山岳ステージが控えており、ジョーゲンソンが言うように、「このレースはいつものように山岳で決まる」でしょう。ヴィンゲゴーは、山岳でより強力なアシストに囲まれているように見えます。しかし、最高の状態のタデイ・ポガチャルならば、周りのサポートが少なくても十分に戦えるはずです。問題は、ツール・ド・フランス開幕まで3週間半を切ったこの時点で、彼がその「最高の状態」にあるのか、ということ。ニールマン監督も、「ポガチャルのタイムトライアルのレベルが通常のものではなかった」と囁いていました。金曜日から始まる3日間で、世界最高の選手がこの「誤解」を払拭できるのか。その動向に、世界中のサイクルロードレースファンが固唾を呑んで見守ることになるでしょう。

ファンからの声と今後の展望

今回のポガチャルのパフォーマンスについて、SNSやL'Équipeのコメント欄では活発な議論が交わされています。「ポガチャルについて早まった結論を出すべきではない」「ドーフィネの真実がツールの真実とは限らない」といった冷静な意見がある一方で、「ヴィンゲゴーの準備は万端」「このドーフィネはツールの試金石だ」といった声も聞かれます。

確かに、過去にはドーフィネを制しながらツールで苦戦した選手もいますし、ドーフィネで精彩を欠きながらツールで頂点に立った選手もいます。しかし、ポガチャルがこのタイムトライアルで示した「沈黙」は、彼自身に大きな課題を突きつけたことに他なりません。彼がこの結果をどう受け止め、残りの山岳ステージでどのような走りを見せるのか。そして、ツール・ド・フランスに向けて、どのような調整をしてくるのか。その反撃に、私は大いに期待しています。